・・・・・・・・・『ねぇ あんた少しヘンだよ

 

 

 

 

 

 

くちづけ

 

 

 

 

 

 

 

 4月上旬、某日。

 

 

・・・・・「工学部1年生、ギター歴4年の清田信長っす!!よろしくお願いしマッス〜〜!!」

 

 

 

 講義の空きにふらっと訪れた部室から、聞きなれた大きな声が漏れていた。

 覗くと、いつもの部員に加えて、よく見慣れた・・・・でもこの場所には今までいるはずのなかったやつが1人。

 

 

「ノブ!?・・・・・やっぱりだ、来たんだね!」

「・・・・・・神さ〜ん!!ひゃっほ〜〜!!」

 

 

 

 ここは海南大学。

 俺は農学部農学科2年の神宗一郎。この大学には附属高校からエスカレーターで入った。

 ・・・・・・別にここじゃなきゃいけないわけじゃなかったけど、ちょうど進みたい学部もあったし、

 同じように附属からあがってきているヤツが結構いて、

 高校がとても居心地よかった俺にとっては過ごしやすい環境だった。

 

 

 ・・・この新入りのノブも附属からの先輩後輩の仲だ。

そして、 

 結成して3年になる、同じバンドのメンバーでもある。

 

 

「ノブ。どう学科は?もう講義は出てるんでしょ??」

「どうってトンでもないですよ〜!女の子が少ないのなんの!!びびった〜!ここは男子校かっての!!」

「あははは、それは仕方ないよ。理系はそうだよ」

「え〜!?だって神さんの学部、半分くらい女子いるっていってたじゃないすか〜!!」

「あ、薬と農はどうしてか多いんだよ。だけど普通理系は、特に工学部は・・中でも電気や機械はホント数えるほどしかいないよね〜」

「げ〜っっ!!何故俺は機械科を選択してしまったんだ〜!!せっかく苦手な数学克服してがんばったってのに!!」

 

・・・・・・オレが『克服?あれで??』と思ったことは、信長には内緒にしておく。

 

 

 

 

「・・・なんか大学にノブがいるのって、ヘンな感じ」

「ですよね〜、俺もまだ自分が大学生って自覚、ないですもん」

 

 

・・・外では、ちょこちょこ会っていたけどね。

というか、バンドの練習をしに高校の音楽室や家の近所のスタジオで。

それにバンドを除いても、そんじょそこらの先輩後輩より仲がいいのだろう。

・・・・・ヒマさえできれば、いつも一緒にいる気がする。クサレ縁ってやつだ。

 

 

 

 

「おお、神。おまえら何で知り合い?!」

・・・・・3年でベースの三井さんが尋ねてくる。

 

「こいつ、信長ってオレと同じ海南大附属の上がり組なんですよ。それに」

「そういえば去年、秋のアポロでのライブでギター弾きながら歌ってたのって・・・・」

2年で、三井さんと同じバンドでラップボーカルやってる宮城が、タバコをふかしながら思い出そうと考えこんだ。 

 

「はいは〜い!!それ、俺っす!!神さんと牧さんと組んで、トリオバンドやってたのはこの清田です!!」

「・・・アポロのライブ、宮城観に来てくれてたもんね」

 

 

 

・・・・・・俺は、高校1年のころからベースをやっている。

でも最初の1年間はバンドを組まず、1人でずっと個人練をしていた。

 

それで、初めてバンドを組んだのが高2のとき。信長が、海南大附属に入学してきたときだ。

・・・俺がベースをやっていると、どこから、誰から聞いたのか知らないがノブは俺を呼び出すなり、

『メロコアがやりたいんす!!』って。

 

・・・俺は初めは戸惑った。

もちろん信長が初対面なことに。

おまけに、俺がベースで練習していたのは全部指弾きでやるようなミディアムテンポの曲だったし、

それに、コア系に分類される激しいヤンチャな音楽を、ほとんどといっていいほど聴いたことがなかったから。

・・・・・でもそれは、同じように信長につれてこられたドラムの牧さんも同じようだった。

 

 

・・・牧さんは小さいころからお父さんの趣味で置いてあるドラムセットを触っていたらしくて、正確なドラム歴は不明だ。
・・・・・・どちらにせよ、とんでもなくうまいことだけは確か。

 

その牧さんに、「どんなジャンルが好きなんですか」って聞いたら、

『ポップと癒し系』だって。どうやらZARDの坂井泉のFANらしい。                    

しかも1番最近買ったアルバムは、ヒーリング系だって。 

              

・・・・牧さん、あの時は笑ってすみません。

だって牧さんって、見た目すごい凶悪なメタルとかハードなやつとか聞いてそうだって思ってたから。

 

 

 

 

・・・そんな好きな音楽も、学年もバラバラな3人によって

コアなトリオバンド、『4610(ヨンロクイチゼロ)』は結成された。

 

このバンド名は、全員が好きな数字を学年順に並べただけ。センス&考える気、ゼロ。

でもバンドが知られていくうちに4610は

『46(ヨンロク)』って略して呼ばれることが必然的に多くなって、

信長がいつも『俺の10はいずこに!?』って吠えてて、可哀相なんだけど面白かった。

 

 

時が経ち、牧さんが海南大に進んで軽音に入って、

そっちでもバンドを組むようになっても、4610は別次元で進行していた。

結局オレも牧さんも、大学のバンドとは別に4610バンドを続けた。 楽しかったし、可能性があったからだ。

牧さんは大学の軽音部ではできないことが4610ではできると言っていたし、オレ自身そう思っていた。

でもついに・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

「・・・聞いたんだけど牧さん、お前らのバンド抜けんだろ。どうするんだよドラム」

「そうなんだよね。だから新しいドラム探さないと・・・・・・・・・」

 

 

・・・・・・・そうだ、その牧さんも、ついに俺達のバンドを抜けることになったのだ。

 

理由は牧さんに本命のバンドができてしまったからだ。

4年生がやってて外のライブハウスやバーで、お金もとって演奏している
 めちゃくちゃうまいジャズバンドのドラムとして、指名を受けたのだ。

 

もともと牧さんがずっとやりたがっていたのはジャズだった。

必然的にそっちに力を入れることになるから、4610で定期的な練習を続けるのは難しくなったんだ。

 

俺たちは牧さんがほんとにやりたいことをできるようになって、

しかも先輩のうまいバンドから指名を受けてすごくうれしかったし(逆にいままで特別そういうのがなかったのが不思議なくらいだ)、誇りに思ったけど、

・・・・・・・・・・・同時にとても寂しかった。

・・・・・・・だってあのバンドはほんとうに楽しかったから。

ドラムが牧さんじゃなかったら、俺も信長もあそこまで続ける気になったかどうか・・・・。

 

 

「心配いりませんって神さん!ドラムならこの清田が、新入生からめちゃんこすごいのを見つけますって!!」

「あはははは、・・・期待してるよ」

「神さ〜ん、何すかその力のない返事!俺を信用してないでしょう??約束したじゃないっすか!

新しいやつ入れて、次はブランキーみたいな渋っっいロックやるって!!」

「わかってるよ、そのためにも早くドラムの人、見つけなきゃね」

「ブランキーやりますからね、ブランキー!!

『♪オ〜レの憧れ アラスカ帰りのチェインソゥ〜!』」

・・・・ノブはノリノリでギターをかき鳴らすマネをしながら、『スカンク』を歌い始めた。

 

・・・・・・ブランキーはオレとノブが共通して崇めているバンドで、いつかあんなロックをやりたいってずっと話していたのだ。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・牧さんを送り出した今、俺たちには新しいドラマーが必要になったが、

その過程はきっと、そんなにうまくはいかないと思う。

 

・・・・・・だって牧さんは、ほんとにドラムがうまかったのだ。

プロでも十分通用するんだろう。

音楽番組を見ていても、牧さんのドラムのほうがうまいと、よく思うくらいだ。

・・・・・・そして牧さんに引っ張られてオレも上達した

 

その牧さんのドラムの音に3年間聴きなれてしまった俺は、

・・・・・・・果たして他のドラマーでもあわせることができるのだろうか。

 

ドラマーとベーシストの呼吸は絶対だ。リズムの基盤だ。

両者の呼吸が、感覚があわなければ必ずリズムに乱れが生じる。

オレと牧さんも・・・今思えばそこまで感覚が合っていたワケではなかったと思う。

コアをやるまで、オレは静かでミディアムテンポの曲しかやったことがなかったし、

今でもコアが好きかと言われれば、『嫌いじゃない』程度の答えしかできないだろう。

 

逆に牧さんはポップ好きであって、メロコアも好きな部類だったのだ。

・・・どんなジャンルでもやれる牧さんが俺に合わせてくれていたからあのバンドは成り立っていたと思うのだ。

  

 

・・・・・・牧さんと同じか、それ以上のレベルの人。果たして、そんな人がこの学校に、この部にいるのだろうか・・・・・・・。

オレと同じ部の2年、加えて上級生ドラマーはみんな、すでにそれぞれ2つ3つバンドを掛け持ちしていて忙しい。

しかもみんなメタル好き、ミクスチャー好きなど、ジャンルが違いすぎる(4610はバラバラでもできてたけど)。

それに何より・・・・・・・牧さんレベルの人は、やっぱり見当たらない。

・・・・・・・・俺は、確実に耳が肥えてしまったんだと思う。

 

かくなる上は、信長のようにこの軽音部に入部してくる1年を捕まえる・・・・しかないのだが、

牧さんレベルの1年。そんな人・・・・・あ〜〜〜、考えただけでも気が重い。

 

  

「清田、ギターは何使ってんの??」

「はい、ギブソンのレスポールです!!コイツがもう、可愛くって!俺のコイビトっす!!」

「おっ、いいね〜アンプは??」

「・・・それが個人アンプはまだ持ってないんすよね〜、金なくって」

「1つは持ったほうがいいぜ、ギター始めて4年だろ」

「バイトがんばって、買おうかと思ってます!」

「おいおい、初めからバイトばっかやってダブんなよ〜!この人みたいに」

「あ、三井さんダブってんすか?」

「・・・・・・・ばっきゃろ〜!言うなよ宮城!!」

「あはははははは」

「勝手に使っていい共有のアンプにはマーシャルもローランドJCもあるし・・・・」

「この部専用の練習室って、あるんすか?」

「このクラブ棟の下に、地下にあるぜ。見にくか?」

「あ!!見たいっす!!ぜひ!!!」

 

・・・・・・・俺達の学校の、この部室の下・・・B1には防音の練習室がいくつかあって、

吹奏楽部、ギターマンドリン部となど音出し系の部活やサークルが使っている。

そのうち軽音部にはB03と04の二部屋が与えられている。

 

 

「練習室は2時間ごとに1バンドが使うようになってる。個人練で使うことももちろんできる。後は・・・」

・・・・ノブはすっかり宮城と三井さんの話にのめり込んでいた。

練習室の見学のために4人で地下に降りる。と、

B04の扉から、ドラム単体の演奏が漏れていた。

 

 

 

「・・・・・・・牧か??」

三井さんがつぶやいた。けど、

 

・・・・・・オレにはわかる。この音は牧さんじゃない。

  

 

 

・・・・そのオレの考えは、三井さんが重く厚い防音扉を引いたときに耳に聞こえた音で、確信に変わった。

 

 

オレは牧さんの叩くバスドラムを3年間聞いてきた・・・けど、

彼のそれとはまったく異なっていた。

 

その『誰か』の叩いているドラムに、牧さんのような猛々しい重みはない。

でも、一回一回空気を裂くような綺麗な音を発している。

その1つ1つのバスドラの音がオレには規則正しい、キレイな心臓の鼓動・・・みたいに聞こえる。

ドラム全体もダイナミックさはないけど、機械のように完璧にリズムをキープしていた。

それにとても冷静なドラムなのだけれど、何故か熱いものを感じる。
 ・・・・こんな不思議な音は、感覚は初めてだ。

 

 

・・・・・・・一体誰が?!

オレは我慢できずに、前で放心している様子の三井さんや宮城をぐいぐい押して中に入った。

 

 

・・・・・・・狭い練習室の中はすでにざっと10人以上の人で埋まっていて、

密閉された空間特有のむっとした空気が広がっていた。

 

・・・・部活同期のやつや先輩が、何人も彼のドラムに聴き惚れていた。

だれも、オレたちが入ってきたことに気づくものはいない。

 

 

・・・・ドラムを叩いていたのは部外者なのは確実、学校でも見かけたことのない顔だった。

いや、大学なんていくつも学部があって何千と人がいて、見たことがない人間がいるなど普通のことだったが、

彼の容姿を一度見て、忘れることのできるものなどいるのだろうか。

・・・・・・・あんなキレイな人間、見たことがない。
 それに。

  

 

「・・・・・・・・・・・・・じじじじ、神さん!神さんっっ!!!」

・・・・・・・・・信長が、横からオレのジャケットの裾を引っ張った。

彼の演奏に、興奮して止まないようだった。

 

わかってるよ、ノブ。

オレも驚いてるよ。ドラムの性質こそまったく違うけど、彼の技術は間違いなく牧さんと同等だろう。

しかも彼はサウスポーだ。

 

初めに見たときに感じた違和感は、このドラムセッティング

・・・・・・・すべてが逆になっている。

彼は左足でバスドラを踏み込んで、左手でハイハットを刻んでいる。

左利きのドラマーを、オレが実際に見るのは初めてだった。

 

 

 

・・・・・・・オレたちが見に来てからまだ1分・・・も経っていないだろうが、彼がおもむろに演奏をやめた。

「こんなもんで・・・カンベンしてください」

・・・・たくさんのギャラリーを前に、とても照れくさそうで気まずそうだった。
 どうやらここで、人前で叩いているのは彼の意思ではなかったようだ。
 外で入部の勧誘に捕まって、連れてこられたのだろうか・・・・。

 

 

・・・・・彼の演奏を前に固まって呆然としていたギャラリーが、彼のその言葉に弾かれたように一斉に拍手や歓声を飛ばした。

 

 

「すっげよお前・・・・・・えっと藤・・・・」

「藤真です」

「・・・藤真!こいつはすげェ!!・・・牧とドラムでやりあえるやつが来たぞ!!」

「藤真さん!俺トランペット吹くんですけど、スカバンドやりませんか?

スカパラみたいな!ドラム探してるんですが・・・・」

「おい伊藤!抜け駆けするなよ!!・・・そのくらい叩けたらクリックにも合わせられるよな!?

俺らとミクスチャーバンド組もうぜ!!本格的なのやりてェんだリンキンパークみたいな!

今まで一緒にやってたドラムの4年の先輩が就活で抜けたんだよ、助けてくれよ!!」

「三井さん!!ひどいです!俺が先ですよ、藤真さんここに連れてきたのは俺ですよ!?」

「俺が先・・パンクやりたい・・・・・」

「・・・・・・・フッキー!!??」

 

 

・・・・・彼の周り一瞬出はたくさんの勧誘に占拠された。

当然だ。
 ドラマーは部内に少ないし、これだけ叩けるとなれば・・・・。

・・・・・しかし当の本人は興奮する周りの声をほとんど聞く様子もなく、自分用(左利き用)にしていたドラムセッティングを、

もとの右利き用の位置にもくもくと戻していた。

 

・・・・・そのギャラリーから一歩引いたところに、腕組をして立っている牧さんの姿があった。

「牧さん・・・・・・・・」

「おお、神。来ていたのか」

「牧さ〜ん!清田もいま〜〜っすっっ!!」

「おっ!?清田、ついに来たか!」

「軽音部でもお世話になりま〜〜っす!!」

「おお、期待してるぞ」

「牧さん、あの人は・・・あのドラムの人は?」

「おお、・・・・『藤真健司』というらしい。俺と同じ3年だ」

「3年生!?・・・・・・どうしてまた・・・・・・」

「いや、そこまでは・・・・」

「転部したんだ」

・・・・・なんと、当の本人の『藤真健司』がすぐ後ろまできていた。

 

「テンブ・・・・テンブってなんすか?」

「部を変わることさ。俺の場合は法学部から今回、工学部の3年次に変わった」

「なんでまた文理もまったく違う学部に・・・?」

「まぁ、やりたいことが変わったってのかな・・・オレもういかなきゃ。次の4限、講義入ってんだ」

「あ・・・・・・・・・・・」

 

・・・・・・オレは、彼を目の前に何も言えずにいた。

彼のガラス球みたいな目を、オレは直視することができない。

 

・・・・・なんか、たまらなく居心地が悪い。

 

  

 

「・・・・藤真さん!俺、清田、清田信長っていいます!!ギターボーカルやってます!!

俺たちと一緒にブランキーみたいなロックやりませんか!?

あ、こっちはベースの神さんです。ね、神さん。藤真さんがドラムなら絶対うまくいきますよ!!」

「の、ノブ・・・・!!悪いよ、オレたちのバンドどころかまだ藤真さん、この部に入るか決めたわけじゃないんだぞ」

「え!?そうなんすか!!??・・・・・・・でもこんなに叩けて軽音入らなかったらもったいないっすよ!!」

 

「へぇ・・・・ベーシストなんだ、それっぽいな」

・・・・・そういって彼がオレをじっと・・・特にオレの腕を、手をじっと見た。

 

 

(・・・・・・・・・なんだよ、じろじろ見ないでくれよ)

 

・・・・・・・その行為にオレは耐えられなくて、両手を、背中に隠した。

この細い腕はコンプレックスなんだ。ベースを持つと青白い血管がいっぱい浮き上がる。

手も、以前学科のネイルアートに凝ってる女の子に、

『神くんの手、すらっとして指が長くて、すっごいキレイ!爪もキレイだし。手のモデルになれるよ!』

って言われた。

それからその子のことは好きじゃない。オレのコンプレックスを全て突いてくれちゃって。

(・・・・・・そのオレの手を、何じろじろ見てんだよ。この人)

 

 

・・・・・・・そのオレの行動に、心理に気づいたのか彼も一瞬、気まずそうな顔を見せた気がした。

 

なんか、この人に見られていたら彼の感情・・・か他の何かが、俺の中に流れ込んでくるような感覚に襲われたのだ。

もともと俺は実は人見知りするほうだけど(その感情を外には出さないけど)、特に彼には今までにない、特殊な気まずさを感じる。

 

(この人ニガテなタイプかも・・・・・・・・??)

・・・・・・・近づかないほうが、無難な気がする。何故だろうか。

 

 

 

「ふ、じまさん??・・・・・・・4限なら、もう行かなきゃ・・・・・」

  だからオレは、そんな彼を早くこの場から立ち去らせるセリフしか、とっさに言えなかった。

 「あ、やべぇ。・・・2号館ってどこかな?次そこなんだけど、このキャンパス来たばっかだから」

 「文型のキャンパスは他県だしな。2号館なら今から俺もいくから、教えるぞ」

 ・・・・・牧さんも、次のコマは講義で埋まっているらしい。

 「ありがとう、頼むよ。ほんとにここは広くてかなわない・・・・、あのさ」

 ・・・それから意外にも、その『フジマケンジ』はこう言ったのだ。

 「・・ブランキー、オレも好きだわ。『ねぇ あんた少しヘンだよ』っていう曲とか、特に」

 

 「・・・・ほ、ホントっすか藤真さん!!近いうちに俺らとお手合わせ願えます!!??」

 「ああ、そのときはまた言ってきてくれ・・・・・・・じゃあ」

 

 ・・・・・興奮しまくる信長に苦笑しながら、藤真さんはB04練習室から去っていった。

 牧さんと『学科どこ?・・・うそっっ、建築科?!同じだわ』なんて話しながら。

 

 

 

 「・・・・・神さん!!ちょっと神さん聞きました!!??

藤真さん、やってくれるかもしれませんよ!!??

言ったでしょ、ぜったいドラム探しうまくいくって・・・・

あんなすげ〜人が入ってくれると思うと俺もうたまらないっす!!ひゃっほ〜〜!!!」

 「おい!!まだ藤真はお前らと組むって決めたわけじゃねぇだろ!?藤真は俺らのミクスチャーやるバンドに入んの!!」

 「で、でもそれ以前にまだ藤真さんここへの入部決めたわけじゃないんですよね・・・・」

 「また〜!そんな弱気なこといってどうすんだよ伊藤。お前が連れてきたんだろアイツ」

 「アイツは入部する・・・・それで俺とパンクやる・・・・・・・・」

 「・・・・・フッキー!!??(なんですでにアイツ呼ばわり!?しかも藤真さんいっこ上なんだけど!?)」

 「俺の方が、この部では先輩・・・・・敬語は向こうが俺に使うんだ」

 「そ・・・・・・そう(フッキーって・・)」  

 

 

  

・・・・・・それは曲名じゃないですよ。

 

正しくは『ロメオ』っていうんですその曲は。ほんとにブランキー好きなんですか??

 

 

なんか、みんながぎゃーぎゃーやり合っていたけど、

 

オレにはほとんどそれは聞こえていなかった。

 

 

 

そんなことよりブランキーの『ロメオ』の、ただ1フレーズだけが、

 

酔っ払ったときみたいに頭のなかでぐるぐる、ぐるぐるして、

 

今のオレに呆れたように、頭の中で、耳元で、呼びかけてくる。

 

呼びかけてくるんだ。さっきの彼の声が、俺に。

 

 

・・・・・・確かに自分でも、なんであんなに彼に対して警戒心を持ったのかわからないし、

 

いつもと何か勝手がちがうんだけど、なんで違うのかもわかっちゃいない。

 

 

あんなドラムを見せられたから?あんな見たことないような人形みたいな顔だったから?

 

本当にわからない。でも、

 でも、・・・・・あなたの方こそ初対面でそりゃないですよ。

 

 

・・・・・・彼は、オレの方を見て言った。絶対オレに対して言ったんだ。

 

そんなの思い込みだと皆が言ったとしても、もうオレの頭の中では確定事項。

 

・・・・・・・・・・オレはめずらしく、ムカついた。

 

 

 

・・・・・思わず、オレはすでにそこにはいない彼に向って抗議の声を上げた。

 

「ちょっと失礼ですよ」

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・『ねぇ あんた少しヘンだよ

 

 

 

 

 

悲しみが嫌いだったら 気のふれた振りをすればいいし
別に悪い事じゃないさ

 

ねぇ あんた少しヘンだよ・・・・・・・

 

 

 

 

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 私、こんなの書いてますがブランキーに詳しくありません。かっこいいとは思いますが・・・。

え〜、・・・・・・・・・・続きます。