YUMEIWA LAST BOY1
 



人生には、

時として、計り知れないことが起こるもの。

そんなことを、

早くも悟ってしまいました。


・・・・・・・・・清田信長、まだ高校1年生。


YUMEGIWA LAST BOY1


・・・・・藤真さんと俺がそういう風になったのは本当に偶然だ。

偶然だったんだ!!


そういう風にしようとも、
そういう風になりたいとも思ってなくて・・・
いや、それはちょっとは思ったことあったかもしれないけど、
まさかほんとになるとか、
なったときのことなんて現実味なさすぎて、想像したこともなかった。


そう、すべては他校の先輩・・・
いや、先輩とも呼べない・・・・・・
笑うことに取り付かれた、悪魔たちの戯れからこうなったんだ!!


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「おい、トランプやるやつ~~!!」

事の起こりは選抜合宿での、湘北・三井寿(悪魔1号)のこの言葉だった。

この時にいなければよかったんだ・・・・・あの部屋に。

「はいは~い、俺やる~~!!」

勢いよく手をあげたのは宮城(悪魔2号)、清田・・・のみ。

神のように課題をやらなきゃ・・・と散っていったもの、
流川のようにすでに眠りについたもの、
仙道のように行方不明なもの。



「3人でか・・・・・で、何やるんっすか」
「大富豪でもすっか」
「だ、大富豪~~??!!」
「なんだ清田、苦手なのかよ」
2人は動揺する清田を見てフっと笑った。
「に、苦手なもんか!!バカにすんなよなっっ湘北の分際で!」
・・・・・・ほんとうは、結構貧民になる率高かったりして、俺。

「言いやがったな!この海南かぶれが!!」
「・・・・言ったからにはやるんだろ??海南のスーパールーキー君?!」
「・・・・おうっっ、やったら~~!!!!!」
「じゃあ罰ゲームは貧民になったやつが富豪と平民に・・・
残り2人にジュース奢りで・・・
・・・・てかやっぱ、罰ゲームは後で考えっか」
「そ~っスね。はじめましょうか」


・・・・・・これで勝って、逆にバカにし返してやるっっ見てろよ!!
海南のスーパールーキー清田、いざ!!

・・・・・・・・・・・かくして結果は・・・・・。

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「・・・・・・よっしゃ~!俺もあがりだ!!」
宮城の喜びの声が上がった。

・・・こうして富豪・三井、平民・宮城、貧民・清田という構図はできあがったのだった。

「・・・ちくしょ~~!!」
「オマエ、弱えのな~~!あんな大ミエきっといてよ!!」
「うるさいな~っっ、ほっといてくださいよ!」
くそ~~くそ~~、こんなつもりじゃぁぁ~~~!!
清田が負けにもんもんとしている間に、三井と宮城が内緒話のようにボソボソとなにか話していた。

「清田~、それで罰ゲームなんだが・・・・・・・」
「・・・・ああ!?ちゃんと買ってきますよジュース。
何にするんスか、コーラ?ウーロン茶?!ビールはダメっすからね!!」
「ばか、罰ゲームはあとで考えるっていったろうが」
「ええ~~~~!!??聞いてないッスよ!!」
「い~~や、たしかに俺はいったぞ、な、宮城」
「そ~っスよね」
ぐっっ・・・・こんなときだけ結束が固くなる湘北なんて・・・・・・・・・嫌いだっっ!!


清田は2人の凶悪な笑顔に一瞬たじろいだが、自分の負けはたしかに負け。
ここで罰ゲームから逃げることはしてはいけないし、何より自分のヘンな意地が許さなかった。

「・・・・・いいっすよ!煮るなり焼くなり、もうなんでも!!」
こうなりゃヤケだっつうの!
「なんでもか~~、いい返事だなぁ、何お願いしようかな~」
「・・・・・・ひゃ、百万よこせとか、いっぺん死ねとかはムリっすからね!」
「言わね~よ、バカ」
だって言い出しそうじゃないか、この2人なら!
今も、清田の罰ゲームを考えるのが面白くてしかたないといった不気味な微笑をもらしている。



「もう合宿も終わりだっつうのに、土産話になるようなこともなかったからな。
ここらで清田にドカーーン!!と、でかいネタやってシメてもらいたいよな」
「そうだよ、清田。おまえ合宿のトリだぜ!?大役じゃん、いいなぁ~~」
「もう、なんでもいいッスから早く言ってくださいよ!!・・・じゃないともうやりません!!」
「まぁまぁ・・・そう早まるなって・・・そうだ!!告白ってどッスか、三井サン!?」

・・・・・・・宮城が、トンでもないことを言い出した。

「告白!?野郎が野郎にか!!??」
「そーです、しかも冗談じゃないような、マジな風に。マジ告白!」
「・・・じょじょじょ、じょーだんじゃないッスよ!!」
「・・・・それって面白れーか??」
「そ、そーですよ!!全っっ然おもしろくもなんともないッスよ!!却下ッスよそんなの!!!」
・・・・・・・・・そんな、白羽の矢があの人に立ったりしたら!!

「だ~か~ら~、面白くなるようなヤツを相手に選ぶんですよ~、例えば・・・藤真とか」
「ふ、・・・・・藤真っっ!?翔陽の藤真!!??」
「・・・・・・・翔陽じゃない藤真がどこにいんだよ、そんなにキーキー騒ぐな。
・・・・・実際ど~ッスかね、三井サン」

三井は、う~~~んと大げさに唸って考え込んだ、

が。

「・・・・・宮城それ、面白れ~かもしれね~なぁぁ」

・・・・・・・・・・そういって上げた三井の顔は、悪魔の微笑みのように歪んで見えた。

「でしょ?!・・・・・・決ーー定!!
貧民の清田くん、藤真さんに愛の告白!!」
「がっはっはっは~~!!清田が藤真にマジ告白!!!
藤真のやつどうすっかなぁ~~??!!
「俺、めっちゃキレるのに賭けよっと!
張り手とかゲンコツですんだらいいほうかもしれませんよね?!」
「いやいや、案外氷の眼差しで一瞥くれただけで、
もうこいつとは一生口きかなねぇかもしんね~ぞ??」
「あ、有り得ますね~、ソレも」
「・・・・・ま、どちらにせよ冗談じゃすまない結果になりそうだけどな~~!!!」
「ぎゃっはっはっは~~!!!!」
「じょ、冗談じゃないっすよ!!!!」

殴り殺されるのも一生シカトされるのも、どっちも冗談じゃない!!
しかも、・・・・・あの 『藤真さん』 に告白という辺りが、
俺にとっては最大に冗談じゃなすまなかった。

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藤真さんのことを初めてみたのは、
5月始めにうちの、海南の体育館でやった練習試合。

最初はさ・・・・・藤真がなんだって思ってたよ、正直。

でも、プレイしてみたら全然敵わなかったんだ。

・・・・・・・って、認めたくねぇけどな!!

まぁ・・・あの人も3年で、しかもあの牧さんと並び評される人なワケで、
そのくらいじゃなきゃ困るけどな!


んでさ、ここまではマトモだったワケ、俺的にも。

問題は。

その練習試合の短い時間の後に、藤真さんが俺の頭に巣食ったこと。


キレイな人だな~ってのは初めて見たときから思った。

俺の幼稚園のときの初恋の、美人でやさしくて大好きだったエリカ先生に似てると思った。

でも、その始めのうちの 『他の人よりはちょっと気になる藤真さん』 ・・・が、
短時間で俺の中で、急激に変化していった。


ベンチでのクレバーな姿を見て大人だな、
あの落ち着きで高校生か?って思って。

プレイを見てすげぇって思って目が離せなくて、
監督のときとのギャップにびっくりして、

試合終わって更衣室いくときに、
それまでスカしてたのにあの人躓いて・・・コケそうになって、

それを恥ずかしそうにちょっとぺろって舌だしたのを見たんだ。

それだけで、・・・俺のハートのツボの、ど真ん中を、ずきゅーーんだ。

それだけでもう十分、完璧だった。

藤真さんが 『どうしようもなく気になる人』 になるのは・・・・・。


それから彼を試合会場とかで見かけるたびに、
自分が目を奪われているのには気づいてた。

しかもその憧れみたいなのが、恋ゴコロってやつと髪一重なことも分かってた。

でも、不思議とそこから・・・・・
どうしたいとかは思わなかったんだ。

今までだと好きな子とかできると、それとなくアッタクしたり
・・・ときには告ったこともあった。

でも、今回のは。

藤真さんと俺・・・・・なんて、現実味なさすぎる。

男同士・・・・とか以前に、本当に現実味がなかったんだ。

・・・・・・・そうなったときを想像してみたこともあった、でも、

それは成功しなかった。想像できなかったんだ。

なんていうか・・・ホント見てるだけで十分!!だったんだ。
幸せになれてたんだ。

手に入れたいとか付き合いたいとか、あの人にそんなこと言うなんて、許されない気がした。

それに何度か牧さんといるときにあの人と一緒になって、挨拶くらいしたけど、

・・・・・・俺はキンチョーでまともに目をあわせることもできなかったんだ。


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・・・・・そんなこんなで、俺にとって藤真さんって人は
憧れの高嶺の花の人になんだ。

その藤真さんに。

告れ、というのだ。この面白いことに取り付かれた悪魔たちは。


「・・・・・・いやッス!!!絶対!!そんな、藤真に告るなんてゼッタイ!!!」
「オマエ、なんかみょーに否定に熱入ってないか??・・・・なんかワケありか??」

きょえあ~~~~!!!!ぎっくーーーん!!!!

「・・・・・・・オマエ実は、藤真のこと超嫌いとか??」
あ、よかった、バレてない・・・・・・・・・でも、
その逆だから困ってんじゃないッスか・・・・・・この超鈍感&凸凹悪魔2人は!!

「なんなら、藤真とキッス!とかでもいいんだぜ??それとも、抱きついて・・・それで」
「ヒィ!!・・や、やる!!やりますよ、・・・・・・・・・やってやる!!」
罰ゲームがエスカレートする危険を感じた俺は、
つい、反射的にそう答えてしまっていた・・・・・・・・。


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「おい、ここじゃ遠くねえか・・・・・・・・・??離れすぎじゃねェ・・・??」
「清田にはちゃんと大声で言えって言っときましたから・・・・・
だってこれ以上近づいたら・・・藤真にバレちゃいますよ・・・・・
あいつにハメたなんて気づかれたらそれこそ俺らだって・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・命が危ね~よな・・・それだけはカンベンだぜ」

・・・・・・・悪魔2人組、三井と宮城は木陰で2人の成り行きを見守っていた。



「あの・・・・・・ですね、その・・・・・・・・・・・」

俺は藤真さんを悪魔の言った通りに、
プレーのことでちょっと相談がある、と合宿所の裏に呼び出した。

・・・・・藤真さんはちょっとヘンな顔をしたけど、黙って俺についてきてくれて、今ここにいる。


「えっとですね~~~・・・・・・・・・・・あ~~~・・・・・・・」
「・・・・清田、・・・・・・・・牧や神には言いにくいことなのか??お前がオレに相談なんて・・・・・・・・」
・・・・・・・ああ、やっぱおかしいですよね?!そうですよね!!

ポジションも違う、しかもライバル校の親しくもない先輩呼び出して
バスケの相談なんて・・・・・・・!!


「いいよ・・・・・言えるまで待ってる、無理すんな」
・・・・・・・・藤真さん、俺にそんな優しい言葉かけないでください!!

ち、チクショ~~~!!!!!!!


本格的に俺は良心が痛んできた。
いま、正面にいる藤真さんは、オレのことを本気で心配してくれているように思う。
俺の、藤真さんをハメようとしてる俺なんかのために・・・・・・・・・
ごめんなさい、藤真さん・・・・・ごめんなさい・・・・・・・・・・!!



「藤真さん、俺っっ・・・・・・・・・!!!」

言わなきゃ、と思った。

こんなことくらいで、藤真さんをいつまでも待たせちゃ悪い。

俺のために待ってくれてる藤真さんが可哀想すぎる。


それに、

俺は憧れの人を前にしてただでさえ緊張していた。

心臓なんてバクバクいって、今にも口から飛び出しそうだった。


「俺・・・・・・・・!!!」

藤真さんが俺の切羽詰った様子に大きな目をさらにまん丸に見開くのが見えた。
ああ、もう・・・・・・あなたはなんでそんなにキレイで可愛くて純粋なんですか??!!



もはや、これが罰ゲームなのかなんなのか、俺にはわからなくなっていた。

本物の、告白みたいだった。
いや、そういう気持ち・・・・・・・それ以上だった。

・・・・・・今まで味わったことないくらいの緊張感、高揚感・・・・・・・・・・・。

「俺、藤真さんのことが・・・・・・ずっとずっと好きだったんッス!!!!!」



・・・・・・・・・・・言ってシマッタ・・・・・・・・・・・・・・。

俺はこれからくる叱咤か無視かよくわかんないけど・・・・を浴びるために身構えた。

傷つくのは、覚悟の上だ。

だって藤真さんへの告白を罰ゲームでしたっていう俺のこの罪は、重罪だ。


藤真さん、俺はあなたにとんでもないことしたんです、だから、

返信で、思いっきり、思いっきり傷つけてくれてかまいません!!!!!

俺は、これから来るであろう精神的なのか物理的なのかの
衝撃に耐えうるように、歯を食いしばった。

が。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
オレも・・・」


「え?」

木の葉が風で揺れる音で、よく聞こえない。

けど、

藤真さん、今・・・・・・・・・・


「嬉しいよ・・・・・・・・オレも、
・・・・・・・好きだ、オマエのこと・・・・・・・・・」


『オレも』って、
・・・・・・・・・・・そう言ったんだ・・・・・・・・・・・・・・・。



俺はぼーぜんとその場に立ち尽くしていた。

頭がからっぽすぎて、何にも考えられない。

藤真さんの顔色は、周りが真っ暗だからわかるはずもないんだけど、
絶対いま、林檎色だろう。

・・・・・・・・・・そういう、照れて困った表情をしていた。


「清田・・・・・・・・・・・・・・??」
「・・・・・・あわわ・・・・・・・・は、はい・・・・・・・・・・・・・・??」
藤真さんに呼ばれて、俺は現実に引き戻された。
どうやら完全にトランス・・・脱魂していたらしい。
きっとめちゃくちゃ間抜けなツラを見られてしまっただろう。

恥ずかしい・・・・・恥ずかしい・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・告白する前や言った瞬間より、全然恥ずかしいっす!!!!!

しかも、湧き上がってくるこの胸のもやもやは・・・・罪悪感???


「・・・・・・・清田、俺、もう戻らなきゃ・・・・・・・・・・」

藤真さんが気まずそうに、小さな声で言った。

「あ・・・・・・・・・・・は、はい・・・・・・・」

「それで、・・・・・・・・全然明日で、かまわないんだけど・・・・・・・・・・」

・・・・・藤真さんは、さも恥ずかしそうな様子で、
視線を俺のクツのあたりに落としながら、小さな掠れ声でこう言った。

「・・・よかったら携帯・・・・・・教えてくれ・・・・・・・・・・・・・・じゃあ」

こう言ったんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


それって、何なんスかね、藤真さん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


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「お~お~清田!!オマエよくやったぞ、男らし~~っっ!!」
「『俺、藤真さんのことが・・・・・!!』って、
かなりマジっぽかったぞ!!笑わせてもらったぜ~~!!」
「そんで・・・・・・聞こえなかったんだが、藤真は何ていったんだ??」
「殴りもキレもせず行っちまったとこをみると・・・・やっぱあれか、ガン無視か??!!」
「あ・・・・・・・・・・・」
「『あ』、じゃね~よ。おまえの告白に藤真はなんて答えたんだっつうの!!」
「・・・・悪い冗談はよせって・・・・・・・それで早く寝ろって・・・・・・言われました・・・・・・・・・・・・・」

とっさに、ウソをついた。

いつもの俺から考えれば、出来過ぎくらいのウソだ。


「ああ??なんだそりゃ・・・・・・・・めちゃくちゃフツウじゃんか」
「面白くもおかしくもね~な・・・・・・・これだったらジュースにしときゃよかったかなぁぁ」
「・・・そ~ッスね、うわ~これは考えなかったな~~・・・」
「・・・・・・・・もとはと言えば宮城、オマエがコレやろうって言い出したんだぜ?!」
「なっ・・・・・・・そ~ゆ~三井さんだってノリノリだったでしょ~が!!」
「・・・てか、まさか藤真がフツーに返すなんて思わなかったよな~~」
「いっそのこと、藤真じゃなくて神にすればよかったですかね~~??」
「うわっっ!そこまで俺は残酷になれね~な・・・・神だったらさ・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?」


・・・・・・・・2人の面白大好き悪魔は、
未だにぼーっと立ち尽くしている清田に見向きもせず、
くだらない談笑をしながらさっさと宿舎の中に入っていってしまった。



一方の清田は、まだ立ち尽くしていた。


なんで、なんで・・・・・・・・・、

張り手しなかったんスか?無視しなかったんスか??

なんで、冗談ですましてくんなかったんスか??

なんで、なんで・・・・・・・・・・・・・・・。

真剣に、答えたりなんて・・・・・・・・・・・・・・・・

『・・・・・・オレも、好きだ・・・・・・・・・・・・・・・』なんて、

ありえないッスよ。


・・・・・・・まじッスか??

なんで、なんであんなこと・・・・・・シャレにならないですよ・・・・・・・

これは夢ですか??悪い夢ですか??

そうだって・・・・夢だって、

答えてくださいよ、藤真さん・・・・・・・・・・・・・・



・・・ふと、激しく吹き抜けた風の中に、気配を感じて振り返ると、

そこには・・頭上には、俺を笑うようにまんまるの白い光の塊があって。

月。満月。

まるですべて、夢際のような出来事。

でも、決して夢じゃないと、言い聞かせる様な。

言葉じゃ表せないけど・・・何故だかめちゃくちゃ脱力した。

・・・とうとう俺は、へなへなとその場にしゃがみこんでしまった。






10月4日、清藤の日。あんまお祝いになってません・・・・・。
タイトルはスーパーカーの曲からいただきました。『ピンポン』のテーマだけど;
(>2013.03.03改訂)