Fを束縛する3つのパターン Kの場合
―すべてがFになる―


ご注意:
この話にはミステリー小説・今秋ドラマである
”すべてがFになる”のネタバレが含まれます。
その点、何とぞご了承ください。


Fを束縛する3つのパターン
Kの場合
―すべてがFになる―



男が相手を束縛する場合、ケースが3つあると言われている。

① 自分に自信がない場合
② 相手に経済的、精神的に依存している場合
③ 相手のことを1番、何よりも好きな場合



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清田には、その本だけが飛び出して見えた。
整然と並んだ本棚から、その本の背表紙だけが。


「神さん、これ貸してください」
「ああ、それか・・読書の取っ掛かりには、ちょっと難しいんじゃないかな?」
「難しい?」
「うん、ノブは数学嫌いでしょ?」
「数学!?」
「この本、有名大学の工学部の元助教授が書いてるんだよね」
「え!?小説じゃないんすかこれ?」
「いや、確かに専門書じゃなく、ミステリー小説だよ。
だけど、理数系苦手な人が読んだらちょっと辛いんじゃないかな、って内容だよ?」
「理数系・・・」

理数系、という言葉にまた彼が浮かんだ。
彼は理系のはずだ。
清田が1番苦手な、数学が得意だと言っていた。

「それでなくても、ノブは小説読むの初めてでしょ?これは結構長いし」
「!そうっすけど・・・でも、俺、絶対これがいいです!」


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あの日、神から本を借りた時はまだ半袖を着ていたはずだ。
時は経ち・・・本日は10月4日土曜日。
さすがにもう、夏とは言い難い。

毎日読み進めたはずなのに、ついに季節まで変わってしまっていた。



「でさ・・・って、聞いてるか?清田?」

駅前の喫茶店。
目の前の人物の呼びかけに、おもむろに顔をあげる。
その人物の前に置かれたクリームソーダに、焦点が合った。
爽快感のある緑色のその飲み物は、彼のイメージそのものだ。

「あ・・ハイもちろん」
「じゃあ俺が今何て言ったか言ってみろ」
「え!?・・・ええと・・・」
「ホラ、答えられないじゃん」
「す、スンマセン・・・」
「おいおい~、ただでさえ滅多に会えないのに、何その仕打ち?酷いんじゃないの?
 それとも俺とこうしてても・・つまらなかった?」
「違う!!」
「え」
「違うんです!そんなことはない!
 藤真さんと一緒にいて、つまらないなんてこと、あるはずないでしょ!?」
「う・・・え、あ、そう」
「はい、それはもう、そうですよ!」
「・・・そんな、力いっぱい否定してくれちゃって」
藤真は、心なしか顔を赤くして、うつむいてしまった。

「あ・・なんかその、スンマセン」
「何で謝るんだよ・・・」
「や、その、スンマセン・・・」
「ホラまた・・・ん?何それ」
藤真が清田の開けっ放しの鞄から、覗いていた文庫本を引っ張り出した。

「あ!・・・いやこれは!」
「小説?お前が?めずらしい。
 何なに?・・・“すべてがFになる”?知らないな」
「あの、これは神さんから借りて」
「ふーん、読んでるのか」
「読み終えました」
「ああ、読み終わったんだ」
「ええ、ここに来る前に、ようやく・・・」
「ようやく、って何だよ」
「長かったし・・・」
「まあ確かに結構分厚いか・・で、面白かった?どんな話?」
「・・・難しかったです」
「難しい?」
「何か俺じゃ、理解できないところが多くて」
「どういう意味だ?」
「や、理系の人なら簡単に解るのかもしんないんですけど・・・
 この本、ナントカシンポ―?シンスー?とか言うのが
 謎解きのキーワードになってるっぽいんですけど・・・
 俺、それが理解できないから、読んでも意味が解らなかったんです・・・」
「進法?進数?ああ“F”って、その“F”なの?」
「藤真さん、解るんすか!?」
「16進だな」
「やっぱり藤真さん・・・」
「どうしたんだよ?」
「いや、すごいなぁって・・・」
「そうでもないけど、そうか?」

そう言って、少し嬉しそうにおどけてみせる。
そういうチャーミングな態度まで。



以前、藤真と会った時に神もいて。
2人とも読書家で、サスペンスやミステリー小説の話で盛り上がっているのに入っていけなくて。

自分も読めば、入れると思った。
神に、藤真に追いつけるかもしれないと、否、いきなり追いつくのは無理でも
距離は縮められるに違いないと、思ったのだ。

それなのに。

「よりにもよって、マニアックなのに挑んだな」
「神さんにも、難しい本って言われました。止めておけって」
「でも、お前これが良かったんだ?何で?」
「さあ、何ででしょう・・?何か、気になってしまって・・・」
「だいたいお前、読書は漫画専門だろ?どうしてまた?」
「そうですけど・・・」
「どういう心境の変化?」
「それは・・・」

それくらい、気付いてほしい。
この人は、頭がいいはずなんだから。
それなのに、こういう時だけ鈍くて、じれったい。
そういうのは少し・・卑怯にも思える。

「何、お前今日、本当に元気ないな?・・どうかしたのか?」
「どうかって・・・」
「何か、落ち込んでる?」
「・・・ええ、この本読み終えて、でも意味解らなかった自分自身に落ち込んでます」
「は?何で?たかが本だろ?」
「たかが?」
「え?」
「・・・確かにあなたにとってはたかがかもしれません!
 でもそれはきっと読んだら難なく内容がスラスラ解る・・あなただから!
 解らない人間の気持ちが、解らないんすよ!」
「清田?」
「藤真さんも神さんも解るのに・・・
 俺だけ解らないんだ!・・いつもそうなんだ!!
 ・・・あなたには解って、俺には解らない事が多すぎるんですよ!
 この本を読めば、理解すれば、少しはあなたに近づけるのかなって、
 俺も神さんみたいにあなたと本の話が出来るのかなって思った!・・・だけど・・・」
「・・おい、どうしたんだよお前」
「どうもしちゃいません!ただ、どんどん、なくなるんスよ自分の自信が!
 焦るんスよ!自分なりに努力して、埋めようとしても
 あなたがすごすぎて、俺はあなたを好きなのに、俺はいつまでも馬鹿で、
 溝は埋まらないどころか広がる一方でっ・・・!
 何で藤真さんは俺を選んだんだろうって・・・!
 何で俺は藤真さんと付き合えてるのかなって・・・!
 それなら、それなら神さんの方がよっぽど!」
「・・・清田お前、前から賢くはないと思ってたけど、本当に馬鹿なんだな」
「は!?」
「俺や神の方が知識があるのは、当たり前だろ。年上なんだから。
 伊達にお前より長く生きてないんだよ」

いや、単に年上だからの一言で片づけるのは、神も藤真も確実に違う気がする。
そう反論しようとしたが、藤真の口の方が早かった。

「それに、俺がこんなにお前の事想ってるのに、
 勝手に自信なくすなんて・・・ホントに馬鹿。どうしようもない馬鹿」
「!・・・藤真さん・・」
「勉強とか、そういうのは、まぁ、お前の場合もう少しした方がいいとは思うけど」
「ぐっ・・・」
「でも、そういうのはいいんだ・・例えばお前、アメトーク好きだろ?」
「は!?」
「好きだろ?」
「どうしたんですかいきなり」
「いいから答えろ」
「好きっすけど」
「俺も好きだ」
「はぁ・・」
「あれがなかったら、俺の人生の生きがいの20%はなくなる」
「あれが20%!?・・・って、考えたら意外と少ないような・・?」
「そうか?デカいんだぞ20%って。ちなみにバスケは30%だからな」
「えっ!?バスケでも30なの!?」
「そう、だから20が如何にデカいか解るだろ?
 他に、家族とか友達とか小説とか漫画とかゲームとかが、20%」
「あ・・えーと、これで70%っすか?」
清田は指折り数える。

「そう、今ので70%・・残りの30%は・・・清田、お前だ」
「え?」
「お前だよ」
「・・俺、そんだけっすか?」
「はぁ!?・・・お前、ちゃんと話聞いてた!?
 バスケとお前、同じ比率なんだぜ!?全然少なくないだろ!?」
「・・・あ!それってすごい!!」
「だろ!?」
「スンマセン俺、数字絡むと頭鈍るみたいで」
「みたいだな、覚えとく」
「・・っていうか、それってすごい!バスケと同じ比率ってすごい!
 藤真さんの中で、俺は・・・!人間で1番・・・!」
「そう、俺の中で・・お前はとっくに1番なんだよ。
 それが解ってないなんて・・・本っ当に馬鹿。どうしようもないくらいのな」
そう言い放ったつっけんどんな語尾には、攻撃的な言い回しとは裏腹、力がなかった。
藤真は、今度こそ顔を解るくらいに赤らめて、うつむいた。

「藤真さん、俺、嬉しいっす!」
「ああ・・それは良かった」
「ええ!元気出ました!!かかかか」
「現金なやつ!・・にしても何でお前、この本が気になったんだろうな?タイトル?」
「タイトル・・・あっ!!」
「“あっ!!”?何か思い当たったか?」
「やっと解った・・・」
「何が解ったんだ?」
「何故俺が、この本が気になったのか・・・!」

謎解きのキーワードは、“F”。
彼の、イニシャルだからだ。


すべてがFになる。
それは清田の場合、小説の話でもなく、数学の話でもなく・・・
すべては“藤真”になるのだ。

小説のタイトルを観て、彼が思い浮かぶ。

理数系と聞いても、クリームソーダの色を観ても。

1番好きだと、何にも変えられない思っていた、バスケでさえ。

今ではすべてのものから“F”を連想してしまう。
清田の世界の、すべてが“F”だった。


「で結局、何でお前はこの本が気になったんだ?解ったんだろ?」
「え?・・・藤真さん程の人が、気づきませんか?」
「それは気付けないだろ。教えろよ」
「嫌です」
「は!?」
「だって、やっぱり、30%なんて少ないですから!」

藤真にとって、清田は藤真の生きがいの、30%だと言った。
それは藤真の世界を構成する要素の30%が
清田で占められていると言い換えても過言ではないだろう。
もっとも30%であっても、先程の話からすれば、少ないとはとても言えないだろうが。


それでも。自分の想いと比べたら、まだまだ。

だって清田にとって今や、Fは、つまり藤真は、生きがいの100%なのだ。
清田の世界を構成する要素は、F。
Fが100%なのだから。

束縛しようと、独り占めしようとしたことも多々あった。
それは自分に自信がなかったからだ。
思えば、いつもびくびくしていた。
自分の腕から、いとも簡単にすり抜けていってしまう気がしていたから。

藤真が大事なのは、今でもそうだ。
この想いだけは、この人だけは絶対誰にも譲れないと思う。

でも、束縛したい理由は、今と以前では違う。
今は、単に、100%好きだからだ。
藤真は自分の世界そのものだから。
そう、自分の愛するこの世界は、すべて”F”で成り立っているからだ。

これが清田の解。
回答者Kにかかれば、答えはすべてがFになる。

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2014.10.04 先勝

清田の束縛する理由は
① 自分に自信がない場合 → ③ 相手のことを1番、何よりも好きな場合 へ
移り変わったってことで~!

私利私欲?で偉大な小説を妄想に巻き込んでしまってごめんなさい。
私は何年か前に飲み会でたまたま会った理系の読書家野郎に
勧められるがままこの本を読んだのですが、見事に清田くん状態になりましたww
今秋始まるドラマではアレやアレをどうやって再現するの?・・と気になります。観ようかな。

・・・何にしても、10×4おめでとうございます!
2014年1人清藤祭りの、開幕ですwwww
(同士の皆様のご賛同をお待ちしておりますw) 


<妄想誘発BGM>

ニコ動に飛びます↓
【作業用BGM】CAPSULE ノンストップMIX!【60min】




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