湘北高校文化祭、そこには藤真の姿があった。

 

お祭りごとに積極的でない、どちらか言うと・・

・・否、どちらか言わなくても(バスケ以外は)冷めたタイプの彼がここにいるのは。

高校生活最後のこの年になり、

コイビト、流川楓が学校生活を送っている湘北高校を、なんとなく知りたくなったからである。


 

一方、準備段階から文化祭の日は自主休学の日、、、と思い込んでいた流川楓もそこにいた。

藤真に案内役を言い渡されたからである。
(というか、そもそも高校の文化祭は出席すべき日だ)

 

 

 

と、言うわけで今、ふたりは並んで湘北高校校舎内、2年生の教室の廊下を歩いていた。

着いてすぐは 「緑がいっぱいあっていい」 、だの

「トンでもなく汚いが学校らしい学校だな」 、だの言って結構ご機嫌だった藤真であったが、

ここに来るまでに通った渡り廊下の淵におっっきな ゴキ○リ の死体を発見、

今では車に酔って5回くらい吐いた後の顔をしていた。

(ゴ○ブリに酔ったらしい)

 

一方、藤真が騒いで犠牲になったことによりソレ(ゴキ)を見ずに済んだ流川。

じつは新底助かったと思っていたが、そんなことはひと言も言わずに藤真に

「ドッカ座るか」 とか 「ダイジョーブ?」 とか声を掛けていた。

・・・じつは案外したたかかもしれない、流川であった。

 

 

 

 

「2年4組の、占いどうですか占い!」

「なんでも占うよそこのイイ男お二人さん!」

「わ!1年の流川くんじゃんーv」

 

 

廊下では、食べ物やらオバケ屋敷などのアトラクションやら、どんどん勧誘を受ける。

 

 

「2年4組の占いって・・さっきおまえのクラスの女の子たちが」

「?」

・・・人の話をまったく聞いていなかったから、わかるはずもない流川であった。

 

「おまえのクラスの女の子たちが、怖いほど当たる、とか言ってたやつだろ」

「そーなんか」

最初自分のクラス、1−10に行ったときの話らしい。

そういえば後ろがぎゃーぎゃーうるさかったが、そんなこと話してたのか。

 

 

 

「そうなんですよー!評判の占い師がいてね!」

「流川くーん!寄ってってお願いvそっちのキレイなお兄さんもー!」

 

 

「いいじゃん流川、入ろう。ヒマだし、面白そうだし」

「あ?」

 

流川楓の弱点、

といえばゴキさんと同着ダントツ1位で藤真健司、(両者意味はまったくちがうらしいが)ということで。

(そしてその2つ以外弱点などないらしい)

まったく占いに興味などない流川であったが、鶴の一声で入室が決まったのだった。

 

 

 

 

 

入室してみると2−4の教室内は、不思議な香の匂いが立ち込めており、

一面真っ暗の中にぽつぽつロウソクの明かり、といった普段の教室とは思えない世界が広がっていた。

部屋はいくつかに仕切られていて、すでに何人かが占ってもらっていた。

各所から、占い師の、潜めた、ちょっと不気味な声が響いている。

 

 

「ようこそいらっしゃいました・・」

案内された左斜め前、一番淵の仕切りの暗闇から這い出した低い女の声に、二人は飛び上がった。

(実際、二人とも床から10センチは浮いた)

 

「わたくし、本日貴方がたの占いを担当させていただきます、

2−4の纐纈(コウケツ)と申します。よろしくお願いします・・・」

「こ ちらこそ、よろしくお願いします・・・」

流川は返事のかわりに何度もこくこく、キツツキよろしく頷いていた。

・・・・・藤真も流川も、バスケ以外は結構臆病者の似たもの同士であった。

 

 

 

 

「では、なんでも占いますが・・・いかがいたしましょう?」

 

・・この学園祭でなんでも1位決定戦をやったら、

『気分の変わりやすい人』、 『面倒くさがりな人』部門 、

・・両部門ではぶっちぎり1位を獲得できそうな男、流川楓。

 

 

・・・・いまさらだが、流川は面倒くさくなってきた。

 

会ったばっかりの他人に、

自分という人間をあーだこーだ分析されるのなんてムカつく、

さらには状況はこれからこうなる、とかこうした方がいい、とかいう

推測や助言をされるのなんてまっぴらだ、という考えにぶち当たったらしい。

そんなことは誰にもわからないし、わかるとすれば自分自身が1番わかっていることなのだ、

自分がなりたいようにしたいように、変えていくものなのだ・・と。

さすが 強引ぐMYウェイ 、ルカワ様である。

結局何を言われたって聞く気も、変える気もないくせに・・・

 

 

だから

 

「ゼンセ」

 

1番、何を言われてもどーでもよさそうなものにしてみた。
自分の知らない昔を言われても、腹は立たないだろうという考えだ。

 

 

「前世占い、ですか」

「できんの?」

「大丈夫ですよ、承知いたしました」

 

藤真はそんな流川の考えなどつゆ知らず、 

「前世!?おまえすごい言葉知ってるな!」 などとわけのわからない感動をしていた。

褒められた流川は、ちょっと嬉しそうだった。

 

・・・こうして規定外にデカい男子高校生たちは、二人仲良く並んで前世占いを受けることになった。

 

 

「では、お二人とも目を閉じて・・リラックスしてください」

そして占い師は右手で流川に、左手で藤真の手のひらにそれぞれ触れた。

(え、この子、同じように流川にも触るワケ・・ヤだな)

目を閉じる瞬間、流川を片目で見やると流川も同じように藤真を見ていた。

それだけのことで、案外嫉妬深いバカップルな二人であった。

 

・・そして謎の香のロウソクが焚かれている中、 『前世透視』 は開始された。

 

 

 

 

「・・ここがどこの国かは分かりかねますが・・・日本ではありません。

どこか西洋の国の田舎でのびのびと暮らす非常に美しい娘・・・それが藤真さん、貴方の前世です」

「あ・・何オレ、前世は女だったの?」

「ご安心ください、見かけはほとんど今と変わっていません」

「ど・・・・・・・・・・!」

どういう意味だ! と抗議しようと試みたが相手が女の子だったので抑えた。

さらに続いて、

 

「で、ゼンセ俺はオトコでコノ人と結婚シて毎日ヤってる」

「ヤ!?・・・・・・・・・・流川!」

・・流川がとんでもないことをベラベラしゃべりだしたので、藤真はゴキ○リの死体を見たときくらい驚いた。

占ってんのは、てめェじゃないだろ!

 

「いえ、ちがいます」

「俺も女なのか。いーぜそれでもヤることはヤれる」

そんな流川にまったく臆することなく占い師がきっぱり言い切る。

「それもちがいます、あなたの前世は猫です。黒猫です」

「・・・この人ン家の飼い猫か?」

「それもちがいます・・貴方がたにはとても興味深い・・前世からの強い因縁を感じます。

ですが、飼い猫というのはちがいます・・流川さんはノラ猫です」

「!」

「藤真さん、には恋人がいました。それはそれはいい男です。

しかし、その男は画家を志して都会へ出て行ってしまうのです・・・。

そしてその男が、都会の街で出会うのがノラ猫の貴方、流川さんです」

「な」

「その男と流川さんは親友になります」

「親友?・・ってヘンじゃないか!?人間と猫とが?」

「当時その国では黒猫は魔女の使者である、変身した姿である、などと黒猫を非常に嫌っていたようです。

が、その藤真さんの恋人は・・非常にマイペースな人だったようです。迷信をなんとも思わずその黒猫に・・

・・流川さんに唯一近づき、心を許しあえる中になった怖いもの知らずの男が藤真さんの恋人です。

そして現世で・・今、その男は貴方たちの近くにいるでしょう。

貴方たちの活躍する舞台の中に・・・それは流川さん、あなたの最大のライバルです」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

そんな話を自信いっぱい・・どころか、断定的にされては。

藤真の頭には自分の前世を女だと言われたことでも、

流川の前世が黒猫

(まんまじゃねーか)だと言われたことでもなく、

『前世での恋人』 であっただろう男が浮かんでいた。

 

話を聞いたときから浮かんだのはただ一人だが、

数分経ったであろう今も、その人物以外は思い当たらなかった。

他校、陵南高校の一つ下のエース。ツンツン頭の・・。


(あほらし・・・でも、) 

おそらく、流川の頭にもその人物の顔が浮かんでいることだろう。

(あいつが、まさに目の敵にしてるやつじゃないか・・・まったく)

なんだかとてつもなく気まずい。

 

流川には話したことはないが・・

というか現在進行形のことではないから話す必要がないし、

話したところでいいことなど一つも起きないであろうからこの先言うつもりもないが、

『その男』 ・・・仙道のことを、藤真は見ていた時期があった。

特別な類の、眼差しでもって。

 

 

羨望の眼差し。

それもそうだろうが・・・もっとも、

あれが恋であったとは言い切れない。流川に感じているそれとは違いすぎるから。

何故だかわからないが・・・気になってしまって・・目が離せなくて・・

そんな、自分でも表せないような不思議な感情を、持っていたことがあった。

それを、 『前世からの因縁』 という理解不明なひと言で現してくれるなら、その方がいっそありがたいのかもしれない。

やっとあの時の感情の謎解きが行われたってわけだ。

占いなんて、思ってもみなかった方法によって。

そういう意味では、ちょっとは信じてみてもいいのかも。

 

でも、

 

よりによって、絶対知られてはいけない男の前でバラされるとは・・・

なんでオレ、なんも悪いことしてないのに、こんな恋人に浮気をバラされた・・みたく気まずいんだろう。

 

 

過去、前世ってのはもしかして、未来、来世より怖いのかもしれない。

これからのことは自分次第でいくらでも変えていくことができるが、

今までのことはすべて洗い流すことなど、絶対出来ない。

 

 

・・・それにしてもあの占い師、

ヒトの男を捕まえていきなりノラ猫呼ばわりか。

たしかにまんまで、言い返せなかったけどさ・・ひどくないか?


・・・そしておかげさまでこの素晴らしい状況。

黒猫男と誰もいない校舎裏に二人きり。

そしてそのウンメートル先を歩いてる黒猫・・の、いまにも垂直に立った鍵尻尾が、

全身の逆立った毛並みが見えそうなくらいの怒り。と悲しみ?

あの教室を出てからひと言も口を利かない猫と、オレ。

どうしてくれんだ、この空気感。

 

 

「あのさ・・」

 

ばき。

  

とりあえず何かひと言かけようと思った矢先、

ヤツは行き場の無い怒りを壁にコブシでぶつけていた。

壁の、塗料が光の粉みたく反射して、パラパラと派手に剥がれるのが見えた。

 
 

「るか・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・手ぇ大丈夫、か?」

「・・・・・・・・・・・・痛ぇ」

  

その間抜けな回答が可愛くて、オレは小さく笑った。

その声に流川はあの教室を出た後、初めて照れたように、バツが悪そうに俺を見た。

 

「バスケットマンの商売道具を、そんな風に雑に扱うなよ」

「ダッテ・・るせーんだ、あの女・・・」

「そうだな。でもおまえが前世見てって言ったんだぞ」

「・・・アンタが入りたいって言っタ」

「だって 『文化祭来たぞ』 みたいなこと、ひとつはしたかったんだ」

「占いじゃなくても、ヨカッタだろ・・・」

「『占いなんて信じねー』 っていうと思ったんだけどな、おまえなら」

「・・信じてねーよ、今だって」

 

そう言いながら、またご機嫌を損ねてしまったオレの猫はそっぽ向く。

そのデカい背中が、妙に小さく見えて。震えて見えて。

可愛くて愛しくて、オレは背後からその黒猫を抱きしめる・・・・。

 

 

「・・アンタの恋人は仙道なんかじゃねー」
ああ、実際その人物、口に出しちゃうのね・・・。

「なーに言ってんだ、当たり前だろ。だから今こうしておまえを抱きしめてるだろ」

「・・・前世でも恋人がヨカッタ」

「信じるな、覚えてもいない昔なんてどうでもいい・・
あったのかなかったのかも、重要じゃない。流川、好きだ。今、オレにはおまえだけだ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・それにオレは、黒猫って大好きなんだ」

「信じてンじゃねーか・・俺は猫じゃねー」

「猫じゃないならないでもいいけど。
おまえとオレ、確かに前世で会ってるかもな」

「何ソレ」

「おまえ、手紙くわえてきたじゃん。うちまで」

 

 

オレの頭の中には某・ロックバンドの歌が浮かんでいて。

あの歌がオレの頭を離れなかった理由がわかった。

あの 『K』というイニシャルは黒猫の頭文字、という意味だけでなく、 

『カエデ』 という意味があったからなのかもって、深読みしてみる。

 

その歌の中では 『孤独な名も無いノラ・黒猫』 が、

同じく 『孤独な画家を目指す男』 と都会で出会う。

男は猫に 「黒き幸 『ホーリーナイト』」 という名前をやる。

一人と一匹は互いに心を許して生活していくが画家は病に倒れる。

画家は最後の手紙を親友の黒猫に託し、自分の帰りを待つ恋人のもとへ届けてくれと言い残す。

 

そして黒猫は遠い遠い道のりを、その男の故郷までを

人々に石を投げられ、忌み嫌われても

全身キズだらけ・・満身創痍で走りぬく。

 

最後に恋人の家にたどり着いた猫はすでに息絶えていて。

恋人は、『K』 というイニシャルを加えて庭に埋める・・・・・

 

 

・・・おまえはオレの元まで、命がけで来てくれたんだろ?

 

「手紙?んだソレ」

「んーとまぁいいや」

「言え」

「だからおまえが黒猫で」

「オレは猫じゃねー信じてねー」

「・・・そうだったな」

「猫だったらアンタとできねーだろーが」

「何が?」

「せっくす」

「・・結局それかよ」

「それ以外、何が」

「・・・できるさ」

「何」

「せっくす、だろ」

「アンタ、獣姦OKなの?」

「・・そういう言葉だけは知ってんだな、おまえ」

「そーいうことじゃねーのか、どーなの」

「・・いいよ」

・・・ただし、相手の中身がおまえ、ならな。

 

 

こんな風に答えちゃうオレは、もうコイツと同じくらい、変態なのかもしれない。

・・・そんなこんなでこんな変態カップルの固い絆、

あのツンツン頭がいくらカッコよかろうが、前世からの因縁があろうが、現在入り込む隙間はまったくないのだ。

 

  

・・・そして、あの歌の通りではオレも困るんだ。

だってあの歌でオレは、絵描きに嫉妬したのだから。

オレの好きな黒猫と2年も過ごした、絵描きに。

彼のスケッチブックは親友の黒猫ばかり描いていたせいで黒ずくめだったって。

オレ、絵は得意なほうじゃないけど、それでおまえが喜ぶんなら、いくらでも描いてやるよ、流川。

 

どっちにせよ、

オレの大好きな黒猫は、今は人間の、

とびきりイイ男の 『流川楓』 になって俺の目の前にいるという、現在。事実。

 

 

 

「藤真サン・・・・」

「流川・・・・・・・・」

 

 

あのー、ここ学校なんですが・・・

という話が通じるほどマトモなカップルではないのだ。

見逃してあげてください、湘北高校および文化祭にお越しの皆さん・・・。

 

 

 

同時刻。

散々噂を立てられた陵南高校のツンツン頭、

2年生エースの仙道くんは身に覚えのないひどいくしゃみに見舞われ、

田岡監督から 「日ごろの不摂生が原因だ!たるんどる!!」 

・・・と有難いお説教を受けていた。というお話。おしまい☆☆

 

 

 

 

・・どっちにせよ、丸く収さめました。
散々騒いだくせに劇的に記憶力の悪い流川くん、次の日には占いのことはすっかり忘れてしまっていたとか。

結局流川くんには藤真くんさえいればそれで良いらしい・・ということが証明された?出来事でありました。
そして過去の過ち?がバレずなんとなくほっとした藤真くん(笑)。

☆参考音源・文献およびBGM、
『  (THE LIVING DEAD というアルバムの6曲目)』 by BUMP OF CHIKEN


・・というか、この曲を聴くといつも 仙藤←流(仙流←藤?) という物語しか浮かんでこない・・
・・ごめんなさいバンプの傑作をこんな風に・・・。