『誰とでも寝るような そんな女の子が好きさ
くびれたウエストを持ってる つきでた魅力的な態度
Come on Baby want you Come on
オレンヂ色のハンドバッグ ちぢれた金色の髪の毛
唇かみしめながら 真白い手の平を傷つける
Come on 左ききのBaby Come on』・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・オレはやだね。そんな子。
『誰とでも寝るような・・・・・』・・・じゃなくて、
『左ききのBaby』が心にひっかかった。
くちづけ
信長も牧さんも、部の誰も知らないことだが、
オレは、中学までは合唱部だった。
パートはテノールだ。
意外だと思われるだろうけど、歌うことが好きだった。
それにもっと意外だと思われるに違いないけど、
オレはみんなで歌うより、独唱をしたいタイプだったんだ。
でも、ある日。
秋の定期演奏会でシューマン作曲の混声四部、『流浪の民』をやることになって、
途中にあるそれぞれのソロパートを、誰が歌うかってことになった。
オレはシューマンが大好きだったし、そのときが3年生だったから、引退前の最後のチャンスだったんだ。
『オレが歌いたい』って、初めて主張してみた。
だけど。
今までオレが絶大な信頼を置いてきた、顧問の先生に言われてしまったのだ。
『この曲には、力強さが欲しい。君の繊細な声では・・・・・・・・』
・・・・・・・・結局テナーのパートのソロは、オレと違って腹から、太く、透る高い声のでるやつに決まった。
わかってた。
オレの声が、独唱向きの声じゃないことくらい。
オレの声は細いし、じつは呼吸器も弱い。しょっちゅうノドを壊す。
だからこそ、ただ歌うことではなくて、独唱にあこがれたんだ。
・・・・・・・ないものねだりだ。
・・・・・・・・高校に入ってからは、歌うことをすっぱりやめた。
それでも音楽に対する想いは冷めなくて、中学のときの友達の裕太がやっていたエレキベースをまねて、借りて始めた。
きっかけは、ほんのたまたま目についた・・・・それだけだ。
・・・・・・・親はオーケストラやクラシックしか聴いたことのない人だったから、
エレキをアンプにつないで歪んだでかい音を立ててるオレを、顔を歪めてみた。
『同じ始めるならウッドベースでいいだろう』とも言ってきた。
・・・・確かにあのときのオレにはなんでもよかったんだ。
裕太がやっていたのがベースじゃなくてギターやドラムだったら、オレは今ベースを弾いていなかっただろう。
でも、とにかくオーケストラやオペラ・・・そんな系統から離れたかったんだ。
合唱を、音楽の授業を思い出させる系統から、少しでも。
「・・・・・・ヘンな話だよなぁ」
「神さん?何がっすか??」
・・・・・・・今こうして、軽音部にいることがさ。
あのときオレがやっていたのがドラムだったとしたら、
信長と牧さんとバンドを組むこともなかったわけだし・・・・。
同じ趣味なら、音楽じゃなくてサッカーとか野球とか、スポーツに打ち込んでもよかったわけだし・・・・。
「・・・・・・お願いしますね〜、・・・・・って、聞いてるんすか!?神さ〜〜ん!!」
「あ・・・・ゴメン、何?」
「もう、神さん!ここんとこヘンですよ〜!?だから、コーラスお願いしますっていったんですって」
「コーラス!?・・・藤真さんがやればいいじゃない」
「藤真さんも歌うの嫌いだって。でも俺的に2人ともコーラスは強制っすよ!」
「え〜!?オレはヤだ。だってブランキーってコーラスって言うより叫び声じゃん。あんなのオレには無理!」
・・・・・オレの場合はべつに歌うのが嫌いなわけじゃないけどね。
「お願いしますよ神さ〜〜ん!!4610のときは『牧さんに任る』でよかったけど、もういないんすから!」
「い や だ!絶対イヤ!」
「神さ〜〜〜ん!!」
・・・・・・・あれから結局藤真さんは軽音部に入った。
それから、オレたちのバンドにも。
事実上新しいバンドとしてスタートだから、
バンド名も変えた。その名も『B04』。
一番初めに3人が会ったのがB04練習室だったから。バンド名なんてそんなもの。
・・・・って実は信長が、ひどく凝った、
口に出したら恥ずかしくなるような名前をいっぱい考えてて、
それを見た藤真さんが怖がって、バンドに加入するのと引き換えにバンド名を強制的に決めたのだ。
・・・・・そのことに関して、彼はほんとナイスプレーだったと思う。
・・・・・・・・そのときと、ドラム叩いてるときだけだ。彼がいいのなんて。
だって、オレは藤真さんが苦手。
藤真さんと信長が仲良くしてるとおもしろくない。
牧さんと仲良くしてるとおもしろくない。
他のみんなとも・・・・以下同文。
・・・・・・・・藤真さんは、すぐに部に馴染んだ。
みんなに好かれた。
でも、それは軽音に染まったのとは違う。
彼は、いつでも本心を見せなくて、みんなじゃなくてどこか違う、遠くを見てる気がする。
・・・・・・それが、さらにおもしろくない。
軽音のことを、オレたちのバンドのことを、真剣に考えてないみたいで。
・・・・・・・・嫁をいじめる、姑の心理かもしれない。
よそ者が、藤真さんが可愛がられてるのが、おもしろくないなんて。
「神さん、藤真さんが入ってからヘンですよ!?なんか、頑固になったてか・・・」
「うん。だってオレ藤真さんニガテだもん。なんで勝手にメンバーに入れちゃったのさ」
「神さ〜〜ん!!そんなあからさまな言い方、神さんらしくないっすよ!
だって牧さんレベルドラムが叩ける人なんて、他にどこにいるってゆ〜んですか!?」
「牧さんぐらい叩けたら、藤真さんじゃなくてもよかったでしょ??」
「・・・そんな!!藤真さんはいい人っすよ!?ロクに話してもないのに、ニガテだなんて・・・」
「はぁ・・・・・・・・・・・・そうなの??」
確かにろくに話もしちゃいないけど、トンでもないとこ目撃してるしね。
・・・・・・・・・・『いい人』ってなに??いい加減な人が、危険な人が、いい人なの??
・・・・・・・・・・・・3日前のことだ。
その日は4号館の2階で5限までの講義で、予定より30分、早く終わった。
別に用事はなかったけど、部室を覗いてから帰ろうと思って、4号館の裏の坂からクラブハウス棟に向かっていた。
・・・・・この裏の坂ってのはクラブハウスへの近道だけど、いつもほとんど人通りがない。
オレはそこを、講義で凝り固まった肩や首の骨をバキバキ鳴らしながら下っていた。
・・・・・・・と、そこに何やら言い争う声が。
「なんなんですか!?別れるなんて、俺は認めませんよ!
・・・・・しかも突然家からは消えてるし!・・・転部した、1人暮らし始めた、なんて聞いてないです!!」
「・・・なんでオレが、オマエにいちいち報告しなきゃいけないんだよ」
「だから、別れるなんて俺は認めてないっていってるでしょ!?俺たちつき合ってるんだから、当然報告するべきですよ!」
「あのさ・・・・初めからつき合ってない、んだけど」
「なっ・・・・・・・・バカなことを!!!」
・・・・・・・・恋人同士の別れ話のもつれ。そんなこと、学校に持ち込まれちゃたまらない。
しかもその声が両方男で、片方はバンドのメンバーなんだからもっとたまらない。
・・・・・・実際それを見てもあまり驚かなかった自分に驚いた。
驚くほど冷静・・・というより、氷点下の冷ややかな感情が心に吹き出ていた。
彼を見たときにすでに感じていたことだけど、
同性愛、だなんて彼にとっちゃまだまだ序の口のことなんだろう。
・・・・・・・・・・・・・もっとよっぽどアブナイことしてそうな、しそうな人だって、彼をひと目見たそのときから感じていたから。
・・・・・・・また彼に対する意味のない怒りは増大したけど、とにかくこんな所にいるわけにはいかない。
オレは即座に来た道をUターンしようとした。・・・・・・・そのとき、
「・・・神!!」
彼がオレに気づいて、切羽詰った声でオレを呼んだのだ。
それでも無視して、その場を去ればよかったんだ。巻き込まれでもしたらたまらないと思う。
・・・・・なのに、オレは何故か振り向いてしまった。
オレを振り向かせたのは好奇心ではなく、
もっと深い、味わったこともないような冷たい感情なことだけは確かだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
オレは黙って2人の方へ歩いていった。
見ると、藤真さんに言い寄っている男は背丈がオレと同じの、ファッション雑誌で見るようなイイ男だった。
男のくせに 可愛い可愛い と言われるオレと違って、
決して男臭いわけじゃないけど、男の色気みたいな、
いい所ばかり寄せ集めてできた人間のようだ。・・・外見は。
・・・・・・・・・・・・・目は完全にイっちゃってるけど。
「藤真さん、なんなんです?コイツ・・・・・・・」
・・・・ギラギラした目つきで、上から下までじろじろ見てくれちゃって。
それにオレこそ初対面のこいつに、こいつ呼ばわりされちゃたまらない。
・・・・・・オレは、やっぱり無視を決め込むべきだったと、深く後悔した。
「オレは藤真さんのバンドのメンバーですよ。ただ・・・・・・・」
『ただそれだけです』、って続けようとした矢先に、
「・・・・・・・兼、オレの恋人の神」
・・・・・・・・・・・・・藤真さんがしれっとした顔でそう言ったから、ほんとうにたまらない。
・・・・・・・オレは不機嫌に口を結んだまま、呆れて何も言えなかった。その男までも呆れていた。
「・・・・・・・またあなたは・・・・そんな手が通用すると思ってるんですか??行きますよ、藤真さん」
・・・・そう言って、男は藤真さんの手首を右手首を掴んで、無理やり連れて行こうとした。
「・・・・いやだ!神・・・・・神っっ!!」
・・・・・・・その男の強引なやり方に、むかついたのかもしれない。
藤真さんに対しても、よく事情も知らないけど自業自得と思った。
可哀相とか助けたいとか、そんな感情ちっともなかったのに。
・・・・また、またあの冷たい感情が一気に噴出した。
・・・・・オレは藤真さんの左手首をぐいっっと掴みあげると、乱暴に自分の後ろに引きずった。
藤真さんが「痛・・・・!」って小さく悲鳴を上げたのが聞こえた。
・・・・・・・・そしてオレはその男と無言でにらみ合った。
どのくらいの間そうしていたのかはわからないけど、突然相手の男がふっと笑った。
「いや〜藤真さん、なかなか骨のあるやつを手に入れたようで」
・・・・・・・・いきなりへらへら笑い出しやがって。なんなんだコイツ。でも、
「今日のとこは帰ります・・・・・・・でも、俺、あきらめませんから・・・・また来ます」
・・・・・・・・・そう言ったそいつの目は、笑っていなかった。
こんなアブナそうなやつと、つき合ってたなんて。
・・・・・・・お似合いだ。
「・・・・・・・いや〜、助かったよ、神」
・・・・・・・・そういって超絶な笑顔をみせてくる藤真さん。
オレが力任せに掴んだ白い左手首には、痛々しく、赤い痕が残っていた。
・・・・・・・でも、謝る気なんて起きない。
・・・・・・・オレは何も言わずに能面のまま無言で立ち去ろうとした。
あなたから言わせれば、みんなこの笑顔で騙せるんだから、ちょろいものなんだろうけど。
・・・・・・・・でも、オレは騙されない。
・・・・・・・・・・早足のオレのあとを、彼が必死についてくる。
「神?神・・・・怒ってるのか??悪かったよ・・・あんなこと言っちゃって」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・それとも、オレが同性愛者だから、ケーベツしてんの??
・・・言っとくけどオレ、ホモじゃないよ」
「・・・・・・別に、オレに関係ないです」
「え」
「・・・・・・・・藤真さんがホモだろうとストーカー男と付き合おうと、オレには関係ないっていってるんです!!」
・・・・・・だから、オレを巻き込まないでくださいよ!!!
・・・・・・・・・・・・そう言い放つとオレは一目散に走り出した。
・・・・・・・・・・・・・・彼の追ってくる気配は、もうなかった。
・・・・・・・・あ〜んなことがあったなんて、ノブやみんなはこれぽっちも知らないんだから。
・・・・・・・・・・呆れすぎてわざわざ言う気も起きないよ。
「神さんも、藤真さんのこと好きになってくれるといいんすけどね〜。
・・・・・・この前初めて合わせたときなんて、俺、初めてに思えなかったし!!
マジで興奮しちゃいましたもん!!俺ら、うまいじゃん!って」
「・・・・・あれは藤真さんのドラムがうまいんだよ」
・・・・聴くのと合わせるのじゃ大違いで、実際彼とやってみると本当にやりやすくてびっくりした。
「もう〜!神さ〜〜ん、神さんはやってて楽しくなかったんですか!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・楽しかった?
・・・・・・・・・・楽しかったなんてもんじゃない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・鳥肌が立ったんだ。
ベースをやってきて、牧さんにも、
牧さん以外の部のドラムと合わせたときにも味わったことのない感覚。
オレのリズムと、藤真さんが作り出すリズムが1つのものになって流れ出してた。
今までベースをやってきたのは、このときのためにあったのかと思ったくらい。
ベースなんて、オレにとって歌を離れるための、
どうでもよかった手段にすぎなかったのに。
あのドラムに合わせていると、我を忘れそうになる。・・・ずっと、弾いていたくなる。
・・・・・・・・・・そんな感覚を、よりによってあの人によって知らされるなんて。
「神さん!?と に か く、今日も21時〜23時で練習っすからね!!
遅い時間っすけど、・・・・・・・・がんばりましょう!!」
・・・・・・・・・・・そして時間になって
練習室に現われた左利きの天才ドラマーは、あきらかに酒に酔っていてへべれけだった。
・・・・・・・・・・・・22時になって、一旦休憩を入れた。
・・・・・・・・オレは地下の練習室を出て、外の自動販売機に紅茶を買いに行った。
するとそこの自販の前のベンチにはすでに先客がいて、スパーーってタバコをやっていた。
慣れてるその様子が、無性にむ か つ く。
そうだこの人、タバコも吸うんだ。オレ、苦手だってのに。
今まで友達や部のやつらが吸ったって、なんとも思わなかったってのに。
・・・・・・この人のやることなすこと、すべてが気に食わない。
・・・・・・・彼は、ひとり向かい酒をしてから、練習にきたようだった。
何があったか、はたまた気まぐれか知らないけど、酔っ払って練習にくるなんて。
それでなくても学校は飲酒禁止で、こんなフラフラなとこ見つかったら停学ものだってのに。
・・・・・・・なのに、なのになんで。
なんでそんないつも通りドラムが叩けるんですか。
・・・・・・・・・怒れないですよ・・・・。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
「!あ」
「やっぱそこら〜。Aメロの出だし!うまく合わないな〜〜。ね〜っっじ〜〜ん??」
・・・・・・・そんなべろべろな口調なのに、なんでこの人は。
・・・・・・・・・その曲はイントロで3人とも同時に出て、Aメロになるとベースとドラムだけがしばらく続く。
そのAメロの出だし。
何も変哲もないフレーズだってのに、何故かオレには続きを弾くことができなかった。
・・・・・・・いや、原因はわかっている。
・・・・・・・自分で弾いてて怖くなるんだ。
なんか、彼の叩くリズムと、自分の弾くベースが絡み合うのが。
もうすでに、イントロで合いすぎていて、先を弾くのが怖くなるんだ。
踏み出したいけど踏み出せない、オレの一拍目。
意識のし過ぎかもしれない・・・・・だけど、だけど、
・・・・・それはきっと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・神〜!じんじんじん、じ〜〜ん!!」
リカチャン人形みたいな顔したヘビースモーカーの酔っ払い男が、
オレの名前を連発してる声に・・・甲高い奇声に、オレは現実に引き戻された。
「・・・・・ちょっと!こんな時間でも夜間生や警備の人はいるんですからね!?
藤真さん、酔っ払ってるなんてわかって捕まったら、『停学』ですよ!?」
「だっておまえ、返事してくれないんだも〜〜んっっ」
そんな言葉、二十歳過ぎの男が使う言葉じゃないですよ・・・・。
「はいはい!これでいいんですか?返事したでしょ」
「もう神!冷た〜〜いィィ!・・・・・ど〜せオレが停学になったって『オレには関係ない』んだろ〜??」
・・・・・・・・彼の言葉に、この前自分の言ったことの酷さを自覚させられた。
「・・・・・・関係ないですけど、藤真さんが飲酒してたせいで部までお咎めくらったらたまりませんからね」
・・・・・・・・なのに、なのになんでさらに酷い言葉しか、出てこないんだ??
「・・・・へへへ〜、そっかぁ。それより神〜、あのね〜??仙道はね〜〜」
「・・・・・・・だれなんです?仙道って。知りませんけど」
「あ〜、ホラ、この前の〜〜・・・・・・・・・!」
「あ、ストーカー男のことですか」
「・・・そうっ!そいつ、ストーカーなの。オレたち、つき合ってないの〜!!
てゆ〜か、それどころかHもキスもしてなければ手もつないでないっつうの〜っっ!!
・・・・・・・・・アイツが〜!勝手にオレとつ き 合 っ て る つ も りでいるの!!」
「!・・・・・わかりましたから、そんなこと大声で叫ばないでくださいよ!!恥ずかしいっっ」
「・・・い〜〜や、神くん。君はわかっちゃいないね。違うんだよな〜〜!
仙道はね〜、アイツはただの前の学部の後輩!!なんかね〜、
1回講義のノート貸しただけなのにず〜〜っと付きまとわれてるの〜っっ!オレ、かわいそ〜っっ!!」
・・・・あ〜、誰かこの『飲んだくれ大人子供』を止めてくれ・・・・。
だいたい仙道ってやつとそういう関係だったとしても、
そうじゃなかったとしてもオレには関係ないのに・・・・・。
でも、
関係ないはずなのに、なのに、
彼のその言葉を、信用してもいないのに、
なんでかオレは、
満足してるし、
安心、してるんだ。
なんで、嬉しいんだ?
なんで、なんで・・・・・・・・・・・・・・??
・・・・そして、次の彼の言葉に、
「神・・・・・・・・・・おまえオレのこと嫌いだろ」
・・・・・・・・一瞬自分の耳を疑った。
藤真さんの吐き出したタバコの煙が・・・・・・・ひどく、白く透き通って見えた。
さっきまでべろべろな口調だった人が、しっかりした話し方で・・・・。
しかも、ものすごく悲しそうに聞こえたのは・・・・??
・・・・・・いくら態度に出ていて、オレがこの人をよく思っていないことが伝わっていたとしても、
(むしろ、伝わるようにあからさまな態度をとっていた・・・・とも言える)
正面きってそんなことを言われると、言ってくるような人だとは思わなかった。
・・・・・・・・・・・いくら、酔ぱらっていたとしても。
「だったら・・・・・なんだっていうんですか」
・・・・・・・・・・・さらに残酷にも口にした自分にびっくりだ。
・・・・・・・普通、否定するとか。
こんなの、同じバンドのメンバーの会話とは思えない。
しかもそれを好きで、趣味でやっているやつらの会話とは。
イヤだったらやめればいい。ただそれだけのことなのに。
おかしなもんだ。
彼がイヤ、なのに、こんなあからさまなのに、バンドをやめようとは全く思わない。
・・・・・・・それは、オレがこの人をドラマーとして手放したくないからなのか。
「別に〜・・・・・でもオレはB04を抜ける気はないぞ。
おまえらがオレを外すってならしょうがないけど〜」
「・・・・・・・・それはどうも」
「オレ、おまえのベース好きだし」
「え・・・・・・・」
「・・・・・・・・喜べよ。オレが誰かの演奏褒めるなんて、めったにないんだからさ〜〜」
「・・・・・・ウソだ。酔っ払いの言うことなんか、まともに聞けません・・・・・・」
「ん〜、神くんはホント強 情!だなぁ〜。・・・・・オレ、酔っててもウソは言わないよ〜??饒舌にはなるけど〜」
「・・・・・・・・・・・・でも!オレ、今日も何度も失敗して
・・・・あそこが、Aメロの出だしができないのはオレがモタるせいでしょ!?」
「だ〜いじょうぶ、・・・・あんなのなんでもない。あそこが合わないのはオレとおまえの呼吸の問題だろ。
おまえだけのせいじゃないよ・・・・時間かけてくうちに、合うようになるさ。・・・・・・別に、慰めでいってんじゃないぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「それに、オマエはオレのこと嫌いみたいだけど・・・・・オレは・・・・・・」
「え・・・・・・・・・・・・・・??」
「・・・ん。オレ、今日しゃべりすぎかな〜??でもね〜、
酒でも飲まないとやってられなかったのよ。好きなヤツに嫌われるってのは、ツラいよ〜〜??」
・・・・・・・・・・何、言ってるんだ、この人は・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・・・・ま〜〜おまえより、問題は清田だよなぁ。
・・・あいつ歌に集中するとギターが弾けてないし・・・必死にごまかしてんだもんな。
まぁあれを弾きながら歌うってのは難しいんだろうけど、いいモンは持ってんだし、
・・・・B04をでっかくするためにも、が ん ば っ て もらわなきゃ。な??」
・・・・・・彼は、寂しそうに照れ笑いしながらそういって、
「・・・・・・・・・・・オレ、そろそろ地下戻るわ」
・・・・・・・・・・ひとり言のように小さくそうつぶやくと、また練習室に戻っていった。
酔っ払いのしゃべることって、支離滅裂。
自分のしゃべりたいことだけぶちまけるみたいにしゃべって、気がすんだら急に無口になる。
・・・・からかわれてる気さえしてる。
なのに、なのに、
・・・・・・・信じたくなる。
・・・・・・・・・・・・・・気休めなんだけど、今更だけど、とてつもなく信じたくなった。
『誰とでも寝るような そんな女の子が好きさ
くびれたウエストを持ってる つきでた魅力的な態度
Come on Baby want you Come on
オレンヂ色のハンドバッグ ちぢれた金色の髪の毛
唇かみしめながら 真白い手の平を傷つける
Come on 左ききのBaby Come on』・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・女の子じゃないし、
『誰とでも寝る』・・・それも違うと思う。・・・・違うと思いたい。
オレンジのハンドバックなんか持ってないし、
金色に近い髪の毛だけど、サラサラしてて縮れちゃいない。
・・・・でもたしかにくびれたウエストを持ってて、つきでた魅力的な態度・・・かもしれない。
魅力的!?・・・・・・魅力的・・・・・。
彼の手に持たれたドラムスティック。
そこから流れ出る音。俺の鼓膜を刺激する音。
シンバルを叩くとき、目をつむる。・・・・彼の、ドラム叩く時の不思議な癖。
・・・・・・・・なんでオレは、いつから見とれていた??
『つきでた魅力的な態度』
・・・左ききのBaby。ひだりききの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
注釈、意味ないかなってことでなくしてみました(笑)。
参考文献?は、ブランキーの『左ききのBaby』。いつもパクッてばっか。