その日、オレは初めてバーというものに行き、カウンターに座った。
「さすが仙道くん、場慣れしてるね」
「そんなことないよ」
・・・うーんホントに、落ち着かないんだけどなぁ。
会社の同僚男女4人で居酒屋で飲んでいて、その延長で何故かこのお洒落なバーに行くことになった。
高校時代のバスケ部で一緒で、会社でも一緒になり、同僚というより友達に近い越野。
見やると、何を話しているのか身振り手振りを入れて同じく同期の女の子になにやら熱く語っている。
女の子は苦笑してる。でも、仲の良い可愛らしいカップルに見える。
俺とこの右隣の落ち着いた彼女も、客観的に見れば十分カップルだろう。
と、
突然俺の左隣から気配が。
左隣の、随分前から酔いつぶれていたらしいスーツを着た人物が、意識を取り戻したらしかった。
反射的にそちらを見る。
と、
その人物の寝起きの(酔いのせいもあるのだろう)、うつろな瞳と目が合った。
1つ目は彼・・が、世にも美しい人物だったこと。
2つ目は・・彼、に、俺は昔会ったことがあるということ。
彼は、翔陽の・・・
「あの」 大丈夫ですか?
「・・・さっき飲んでたの、もー1杯頂戴」
「は?」
次に、中指と人差し指をくっつけて合図、 『ダブルで』 と示した。
その指示で、バーテンはロックグラスにウイスキーをたっぷり注いだのを2杯作った。
その一つを、彼は俺に勧めてきた。
「・・お一つは〜、こちら方へ・・・」
「ちょ・・・藤真さん!」
「あ?」
「藤真さん・・ですよね?大丈夫ですか?随分飲まれてるみたいですけど・・・」
「なんれ、オレの名前・・・」
「俺、バスケで・・・陵南高校だった仙道です。合宿も一緒だったのに・・まぁ7年も前のことですけど」
「せんろー?」
「はい」
・・ろれつ回ってないし。
ちょっとちがうけど、それがまた可愛くて返事してしまう。
その俺のカミングアウト?に彼は、俺を思い出したのか思い出せずとも話は理解したのか・・
どうやらその、どちらでもないようだ。
彼は、おもむろに自分の鞄をゴソゴソやって、黒革の手帖を取り出した。
手帖をめくり、ぱらぱらと見やる。
結構過密にスケジュールを書き込んでいると見える。仕事だろう。
でも、こんな、隙だらけの人・・だったっけ?藤真さんて、こんな・・・・
と、突然
彼がくるりと手帖から頭を上げ、上目遣いで俺を見た。
俺の心臓がどきっとハデな音を立てる。なんでだ。
「・・・ん〜と、この日にしよう、7日。7日の22時にここで待ち合わせ。空いてる?い〜い?」
「ちょ・・・待ってくださいよ、7日? が、なんなんですか?」
「・・オレ、おまえとしたいらら」
「は?」
「オレ、おまえとセックスしたい」
だから、7日にやろうって。空いてるか? って。確かに彼はそう言った。
・・・・彼がくれた、無理矢理おそろいのウイスキーが、氷に揺らされてカランって鳴った。
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突発妄想。
「あなたとセックスしたい」
杉田か○るさんのあまりに素敵な発言より拝借。最高の誘い文句。
BGMは何故かLUNA SEA の WISH。
ところでバーでのサインってここに書いたので当ってんのかな〜(よく知らない)。