ウエスタン・シビィライゼーション at design office


~最初に~
-これだけわかればとりあえずOK!!K電産について-
(※詳しくは拙サイトの”K電産虎の巻”と”相関図”をご参照のこと)


★高校のバスケ一色時代から8年後の2012年~。
皆、企業戦士になりました。舞台は神奈川を代表する巨大電気機器メーカー、K電産。

★K電産とは・・・神奈川K市に本社を置く。とにかくデカい。
単体で5万人。グループ連結で10万人超。海外にも拠点多数。
手がけている製品はロケットの設計・開発・製造から生活家電まで色々。
藤真たちが配属されているのは本社の自動車部門(2万人がここで稼働中)。

☆藤真、伊藤、清田は同じ部署の同じ課員で、エンジニア(技術者)。
エンジン生産技術部で共に自動車エンジンの設計・開発をしている。
藤真の部下に伊藤と清田がいる感じ。

藤真健司(26)
>エンジン生産技術部2課主任を務めている。

伊藤卓(25)
>エンジン生産技術部2課所属。

清田信長(24)
>エンジン生産技術部2課所属。

岸本実理(26)
>本社内西工場のエンジン製造ラインで現場監督を務める。

・藤真-清田は2つ年齢が違うが、藤真が大卒で清田が高専卒なので、同期入社。
・岸本は藤真と同じ年だが、高卒入社なので会社自体8年目のベテラン。
・藤真と同じ部署の1課に牧がいる。同期入社。牧も藤真と同格の主任。
「エンジン部の双璧、1課の(帝王)牧に2課の(女王)藤真」と称される。


・・と、このくらいわかればとりあえず読めます↓↓↓本編へどうぞ。


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「佐伯、A車の部品、早く試作に持ちこめ!」
「清田、図面のここ!結線切れてるぞ!今月2回目だろ、寝てんのか!?」
「夏目、手が空いたら午前のデザインレビューの報告を頼む!」


今日もK電産A館14階、エンジン生産技術部に2課主任の藤真のハリのある声が飛び交っていた。
間もなくそこに、招かれざる客たちが来ることはまだ誰も知らない・・・。

「で、具体的に何dB違う?10?・・考えられる原因は?ああ、まずはそこを探ってくれ」
・・藤真が実験室に行っている部下と内線で話している時に、それはやってきた。

「いきなり何なんですか!こ、困ります!」
入口付近が騒がしく、藤真や清田、他デスクにいた社員が顔を上げてそちらを見ると
工場の作業着を来た体格の良い男5人を、伊藤が押しとどめているところだった。

「3課の恩田室長出してもらおか」
「お、恩田室長!?・・デトロイトに出張中で月末まで帰って来ませんが」
「・・ほな、相沢課長はおるか?」
「相沢さんも、タイへ出張で不在です」
「何だとぉ?不具合出しといて高飛びかよ!なめてんのかエンジン生技!!」
「そんな!・・出張には、今回の不具合が発覚する前から行ってるんです」
「お前じゃ話にならん、すっこんどれ!そいつらが留守なら、誰でもええ。役職者出せ!」
「でも・・!」
「ああっうるせーな!上司出せってゆってんのが聞こえねーのか、あ!?」
・・中の1人が伊藤の胸倉を突き飛ばすように押して、そうされた彼はよろめいた。

「やめろ!」
それらの罵声を、凛とした声が切り裂く。声の主は、藤真だった。
まだ電話中だった彼は、受話器を手のひらで塞いでいた。
「悪い。後でかけ直す」と内線を置くとつかつかと前へ躍り出た。
「俺の部下に触るな」
と、威圧を含んだ視線と張りつめた声色で言い放ち、伊藤をかばうように前に立ちはだかった。

ドスを効かせた彼の声と美しすぎる冷たい容姿は、皆が後ずさる程に壮絶だった。
女子が子どもの頃に憧れる 王子様 というのは彼のような人物のことを言うのだろう。
そして、高校時代はバスケ関係者たちが称し、現在はK電産社員たちが称す 女王様 とは
彼のこういう勇猛果敢で高潔な振る舞いから発せられたのだろう。
藤真はスーツのジャケットを袖を通して着ず、マントのように肩から羽織っていた。
某お嬢系ファッション雑誌で言うところの、 松方掛け である。
(これは藤真が高校時代、バスケ部で監督を務めていたときからの名残であり、癖でもある)
これも嫌味やキザを通り越して絵のように似合っていて、彼の迫力をより強めていた。
(自身はひどい冷え症であるのに、これをやっていないと落ちつかないという
藤真にとっては難儀な癖なのであった)

・・藤真が対峙した相手は皆、本社西工場・エンジン製造ラインの工員だった。見知った顔もある。
「おー!これはこれは。名物主任の登場ですか」
「俺、初めて見たぁ!部署の女どもがキャーキャー騒いでたの、こいつのことかぁ!
・・なーるほどなぁ。ふーん。これだったら確かに騒がれるわなぁ!」」
「2課の藤真さんよぉ。噂に勝る、人形みたいなツラしてんのな」
「2課の女王藤真、だろ!」
「そのあだな、ぴったりー!!」
「そんなに険しい顔して、美人が台無しだぜ」
一同は、一斉に下品な笑い声を上げる。
すると、それを制する関西弁が上がった。

「おい、やめや!くだらんお喋りしにきたんちゃうぞ!」
その中で1人仏頂面を通している、まだ若いが
相手を震え上がらせるのに十分な貫録のあるその男は、
藤真と同い年でエンジン製造ラインの現場監督を務めている、岸本実理だ。

「・・久しぶりやな藤真」
「岸本」
「何の用だよ、製造ラインのお上品な皆さんお揃いでよ」
清田が、不機嫌そうに発した。
「何の用、やて?」
この一言で、岸本のこめかみに怒りで血管が浮かんだ。

「おまえらエンジン生技部は、不具合出しといて何か他に言う事ないんかい!?
俺らがギリギリで気付いたから良かったもんを!
あのまま市場に出しとったらリコール間違いなかったわ!!
お前らエンジニアは学歴ぶら下げとる高給取りの癖に、全員役立たずやな!
おまけに礼儀も知らんとは!」

・・岸本が言っているのは、先週出た製品不具合のことだ。
部品のソフト部分を担当しているエンジン生産技術部3課が、不良を出したのだ。設計ミスだった。
配属されて2年目の社員が担当した部分が原因だった。
もっとも、彼の担当した部分を2人の担当主任、課長、室長・・と実に4人がチェックしたはずだったが
いずれもザルチェックで、どこにも引っかからず量産製造直前まで行ってしまっていた。

「ちょっと待てよ。それって3課の、ソフト的な話だろ!?
何で2課でハード担当の俺らが言われなきゃなんねーんだよ。
3課に言えよな3課に!・・あいにく今、展示会で全員出払ってるみたいだけどな!」
清田が、むっとして言い返す。
「何やとこのサル!」
「やめろ清田!!」
藤真に厳しく制止されて、ぐっと詰まる。
「だって藤真さん!」
「課が違っても、同じエンジン生技が不良を出したことに間違いはないんだ。
・・・悪かった岸本。今回の事は、すでに謝罪が何らかの形で行ったと思っていたんだ」
「ふんっ、何もないわい。何も説明なしに突然 ”不具合はもう改善したから
同じもんを今週中までに5万台作れ” っちゅう無茶苦茶な指示だけ下りてきよった。
5万台、今週中やぞ!?・・おまえらは、頭おかしいんか。
機械が自動で全部作ってくれるとでも思っとんのちゃうか?
その機械を動かしとんのは、人間やねんぞ!!
それもわかっとってゆっとるんやったら・・ヤクザか?
いや、今時ヤクザのが筋通すわな・・おまえらは、ただの鬼畜や!
ああ!?どないなっとんや!!」
岸本は、一気にまくし立てた。
怒りのせいなのか悔しさのせいなのか、荒く息をする肩が震えている。

岸本の鬼気迫る様子に気圧されての沈黙――。
誰が破るのかと思われたが、そういった重苦しい場面を打開するのはやはりこの男だった。
「謝罪も何も、なかったのか・・それは確かに、筋違いだ。
おまけに今週中に5万台とは・・怒るのも無理はない」
「藤真・・」

「・・不良不良ってゆったって、確率的にはすげー少ない不良だったんだろ?
見つけたのだって、たまたまだって聞いたぜ?しょうがねーじゃん!!
そんなの、塞ぐ方が難しいんだよ!機械をそっちの工員が、人間が動かしてるように、
部品の設計してるのだってこっちの俺ら、設計の人間なんだよ!
人間がやってる限り、不良100%ゼロ、なんて無理だろ!?空理空論言うなよ!」
清田のその言動に 何やて!? と再び激昂しそうになったと同時、
藤真のゲンコツが清田の頭に見事に降り下ろされたので、岸本は目を丸くして固まってしまった。

「いっ・・・・ってー!!藤真さん!?」
「・・馬鹿野郎!!何度言ったらわかるんだ!
不良は、たまたまでも、万が一でも出したらいけないんだよ!
5万台の内のたった1台だって、ひとりの消費者にとってはその1台がすべてだ!
その1台が道路を走る!何人もの人間が乗るんだ!命を・・・命を預けるんだぞ!!」
「た、確かにそうっすけど・・!」
「この1年間に事故が原因でリコールになった製品は全国で142品目もある。
この数字を見る限り、お前の理論は正しいのかもしれないな。
”人間がやってる限り、不良100%ゼロ、なんて無理”を顕著に表してる。
・・だが、その製品の開発・製造に関わった人間が、始めからそんなナメた考えで
それを作ったと・・エンジニアのおまえが、本気で思うのか?」
「まさか!それは・・」
「もう少しで・・もう少しでK電産の製品を143品目にするところだったんだぞ!?
消費者や取引先からの信頼なんてな!何十年もかけてこつこつ積み重ねてきたものが
たったひとつの不良で、リコールで、一瞬にして、簡単に崩れるんだぞ!?
それなのに!何故おまえはその重大性を理解しない!?
清田・・・あの文字が見えねえか?」
藤真が ビッ と指さした先には額縁に入れて仰々しく掲げられた
K電産・社訓がある。
「・・・!!”K電産三大原則!!
品質第一、お客様満足の徹底追求、理想への飽くなき挑戦”です!」
「そうだ!それなのにおまえのさっきの発言は何だ!?
不良ゼロが、空理空論だと!?”理想への飽くなき挑戦”はどうした!?
いくら不可能なことだって、俺らが・・俺らが妥協するワケにはいかないんだ!
それができないなら、職務放棄と一緒だぞ!K電産の社員なら、甘ったれたこと言うな!!」
「・・・すみません、藤真さん・・・」
「そんなナメたことを言ってるから何度もポカミスするんだ!」
「ぐっ・・・!」
「・・藤真・・・・」

藤真が烈火のごとく怒りマシンガントークするのを見て、
逆に落ち着きを取り戻した岸本だった(言いたかったことはすべて藤真が言ってしまった)。
・・が、残りの工員たちはそうはいかなかったようだ。

「・・おーおー、顔に似合わずおっかないねぇ!藤真主任は」
「俺ら結局、3課さんでも2課さんでも良いんだよなぁ」
「とにかく誠意を見せてほしいワケ。謝りにきてくださいよ。今すぐ!!」
「今すぐ?」
「だって試作品不良で作り直しで随分時間喰っちゃったから。
先方の言ってきてる納期まで全然日程ないんだぜ?」
「おかげでこちらは、土日も夜間もフル稼働よ。馬鹿な要求投げやがって!」
「で、ラインメンバはみんなカンカンに怒ってるんすよ。
このままだとストライキや暴動でも起きかねないぜ」
「そんなことになっていたとは・・」
「だけどこんなイケメン主任が謝りに来てくれたら少しは事態が収まるかもなぁ!」
「どうせなら、あいつが謝るところも見たかったけど~!サラブレッドの1課・牧主任が!」
「今日は、帝王牧さんはいないんすね」
「・・バスケの方に行ってます。今頃試合の真っ最中です」
「かーっ!気楽でいいなぁ!!玉入れ遊びでお給料もらえるとは」
「イイ御身分ですこと!!」
「・・てんめぇーら!!!」
清田が髪の毛を逆立てそうな勢いで怒る。

「清田、抑えろ!・・牧ですが、あいつにはバスケも大事な仕事です。
会社のために頑張ってるんです。理解してやってください」
「はん、藤真主任はライバル主任を庇うのかい。美しい友情だねぇ」
「ライバルではありません。今は、仲間です」
「今は・・ね。ま、何でもいいよ。あんたでいい。今すぐ来てくれよ!藤真さん」
「おお!早く来いよ!!」
男たちはそう言い放って、中のひとりが藤真の白い手首を掴みあげた。
その強引な動作に、藤真は思わず眉をしかめる。
突如、岸本の怒号が飛んだ。

「やめんかい!他部署の主任に気易く触るな!」
「でもよー!岸本さん!」」
「黙っとれ!!さっさと手ぇ離さんかい!!」
「・・いいよ岸本。だが、俺は引っ張って行かれなくたって、自分で謝りに行ける」
そう言いながらネイビーのネクタイを解き、首から赤いストラップでかけていた従業員証も外す。
現場では、工機に巻き込まれる危険のあるネクタイや、
従業員証の紐のような、長く垂れ下ったものは御法度だからだ。

その藤真の様子を見て・・自分を始め、周りが息を飲むのがわかる。
つくづく、藤真は何をやらせても絵になる男だ、と岸本は思う。
ネクタイに、従業員証。それらを外す仕草は決して怠慢でも格好つけでもないのに、
ドラマの中のひとコマのように、時が止まったかのようにどこか優雅だ。

次の瞬間、自分の背後で何か重量のあるものが倒れる様な音がして、
自分の部下たちの切迫した声が上がった。

「赤塚!」
「赤塚!?どうした!!」
一緒に来ていた、まだ二十歳の赤塚が、床に仰向けに倒れていた。
そういえば、彼はここに来てから一言も発していない。顔面蒼白だ。
ここのところ、元気もなさそうだったではないか。

皆が動転しているところに、即座に藤真がその群れを掻きわけて中に飛び込んできた。
膝をついて、赤塚の顔の傍にしゃがみ込む。
「おい!大丈夫か!?聞こえるか!?」
軽く頬を叩き、反応がないとみると
「伊藤!診療所に電話!来てもらってくれ!担架もいるぞ!」と叫んだ。
「はっ、はいっ!!」
次に首で脈を測り、胸の上下と呼吸音を確認する。
「呼吸も脈もある・・が。何か持病は?」
「・・な、何も聞いとらん!」
岸本が動揺しながらもそう答えたのに、周りの工員も同意するように頷く。
藤真は、赤塚の目の下をめくった。
「白いな、貧血か?・・・とりあえず
圧迫している着衣を脱がせる!岸本、やるぞ!」
「お、おうっ!」
岸本が倒れた赤塚のジャンパーのジッパーを開けてズボンの胴周りを弛める間に
藤真は安全靴を脱がした。
そして貧血時の応急処置として足の下に段ボールを置いて、位置を高くした。
・・すると、赤塚が定まらない焦点だが、薄眼を開けた。

「あっ!気がついたみたいだ!」
「赤塚!?」
「大丈夫か!?」
「・・・」
赤塚は、声が出ないようだが肯定するように頷いた。
「・・意識が戻って、ひとまず良かったな」
そう言いながら藤真が少しだけ勝気な笑顔を見せた。
「だが倒れた時に頭をぶっているからな。このまま産業医の到着を待つぞ」
「今、診療所からスタッフがこちらに向かっています!」電話を終えた伊藤が叫ぶ。
「よし、わかった!」

藤真という男は・・・
何故こんなに何をやらせても絵になるのだろう。
自分の部下が突然目の前で倒れて、岸本はその事実にすぐ反応して対処することができなかった。

それ比べて、藤真は的確だった。
彼は、何事にもショートカットだ。
皆が右往左往しているうちに、正解まで簡単に辿りついて、それを最短でやってのける。
やっぱりこの男は、ただ者ではないのだ。
自分の見込んだ、この男は。



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藤真に「俺の部下に触るな」を言わせたいがために
この話を書いたと言っても過言ではないです・・・。
さすがに丁寧語使うか?「俺の部下に触らないでいただきたい」とか?と思いましたが
ノンノン。ここは、ちょっとケンカに応戦腰で。

いつになく男らしい藤真!!
そしてかばわれたイトタク、役得です。
イトタクは藤真に恋心を抱いているのかも。攻めとしての藤真に・・・!?
それもありだけど、これ以上はあたしには無理です。誰か書いてください・・・。

工員と技術者がこんなに関わるのか!?って感じとか
色々会社の組織的に可笑しなところ多々ありますが
そこは御愛嬌ってことでお許しくださいますと助かります。

というわけで、総受けらしくこの続きはガンガン岸藤でいきますので!!
人生初の岸藤、結構っていうかかなり楽しい!!

BGMは、男らしくBon Jovi!!
Livin' On A Prayer と Born To Be My Babyで!!

(2013.03.12)

 
(お手数ですが、ブラウザでお戻り願います)