振動覚
なんでその年でウン10万するであろうブランドのバッグが持てるのか、
・・いやそれ以前に、こんな時間に遅刻だろ?って女子高生たちも、
ピーコのファッションチェックおっさんバージョンがあったら微塵斬りにされるだろう、
シャツ・ジャケット・ネクタイの素晴らしくアンマッチな組み合わせを披露しているお疲れサラリーマンたちも、
こんな湿気多い日によくそのカール維持できてるな、つーかそれが名古屋巻きってやつ?ここ神奈川なのに?
・・でもそれよかその顔塗りたくるのにどんだけ時間かかんの?もしかして明け方に起きてる?な彼女たちも、
恋人は2次元アイドル、日課は2ちゃ○ねるへの批判的な書き込み?な電波系メガネおたくたちも、
プラス、その中に自分が分類されるであろうと想定する、
あつかましいイカれホモのオレ・・・・
そんなそれぞれの通勤・通学電車風景。満員電車。
しかしオレは平均より高い身長のおかげで、
満員電車の人込みに埋まって窒息することだけは免れていた。
・・・さらにだがしかし、普段電車というものを利用しないオレにとって、
その慣れないおしくらまんじゅうな状況が、相当の苦痛なのは否めないワケで・・・。
そう、オレは満員電車というものにほとんど乗った経験がない。
たしかに高校のときは電車を使って通学していたがいつも、座れさえしなかったが、混んでいるとは言い難い程度の電車だった。
そして大学生になって一人暮らしを始めた今(まだ3ヶ月だけど)、
オレの生活から、さらに生活から電車という文字は遠ざかった。
というのも、大学近辺に住みだしたからである。
さらに正確に言えば、近辺とは言えども、
オレの家は大学からいくらか離れている。
それは他でもない、自分の怠惰のせいだ。
新入生たちと よーいドン! で物件を探さなかったために、気に入るところが近所に残っていなかったからなのだから。
入学シーズンの、大学近辺の物件探しを舐めていた結果だ。こんなに取り合いとは、思ってもみなかった。
というわけで、オレは普段学校まで原付で通っている。
・・・所要時間は約15分弱。案外あっという間で、苦痛になったことはなかった。
雨・・大降りの日は電車に頼るしかないということ。
そして今日はその、電車に頼るべき大雨の日なのだった。
前日から雨だと予測がついていたわけではなく、突然のもので、
・・・昨日、というか今朝のわずかな睡眠からオレを引き戻したのも、窓を叩くひどい雨の音だったのだ・・・。
ドアが開く大層な音を合図に一斉に人が・・蟻んこのように乗り込んでいく。オレも然り。
いや、乗り込む、というよりは雪崩れ込む、押し込む、といった表現が近いだろうか。
・・・実際、駅員は これには乗れないかも・・・ と諦めかけたオレの背中をぎゅうぎゅう押し込み、
これ以上無理です! と言い放ちたいくらいにさらに蟻んこたちを車両の中へ押し詰めた。彼らは、荷詰めのプロだ。
とにかく、電車はそんな多種多様な蟻んこたちをたくさん飲み込み、発車した。
衝撃で、揺れる揺れる。否、揺れるというか、固まりごと揺さぶられる。重い・・・。
しかも雨の日。みんな傘を持っているし、中には道中でやられたのかずぶ濡れの人もいて、車内は異常に湿度が高かった。
昨夜、というより今朝、1時間しか寝ていないほぼ徹夜状態のオレには酷な状況だ。
そう、きのうの夜は・・・・
『なぁ?笑っちゃうだろ!聞いてくれよ、でさ・・・』
『わかりましたけど、藤真さん、そろそろ』
『なんだよ〜、課題ならもうあと1時間もやったら終わるって』
『・・それがほんとならいいですけど。でも明日提出なんでしょ?
単位落としたらソッコー留年決定な科目なんでしょ?先にやったほうがいいですよ』
『もう!神のケチ!・・わかったよ、やるよ〜』
『ええ、是非そうしてください、話はまた明日、聞きますから』
『じゃあ、切るよ・・・?』
『はい。課題、がんばって』
『じゃなくって・・・なんか他に言うことないワケ?』
『他?・・・って?』
『わかってるクセに・・・鈍感ぶるなよぉ』
『・・俺、鈍感だしケチだからな〜』
『へーんだ!・・もうい〜よ、じゃあな、おやすみ』
『おやすみなさい・・愛してるよ』
ぷち。
・・・そういえば、単位落として留年もいいな。
神と同じ学年になれるんじゃん!?
・・・なんて思い付いてしまったけど、神に言ったらたぶんまた呆れられるから、伝えない。
『愛してるよ』・・・・・
・・・・この世の中で、神にあんなセリフを強要する怖いもの知らずは、オレしかいないと自負している。
言わせたい、ってやつはたくさんいるだろうけど。
それでも・・・あいつは、オレにしか言わないさ。
でも、同時に ムっ とする感情も少々湧いてくる。
『愛してる』 。
それは良い・・のだが、これを言わせていてはダメだ。
自分から神が、言ってくれるようにならなきゃ。このままじゃ。
『フジマさんがねだったときだけ、ご機嫌取りで言う』 では、ダメ。
もっと自然にポロっと言われるように。
言葉の重要性を考えろとか、ありがたみがなくなるとか、
そんなことは心配してくれなくてもいい。その言葉が、ただの儀式や義務でなく、
彼の気持ちが少しでもこもったものであるのなら、オレはいつ何時でもときめくことができるから。
ガキだとか、少女漫画みたいとか、笑いたきゃ笑えばいい。
事実オレ、藤真健司は神宗一郎が笑っちゃうくらい好きで、
さらに彼にたまに言わせるのに成功する、
『愛してる』 は彼が抱いてくれるのと同じくらい、おかしいくらい好きで、
そのひと言で徹夜で難題・建築製図の課題もこなせちゃうくらいのパワーを発揮できる、お気楽男。
カバンからオレンジのクリップヘッドフォンを取り出す、これはアイツのとおそろいだ。
神がこれを購入するときに、オレも一緒にいた。それで、オレも買った。いいだろ?別に。
・・そのヘッドホンで、B04の新曲不完全形を聴きながらの通学。
今日の練習では絶対完成させて、1週間後のライブに間に合わせてみせる。
きのうは課題の前に、イントロのドラムの部分をずっと考えていた。
そしてついに・・・考え付いたんだ、これは絶対カッコいい!
これなら、あの頑固な神も納得するはずだ。
きっと、清田がうるさいくらい大絶賛するはずだ。本日4時からの練習が待ち遠しい・・と、
・・・・・・オレ、風邪でもひいたのか・・・?
こんな湿度の高い車内なのに・・・なんか、ノドがカラカラする・・・
近くの誰かがつけているのだろう・・・女物の香水の
くどい、むっとした甘い臭いが、鼻とノドの粘膜に絡みつき、じわじわと水分を奪っていく。
気持ち悪い・・・・神の、神のさわやか匂いとは大違い・・・・
なんだっけ・・・神の香水・・バーバリーの・・・あれ?クリニークだっけ??
神に同じの、もらったのに、いつもつけるの忘れて出てきちゃうからな・・って、
ああ、ダメ!!本格的に気持ち悪くなってきた!
・・・助けて神・・・・・・・オレ、倒れるかも・・・・・・・・・・・・
やばい・・・神、神・・・・・・・・・・・・・・・
と、神のことばかり考えていたら・・・
・・・・・・・・・・・・・・神?神が、いるし。
大きめの駅で止まったこの電車に、神が乗り込んできたのだった。
オレのいるとこから一個前のドアから。
蟻んこたちにまぎれて、今まさにオレが救いを請うていたオレの恋人が。。
そういえば実家通いのあいつはここの駅でこの線に乗り換えだ・・・。
神も、規格以上に背がデカいために潰されていない。
人混みに潰されるどころか小さな頭が明らかに飛び出ている。一安心。
今日は・・・ビームスの細かい千鳥格子のシャツ。
アウターはズッカのジャケット。
シャツは第一ボタンまで律儀に留めていて、
普通だったら暑苦しく写りそうなところが、神がやると逆に清潔感が増すのが不思議だ。
もう・・やだ・・あいかわらずカッコいい・・
そこらの雑誌のモデルなんかより全然カッコいい。
いつも持ってる通学カバン、ポーターの黒のトートは肩に見えない。
混んでいるから下に下ろしているのだろう。
・・・それに、黒の大きなハードケースを立てて持っている。
人、1人分の大きさのそれを持っての通学は、満員電車ではかなり辛そうだ。
神の好きなバンドのステッカーが、幾枚か貼られているのが見える。
その中にはオレが好きで、勧めて、好きになったものもあった。
そしてあの中身はオレの赤い、心臓と言う名のタンバリンを打ち抜く、白のパッシブベース。と・・
・・・電車が急に激しく揺れた。
うおっ・・・・く、苦しい〜・・・っと、離れろよおっさんドコ触ってんだ!
次触ったら、手ぇ捻り上げてやるからな、ばかやろー!
も〜やだ満員電車!
小さな悲鳴や呻き声が、ところどころで聞こえる。
白のベースは、神は、神は大丈夫だったのか?
・・あ!
神が自分の目の前にいる、倒れて人に埋もれかけた女の子を、助けていた。
その子は、そんな神を突然目の前に現われた白馬の王子様だわ・・・みたく ぽーっ と見つめている。
朝っぱらから悲惨なものを見てしまった・・・
オレは我に返って視線を外した。
そいつはあの白馬の王子様の恋人・・このオレなのに!
後ろの変態親父にドサクサまぎれてケツ触らてたんだ!貞操の危機だってのに・・・
もう、神も優しいんだから・・そう!アレは女が悪い!
そんなちょっとの揺れで倒れんな!足腰弱ってんじゃないのか年増!!
それもよりにもよってオレの神に!
神の周りにいるやつら、すべてが邪魔だ。呪い殺しちゃいたい気分だ。
そうだ、あの女が悪い、女が・・・・・神は悪くない・・・
そう思って、もう一度横目でちらり。
裸眼で視力1.5を誇るオレには、すべてが悲しいくらに鮮明。
神、神ってずっと考えてたのと、見ず知らずの女の子に異常に嫉妬の炎を燃やしたことで
ケガの功名なのか・・さっきまでの気持ち悪さはどこへやら吹っ飛んでいた。
あいかわらず神は目を閉じてうつむいていた。長いまつげは伏せられたまま。
耳にはオレと同じ、おそろいのオレンジのクリップヘッドフォン。
・・と、彼のくちびるが、小さく動いたのが見て取れた。
それはなにか囁いてるようでも
・・・まるで アノ行為 の時のように息を乱しているようでもあって・・?
そして、ヘッドフォンを押さえるように当てられていた、
華奢で大きな手が、細くて長い指が、小さくリズムを刻むように動いた。
あ、
あの手。あの指の動き。
やばい・・どうしよう。
まともに、思い出しちゃったじゃん。
神のベースを弾く姿を、その指を。
オレの体を優しく撫でる、激しくまさぐる手のひらを。
オレの上に覆いかぶさった背中を。
行為中、オレの名前を途切れ途切れに囁く、形のいいくちびるを。
甘いテノール、ちょっと掠れたそのときの声を。
もう力、抜けちゃうよオレ・・・。
「・・あ・んっ」
息、上がっちゃった。
思わず、うわずったエッチい声が出て慌てて飲み込む。
オレの周りがぴくりとその声に身を固くする。
やばい・・・!これじゃあケツ触ってきたやつ悪く言えない、
・・変質者じゃん・・オレ。
どーして?どーしよ・・
早く駅に、ついて・・この電車、じゃないとオレ・・
神の、指から、手から。
同じオレンジの、ヘッドフォンから。
同じ曲から。
彼の奏でる隙の無い、激しいベースラインから。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
実際は5分もかかっていないはずだ。
海南大学の最寄駅に到着した電車から
大量の学生と、朝から発情変質者のオレは、勢いよく吐き出された。
そして今・・・俺のちょっと前には同じように吐き出された神が歩いてる。
でも、追いつく力がでない。むしろ、追いついちゃいけない。ちょっと気まずい。
なんか・・1人エッチしちゃったあとの言いようのない罪悪感に似てる。
神の手、見ただけで、考えただけでイキそうになっちゃうなんて・・・
オレ、なんて淫乱な・・・
なのに。
「おはようございます」
前から掛けられた、テノールの声に弾かれて顔を上げる。
誰もが一方通行の人込みの中、神だけが止まってこちらを向いて立っていた。
それはまったくもって普通の様子で立っていて・・・ずっと神に気づいていたオレの方が驚かされた。
カラカラのノドに、 ごっくん って唾液を飲み込む。
『神、もしかして車内でもオレがいたのに気づいて・・?』
そんなの、聞けない。
気づいてた っていわれたら、耐えられない。1人エッチ、見られたのと一緒。
あんな、淫乱な自分・・・・。
神は、フツーの表情。意外そうな顔を少しもしていない。
今に始まったことじゃないけど、こいつは表情からじゃ、読めない。
だから、逆に何も読みとらなくても良いよな?
向こうがもし 『気づいてた』 って言ったら覚悟を決めればいい。それから考えれば。それまでは、
「おはよ」
上ずった声を隠して、いつもの声、絞り出して平気な様子で答える。
・・・オレだけがいつも押してるような駆け引きも、緊張感も、オレは好きだよ?
「今日は電車、なんですね」
「雨、降ってるからな」
「で、やっぱりきのうウソついたんですね」
「え?」
「目、真っ赤だ。徹夜で課題、したでしょ」
そのときに、 すっっ て、雨の匂いをかき消して香った、
クリニーク?ダナキャラン?・・ううん、そんなんもうどうでもよくて、そう、コレだ神の匂い・・
「あっ」
「・・・熱いけど、大丈夫?」
「う・・・うん・・・ヘーキ・・」
だってそれは、おまえのせいで・・・・・・・・・・・・・・・
「・・思ったんだけど実際は出来なくて・・朝まで作ってたんだ、そのバズーカ砲の中身」
神はそう言いながらイタズラっぽく笑って、オレの黒いアジャスターを指差した。
『ねー、藤真さん?その黒い筒ってなんなんスか?』
『アジャスターか?』
『アジャ・・・?』
『設計の・・図面持ち歩くときの保管容器、だな』
『あ、中身図面なんスか、ふーん・・でも藤真さんが持ってるとバズーカ砲みたい』
『・・どーいう意味だよ』
・・・そんな会話をこの前の練習で清田とやり合っている間、神はめずらしく結構ウケてた気がする。
・・・そんな最近の一連のやり取りを思い出したオレも、乗っかってみる。
そんなこんなで、どちらが先に折れるかわからない冗談合戦は続く。
「・・そうなんだ、これ、破壊力は普通じゃないけど弾込めるのが結構メンドーで」
「で、そんなに頑張って作ったソレで、何狙うんです?」
「そうだな・・・お、こんなところにいい的が」
「やめてください、丸腰の人間に向かってヒキョーですよ」
そういって神は大きな右手の平で、アジャスターの口を・・・オレの銃口を塞いでくる。オレは思わず
「丸腰じゃないじゃんおまえ」と言っていた。悔しそうに。
「え?」
「・・・ヒキョーはどっちだよ」
「?」
解ってるくせに、解らないフリをする。
・・・おまえがそういう奴だって、鈍いオレでも、気付いてるんだよ?
だって、その左手で持ってるその重たい黒のハードケースの中身は・・・
中身の、白のパッシブベースは、トンでもない殺人兵器だろ?
・・・オレはそいつに赤いタンバリンを打ち抜かれっぱなしで、死んでも死に切れない。
毎日痛ぶられて、ヘトヘトで・・・それ以外で感じなくなっちゃったオレ、どうしてくれんの?
解らないフリしてないで、覚悟を決めて責任をとれ。
そう、この際オレは何度打たれたって構わないから、
だから、願わくば、お願いだから、被害者はオレだけに。
・・・・・・おまえはずっとオレだけを、狙い続けてくれ。
「オレだけ、でいいからな被害者は」
「は?」
「ふん、もういい・・ところで似合ってるけどさ」
「はい?」
「苦しくない?ボタン、1番上まで留めるの」
「ああ、これは・・・だって理由が」
細い、器用そうな指で第一ボタンを外すと・・現れた白い肌に鮮明な赤の跡を指差して、
「独占欲の強い、どっかの太鼓叩きさんにつけられたんで」
・・・そう言って、にっこり。
赤い卑猥なしるしとは、まったく正反対な・・ストイックな、オレの超好みな容姿で。
やだオレ・・いつの間に、つけた?この前した時??
「ま、別に隠すこともないんですけど・・あなたさえ良ければ、さらして歩いても」
「待!」
・・・オレは早々と神を立ち止まらせると彼のグレーのシャツの黒ボタンを閉めなおした。
オレの独占欲って、ホントすごい。
神の白くてすべすべした首筋に、こんな痛そうな跡。
なんだか、また罪悪感。
罪悪感が出させる、おまけのため息もひとつ。
そんなオレを・・・神は不思議そうに首をかしげて見てきた。
だからオレも、神と無理やりおそろいにする。
・・罪悪感隠して、ストイック装って、軽く微笑んで返した。
「・・さて、オレこっちですから」
「あ」
そっか。農学部の神の校舎は、西門から行った方が早く着く。
工学部のオレは、東門から。一緒の学校なのに、無関係の様なお別れだ。
「練習でね」
「そうだな」
「4時からです」
「わかってる」
「期待してますから、イントロ」
「・・まかせとけ、おまえは」
「大丈夫、俺もきのう徹夜で考えたんで」
そう言って悪びれもせずにっこり。やっぱり負けた。
「・・めちゃめちゃカッコいい曲になるな」
「もちろん。俺、今朝も聴いてきましたよ」
ああ、あの時おまえが電車の中で聴いていたのは。
「オレも」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おっと!」
「うわ、9時!?ヤバい」
「じゃ・・・」
「おう」
その途端、やっぱり オレの ストイック なんてにわかな装いはすぐに解けて。
悲しいけど、おそろいにはなれなかった。無理だ。
罪悪感を感じたとしても、手に入れたいもの。手放すわけにいかないもの。
・・・こんな僅かな間離れるのでも、馬鹿みたいに嫌だ。
こんなのは、可笑しい。可笑しいのも、ちょっと嫌だ。
あまりに可笑しいと、神に嫌われてしまう。
それは、気が狂うくらいに嫌だ。
・・・嫌だったから、それをかき消したくて。
離れていく彼の面影を繋ぎとめる物がほしくて、ウォークマンを取り出す。
おそろいのヘッドフォン、片耳つけたときに 藤真さん って背後で声がした。
振り返ると、神が、こっちに向かって何か囁いていた。
声は聞こえないけど、その口の形は。
・・・そう言ったんだ。
立ちつくすオレに、神は口角をきゅっと上げてひとつ微笑を残した。大好きな表情だ。
・・そしてまるで何も無かったように背を向けて・・
オレを固まらせた張本人の男と黒のハードケースの中身・・白のパッシブベースは歩き出した。
・・・そんな神の耳に、オレンジのヘッドフォンが掛けられるのを見た。
・・ひとつ、深呼吸して、
オレも、彼に背を向けて歩き出す。
オレンジのヘッドフォンを両耳にかぶせ、ウォークマンのリモコンの再生ボタンをONに。
9時02分。
このアップテンポな曲くらい、急がなきゃ。1限目は2号館の4階。
・・あと7時間。7時間後にはまた神に会える。
その7時間の隙間を、鼓膜に響いてくる音で埋めながら急ぎ足。
同じオレンジの、ヘッドフォンから。
彼と同じ曲、同じ音から。
彼の奏でる激しく隙の無い、ベースラインから。
・・・神とオレが、繋がれている感じ。
離れていても、伝わってくる・・・・これが、振動覚。
あとがき
ちょいゴリゴリ(赤木が浮かんでしまった・・)の音聴いてると、ソッコーで神さん思い出してどうにかなりそうです。(バカ)
バーバリーのウィークエンドとか、クリニークのハッピーとか。
それか、香水なしで石鹸とか柔軟剤の匂いでも良い!
ファーファーですかー!?ダウニーですかー!?元気ですかー!?
準ブランド(パルコに入ってそうなとこ)を着てくれてたらイイ!
でもってカバンはトート!何故か・・エルメスのトートのグレーとか持たせたい!
じつはどんな 『〜×藤真』 より激しく過激で、欲望渦巻きまくりの怖いくらいお互い嫉妬しまくりの束縛しまくりだといい。
あ〜怖い怖い(何)。(2004 アップ、2013.06.08 改訂)