YUMEIWA LAST BOY3
 

「牧さん!」
「おお、清田どうした」
「お話が・・・部活とは関係ないんすけど、いいっすか?」
「・・何だ?言ってみろ」

部活とは、関係ない。
でも・・・それでも、それと同じくらい・・・大事な、大事な話があるんです。


YUMEGIWA LAST BOY3


部活が終わっても・・それでもその後、
結構な人数が居残り練習する。
それは俺も、いつもなら例外ではなかったが・・・・・・・・・・・・。

俺は、飲み物を買いに行こうとでもしたのか(牧さんも大抵残って自主練をする)、
体育館を出ようとしていた牧さんを捕まえた。

藤真さんのことなら、牧さんだ と思ったんだ!
オレの知っている範囲で、藤真さんのことを一番知っているのは
きっと、良くも悪くも絶対牧さんだ。

いや、だからといって牧さんにこんな話をしてどうにかなるのか?という気持ちも
モチロンあったけど、
それでも・・俺はどんな小さな手がかりでもいいから、
この状況を打破できる鍵を求めていた。
そのくらい、追いつめられていたんだ。


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「・・・なるほどな。よくわかったぞ、清田」
・・・体育館裏で俺は、今まで藤真さんとあったことを
全部隠さず牧さんに吐き出した。
何故かわからないけど、牧さんにはすべて話しても大丈夫だと、
俺の野性的感で悟ったからだ。
ちょっとだけ・・・・ちょっとだけ心が軽くなった気がした。
なのに。

「・・・つまりだ・・・清田、お前は藤真と別れたいんだな?」
「そ、そんなこと!」
言ってないじゃないすっか、全く・・・・!!
だって・・別れたい、んだったら
このまま放っておけば、・・・・・・きっとそうなる。

・・・いや、もしかしたらもう、藤真さんの中ではすでに、
俺とのことは終わったことになってるかもなってるのかも・・・しれない。
・・・・それが、それが嫌だからどうしようって
相談してるんじゃないッスか・・・・・・・・!!

「藤真を・・・見ているだけで十分だったんだろ。
そのころの方が幸せだったと、戻りたいと思ってるんだろ」
「それは・・・あの頃の方が確かに精神的に平和だったとは思いますけど・・・・・」
・・・・・あの頃は藤真さんを騙すこともなかったし、
眠れなくなることもなかった。

・・・そして何より、
何より藤真さんのことを、泣かせることもなかった・・・。

「ああ、じゃあ別れちまえ。
どうせ今までだって付き合ってたなんて呼べた仲じゃないんだしな。ただのオママゴトだろ」
「そんな・・・!」

・・なんか、牧さん、めずらしく機嫌悪いみたい・・・??

俺、今まで誰にも相談できずに1人で苦しんでたんスから、
こんなに真剣に相談してるんすから、
もうちょっと優しくしてくれたっていいじゃないっすか・・・。

「つきあっとれん、まったくお前ってやつは・・・・・ガキ、だな」
「なっっ・・・・・・・・・・!!!」
「清田・・・・・・お前、自分だけが悩んで嫌な気分を味わっていると思ってないか?」
「え・・・・・・・・??」
「藤真も、お前と同じように悩んで、眠れなくなっている・・・・と考えたことはないのか?」
「藤真さんが・・・・・・・・??」

藤真さんが俺と同じように?
俺のことばっか考えて、俺のことで悩んで・・・・・・・・??

・・・・・・そんなこと考えたことも・・・・・・・・・・・・。

「あ、ありえないッスよ・・・・藤真さんが俺と同じように悩んで、夜も寝れないなんて・・・」
あの藤真さんが、俺と同じ気持ちなんて・・・・。
「・・・お前が告白したとき、藤真はなんて言ったんだ?
 『オレも・・・・・・』そう言ったと、さっきお前から聞かされたが?」
「あ・・・・・・」


・・・・・・・・そうだ、あのとき、藤真さんは、
『・・・・・・オレも、オマエのこと・・・・好きだったんだ』
って、オレと同じように緊張しながら、照れながら、掠れた声でいったんだった。

「藤真は・・・恋沙汰に関して馬鹿みたいに石頭なやつだ。
あいつがなんとも思っていないやつからの告白に、
好きでもないやつに、そんな風に答えることは有り得ない。
それに藤真は・・・藤真はお前が罰ゲームで自分に告白してきたことを・・・知っている」
「なっっ・・・・!!!なんスかそれ!!??」

「・・・・・三井が、帰りのバスの中でそんなようなことを、藤真にぽろっと言ったらしいぞ」
「三井・・・・・・!!??なんだってんだアイツ!!??」

・・・・・・・・そんなこと、まったく知らなかった・・・・。

頭の中が、パニックだ。
藤真さんは罰ゲームで俺が告ったと知っていた・・・・?!
・・・・それに、それになんだって牧さんがそのことを知ってんだ?!
藤真さんが、藤真さんが俺には言わないことも、
言えない事も・・・・・・牧さんには言えたっていうのか?!
・・・俺と、俺とのことも、藤真さんは全部牧さんに言ってたってのか?!

牧さんには、牧さんには全部・・・・・・・・・・・。

ショック、だった。なんか、泣きそうだ・・・・・・・・・俺。


「・・・聞いているのか清田!
それでも藤真はお前と別れなかった・・・・・・何故だ?」
「なんでって・・・・・・・・・・・」
「お前と同じだ。それでも・・・例え罰ゲームから始まったとしても好きだからなんだろ、お前が」
「・・・・・・・・・・・・・!!!」
「それとも・・・・・俺が今言ったことは全部間違っていて、お前は藤真と違って
藤真のことを好きではなくて、やっぱり観賞用で十分なのか??・・・・・・・それはありがたい」
「は!?ありがたい・・・・・?!何がすか!!??」
「お前は藤真を見ていられれば、それでいいんだろ。
・・俺が藤真をもらったって文句ないワケだ」
「なっっ・・・・!!言いワケないじゃないッスか!
しかも藤真さんを『もらう』・・・・だなんて、
ネコの子じゃないんスよ藤真さんは!
いくら牧さんでも俺・・・・・・怒ります!!」
「なんだ?俺はお前に説教される覚えなんてないぞ。藤真を泣かせるようなやつにはな」
「・・・・・・・・・・・・!!!」
「・・・・清田、恋愛はいいことばっかりじゃないだろう。
むしろ嫌な、煩わしい時の方が多いときもある。
・・・それでも続けていく意味が、価値があるかどうかは当人同士が決めることだ」
「・・・・・・・お、俺・・・・・・・・・・・・・・・」
「藤真は続けてく意味があると思ってるんだろ、続けていきたいんだろ
・・・だからお前とのことを終わらせようとしない。
・・・・あとはオマエの気持ちしだいだ。お前は、どうしたいんだ?」

そ、んな・・・・・。
牧さんは俺に今後の選択権がある、みたいな風に言うけど・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・だって、藤真さんなんて、すごすぎて・・・・・・・
キレイだし男からも女からも、老若男女にモテるし・・・
バスケもできて頭もいいし!・・・・・俺なんて、釣り合わない・・・」

そうだよ、俺がどうこう言っていい相手じゃないんだよ!
あの人は。なんて言うか・・・・身分が違うんだ!

その俺の、消え入りそうな消極的な発言に、
牧さんは大袈裟に溜め息をついてみせた。
「・・・・・もう、お前らってほんっっとうに呆れるな。
あいつも・・・藤真も同じようなことを言ってたぞ」
「藤真さんが・・・・・何を同じようなこと言うことがあるんですか」
「”清田は明るくて従順で可愛いしかっこいいし、お姉サマとかからモテそうだし”??
 ”オレ自信ないよ”とも言ってたな~、藤真のやつ・・・・・・・。
 ・・・俺は両方からのろけを聞かされてな、たまらん。やっとれん」
「・・・・・・・!?藤真さんが、・・・藤真さんが本当にそんなことを・・・・!?」
「ああ、おまえら双子みたいだぞ、いいコンビだ・・・・実に面白くないがな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「藤真は・・・精神的に大人で、一見強そうに見えるかもしれんが
実は普通の人間よりずっとナイーブなんだ。
それにプライドが高そうに見えるかもしれんが、意外にそんなこともない。
謙虚なくらいだ・・・バスケのこと意外はな。
・・・お前、あいつと一緒にいて気づかなかったか??」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ほんとに?
ほんとかよ??
俺いま、すっげぇ、
・・・・・・すっげぇ嬉しいんですけど、藤真さん。
藤真さんが俺と同じ気持ちでいてくれてるなんて。

でも、
でも同時に、
俺いま、すっげぇ、
・・・・・・・・・すっげぇ情けないっす。

藤真さんにも、見通しのない不安とか、こんな胸の痛みとか、眠れない夜とか。
そんなの味あわせてたなんて思ったら、情けなくて、恥ずかしくて、
藤真さんが可哀相すぎて、今にもぶっ倒れそうに息苦しくなってきたっす。

「だいたい普段から自信の塊でできてるみたいなお前が、
どうして藤真のことになるとそんなに謙虚になる?
・・・まぁ、どうしてもお前が自信を持てなくて、藤真とやっていけないって言うのなら・・
お前がホレた藤真は精神的に大人で強くて、鉄壁みたいにプライドの高い藤真で、
弱々しい藤真はお呼びでない・・と言うのならば・・・・本当に俺の出番だな」
・・・・・・・そういって、牧さんはニヤリと笑った。

「・・・・・!!すんません牧さん・・・!!出番、ないですから・・・・・
話聞いてくれて、ほんとうにありがとうございましたっっ!!」
・・・・・・・そういい残すと、清田は勢いよく校庭に飛び出していった。


「・・・・・”出番ないですから”か、先輩に向かって失礼なやつめ。
まったくもう、世話の焼けるやつらだ・・・・・・・・・」
「・・・・これでよかったんですか?牧さん」
牧の後ろにはいつの間にか神が来ていた。
「・・・・可愛い後輩だからな。それに・・・藤真には幸せになってほしい。
”愛するが故に身を引く” ってやつだ、これが」

・・・そういって苦笑した牧に、
「・・・損な役回りですね」
そう言って神も苦笑で返した。

・・・ところで、なんで神さんは事情がわかってるって?
それは、神さんだからです。
何故か神さんにはなんでもわかってしまうのでした


一方の清田くんはというと、その頃・・・・・・・・
「藤真さん・・・・・・・・ほんっとすんません、藤真さん・・・藤真さん!!
俺、自分が許せないっす!殴ってやる!!えいっ!!このこのっ!!!」

呪文みたいにそんなことを唱えながら、
自分で自分を殴りながら、大通りを爆走しておりました。不審者ですね。

さて、どうなることやら・・・・・・つぎはいよいよクライマックスです。



牧さんも、このバカップルの前には形無し。