仙藤祭2013 
湘南グライダー:青春プロローグ

⑤聴覚デスティネーション~目撃者~
 


あの頃は、今思い出しても歪(いびつ)な毎日だった。

必要以上に尖ったり、かと思えば突然手のひらを返したように丸くなってみたり。
激しく衝突したと思えば次の瞬間溶け出して混ざり合ったり。
蒸発したかと思えばまた個体になって戻ってきて・・・

歪な自分の歪な感情を、歪な言葉で歪な相手にぶつけた。

そんな、絶え間ない化学変化のような高校生活だった。

取り巻く周り全ては、日々移り変わって触発し合って・・・
それは時に投げ出したくなるくらいに、息苦しくなるくらいに目まぐるしかった。



・・・そんな捉えどころのない毎日の中で、
その日は日下にとって忘れられない、特に歪な日となった。

恐らく・・・それは一生。

きっと彼はこれから先、夏に蝉が鳴き始めるのを聴けば
あの日の蒸し暑さと、ゲリラ豪雨と、あの瞳孔の大きな瞳と・・・
どこまでも歪で鮮明な映像に呑み込まれて、抜け出せない。

・・・2004年。
日下と藤真は高校3年生になった。
青春真っ只中の高校時代に置いて、その年は何から何までアンバランスだった。

まず、夏を待たずに藤真率いる翔陽・バスケ部が
ダークホースの湘北高校に破れ、IH出場はおろか、ベスト4にも残れずに姿を消した。

それから数週間後の――
7月4日の日曜日だった。

この日は朝から、これから訪れる本格的な夏を思わせる、
その導入口の様な蒸し暑さだった・・・。



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野球部は、朝から東京の強豪にして因縁のライバル、
薬師高校との練習試合を、翔陽のグランドでこなした。

・・・再来週からは、ついに甲子園予選に突入する。
その前の、最後の、大切な練習試合だった。

試合は初回から激しい打撃戦となったが――
日下は最後まで1人で投げ抜き、結果は辛くも勝ち越した。


そしてミーティング、長めの自主練習を終え
荷物をまとめて・・・1人、体育館に向かおうとしていた。

そう、藤真に会うためだ。



この日、バスケ部も練習試合があると、同じクラスの花形から聞いて知っていた。
相手校は、何でも先週IH予選を戦い終えたばかりで、ベスト4に残った学校だと聞いた。
バスケの強豪で、よく聞く名前の学校だったが・・・忘れてしまった。
(何故このタイミングでわざわざ試合しに来るのかは疑問だが、理由は解らない)


藤真とは去年11月半ばの ”あれ” 以来、自然に過ごしていた。
それは時に、逆に不自然な程に自然に。

その自然さは、間の取り方とか、話の転び方とか、
お互い目が合った時の逸らし方とか何から何までに渡ってだった。
実際、どちらかが・・・またはどちらもが意識して、自然さを作り出していた。

・・・つまり、結局のところ不自然なのだ。
周りから観て自然に見えても、実のところは
本人たちにしか解らないように、ぎくしゃくしているのだ。

それでも、どちらからも追及せず、追及もさせない。
その隙を、自分の心にも、相手の心にも与えない。

その証拠に・・・あれから、2人きりになっていない。
練習は、あれ以来お互い見に行ってもない。
そして・・・日下と会うと、藤真はいつもより、必要以上に周りを巻き込んで大声でよく喋った。


・・・日下には、それが藤真の出した答えなのだと解っていた。
いくら人とのコミュニケーションが得意ではない日下でも、
悲しいかな、その答えが解らない程鈍感ではなかったということだ。

しかも不思議なもので、その答えにどこか安心している部分があることを
日下は、自分の中に見つけていた。

藤真にこの心の内が知れてしまえば、彼と完全に別れなければいけないのではないか――
ずっと、そう思っていた。だから、今まで隠してきたのだ。

それなのに結果――藤真は、自分の気持ちを知っても、
それでも日下と、変わらず一緒にいようとしてくれている。

そのことが、日下にとっては嬉しかった。
例えそれが不自然に取り繕われた関係でも。
何とか保とうとしてくれていること、その藤真の気持ち自体が。

・・・確かにそう思って、それなりに満たされていたのだ。
そう、ついこの間まで。

それなのに。




若さというのは、すぐに答えや、結果を求めることなのだろうか?

それとも、夏の天気のように変わりやすくて
ある時は土砂崩れ、ある時は河川の氾濫を引き起こし
自らや周りに生命の危険を及ぼす程・・・暴れ回り、のたうち回ることなのだろうか?

・・・曖昧な関係とか、程良い距離感、という意味が、いつも以上に解らなくなる。
満足できなくなる。許せなくなる。
このことを・・潔癖とか潔いとか言うのだろうか。
もしそうなら、そんなものは邪魔なだけとも、本気で思うのに。

そう、人間と言うのは不思議なもので
答えがほとんど解っていても、玉砕しなければ、痛い目に合わなければ
気が済まないという、切ない感情を持つ時があるのだということを、日下はこの恋で学んだ。

それは、人より遅めの初恋で、人より厄介なしがらみの中
初めて日下が知った激情であった――。


”もしかしたら” という希望を少しも孕んでいないのかと言われれば・・・
そんな無茶な切望が、まったくないとは言えないが・・・

それより何より、自分の覚悟や、想いを昇華させたかった。



・・・日下のクラスメイトに寺の息子がいて、その人物がお経を読みあげるときに
「何とか成仏してくれと、祈りながら読んでる」と言っていた。

成仏――それは、昇華・・昇天のことなのだろうか。

人の死と恋を一緒にするのは非常識だという頭は日下にはまったくなく、
ただ、その2つは酷似していると、漠然と思った。

”何とか想いをすべて告げたい”、”ケジメをつけたい”という気持ちは
想いの昇天に違いない。

つまり、全う(まっとう)すること――。
燃え尽きることだ。

日下にとって ”想いを告げることで燃え尽きることができるのか” 
という心配は、すでに消え失せていた。

例えば、彼の野球に対する欲求はどれだけ追求しても渇することがない。
藤真への感情も・・・いくら完全に破れたとしても・・・そこで枯渇するとは限らないと思った。

だが、もうそれは重要ではなかった。
とにかく、頭のみで考えることには、もう限界だった。




・・・若者が歪(いびつ)なのは何も感情や取り巻く環境だけではない。
その時期の、外見だってそうだ。

高校で見間違う程容姿が変わる人物は、珍しくはない。
特に女子の場合、化粧もあるからそうなる率は、男子より高い。
だが化粧などなくても・・・藤真は、ここ1年で大きく変わった。
1年の時からその容姿は際立っていたが、
その頃はまだ、子どもっぽくて可愛らしい印象ばかりが目立っていたように思う。

だが2年になり・・3年になり・・・
特に日下が想いを告げたあの冬あたりから、藤真は大きく変わった。
童顔、というのはまだその通りだろうが、
それでも長い睫毛を伏せた時や、物思いに耽る横顔や、ふとした時・・・
青年とも少女とも言えない、色気の様なものが滲み出しているのだ。

つまり・・・彼は大人になろうとしているのだ。


その危なっかしく艶めかしい、
絶妙に歪なバランスは、観る者を虜にしてしまう。
それは、まるで完璧な不完全さだった。

それを思う度に日下は、誰かに藤真を奪われてしまうのではないかという
焦燥感と強迫観念で、胸が潰れそうになった。



・・・初めは何も伝えるつもりはなかった。
なのに、結局伝えている・・・それどころか、抱きしめてキスまでした。

傍にいられるだけで満足する日々は、一体どこへ行ってしまったのだろうか。

・・・今では日下はあの腕の中での藤真の感触と、キスを思い出す度に
頭と身体が、沸騰したように制御不能になる。

時には、その感覚は眠りの中にまで侵入した。

・・噛みつく様なくちづけをしながら、
舌でその柔らかい口内や歯の裏1本1本までを十分に犯し、
シャツを破るように脱がして・・
白い滑らかな肌に自由に自分の手や唇、舌を這わせる。思う存分。

その間、藤真の形の良い唇からひっきりなしに漏れる声は、
日下の身を溶かす程に熱く・・・・。


・・・そして夜中に目を醒ますと派手に夢精していたり、
逆にその猛烈な感情の波が過ぎると、
いやらしいことを考えても、観ても、触れてみても、まったく勃たなくなったりした。

自分自身の思考や、身体さえコントロールできない。
こんな感情が自分にあるなど・・・藤真に出逢うまで、気付かなかった。知らなかった。


藤真を失ってもいいのか?
自分が傷つくだけの用意ができているのか?

・・・そういった準備は、もう、するだけ無駄だと思った。
きっとこの準備には、終わりが無いからだ。

今の日下の頭にあるのは、
とにかく藤真と2人で話すことのみだった。


あの話の続きを。
拒否されても、否定されても、無視されても、最後まで。


もう、一切迷いはなかった。



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・・・すでに誰もいなくなった自分の部室を出ると
ドス黒さと異様な青紫色が混じり・・重く垂れ下った空が、日下を出迎えた。

雷が来そうだ、と思うと同時に
くすぶったようなゴロゴロという音が、鼓膜に響いて来た。
すぐにも、激しくなりそうだ。
多分、それは最近多い・・・雷を伴うゲリラ豪雨になるだろう。

だが。

傘など、持っていない。
濡れるのは、気にもならない。
降るなら、降ればいい。
その時は、降られるだけだ。

・・・部活のエナメルバッグを肩にかけて、体育館まで歩き出した。



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辿りついた体育館は、扉が開いていた。
だが、すでに誰もいなかった。


日下は、拍子抜けした。少し、イラつく。
普段の藤真なら十中八九、いると思ったのだが――。


バスケ部のクラブハウスも覗いてみたが、誰もいなかった。

表へ出ると、ついにドス黒い空から大きな雨粒が降り注いできた。
それでも、構わない。

告げられなかった想いを持て余すように・・
踏みしめるように一歩一歩、砂を潰しながら歩いた。


そして・・・もう1度だけ。
体育館の周りを、ぐるっと回った。

胸につかえる、違和感がある。

そうだ・・体育館だってクラブハウスだって、
誰もいないのに鍵が開いているというのは、おかしい。
施錠を忘れて帰ってしまったのだろうか?


それとも、まだ、誰かが?


体育館の周りを回っている間に、雨はどんどん強くなってきていた。
その時。内部で


ガシャン。


雨の音に混ざって・・・くぐもって聴こえたが。


ガシャン。


確かに、遠慮がちだが、もう1度聴こえた。
どうやら、奥の体育倉庫からだ。




・・・日下の頭に、2年前の光景がフラッシュバックした。
夜の体育倉庫で・・・上級生4人に暴行されそうになっていた藤真。

まさか、と思う。
あの頃は自分たちはまだ1年だったから・・・3年にもなれば、まさか。

だが、絶対にないとは言えない。

日下は、体育倉庫の外に当たると思われる箇所まで走ってきた。


・・・そして、姿勢を低くしてにじり寄った。
下の小窓を覗きこむ。
自分の予感が的中しないことを、切に願いながら。




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・・・その状況を観ても
2年前のあの夜と同じように、日下はまったく驚かなかった。

驚く程、気持ちに余裕が無かったのだ。

視覚から迫りくる情報量が多すぎて・・・
感情が一気にオーバーフロー・・つまり、ショートしてしまって
何が何なのか、その状況を考えるに及ばなかった。


・・・まず、見えたのは、大きな男の
何も身につけていない背中だった。

そしてその男の奥に遮られるように――
白くて細長いものが見えた。
男は、その白いものに馬乗りになっているのだった。

・・暗い体育倉庫に目が慣れるにつれ、浮かび上がって見えたそれは
床に敷かれたマットの上に転がされた、白い生脚だった。
・・・日下は、その脚が床を撥ねて、シュートを決めるところを
もう、何度もこの目で観てきた。

だから、すぐにそれが誰のものか、解った。

だが、次第に強くなってきている雨音に重なるように・・・
その合間合間から、滑り落ちて零れるように・・・
押し殺しているのに漏れ出している、
悲鳴に近いすすり泣きのような声が
・・その人物から発せられていると、考えが及ぶまでには随分時間がかかった。


そう、日下は脳内で、妄想で
寝ても醒めても彼を、散々犯し続けたそう遠くない日々があった。
だが・・・その時に聴いた声とは、それはまったく異質のものだった。

日下が聴いていた整理整頓された声など、
ほんの幻想であったと、一瞬で目が醒めるような嬌声だった。
時に、堪え切れず甲高く、鼻にかかって抜けるような。

それは、夢の中の声のように
容易に文字に書き出せるような、
また安易に理解のできる発音・発音ではなかった。
ドラマや映画で時々見かける、演技のお色気・ベッドシーンで
俳優や女優が発する感情の籠らないそれとも、違っていた。

・・・もっと、ずっとぐちゃぐちゃで、乱雑で卑猥に歪んでいた。
動物的で・・・泥臭く・・・この季節のように蒸し暑く粘着質で・・・
そこには駆け引きも虚勢もなく・・・ただの人間の本質が。
ただ、相手の身体と快感を求める、本能だけが存在するようだった。


「・・・ンっ!ああっっ・・・・・・・・・・・・・・!」

圧し掛かっている男の手や顔が、せわしく彼の下肢で動いている。
そして・・・
今まで緊張してマットに踏ん張っていた白い生脚が、
力なく、ぐったりと床に落ちた。

まるで、息の根を止められたかのように。
それが、俗な言葉で言えば ”イった” になるということくらい、日下にも解る。

彼が・・・
こんな声を出すなんて、信じられなかった。



自分の心のどこか隅で行われる、重たい情報処理。
今、この状況を観ている自分を
さらにどこか遠くから自分が観ている様な・・・
そんな傍観者のような、幕のかかった感覚。


白い脚の彼は、上がった息を少しづつ整えていて
上に乗りかかっている大きな男は、どうやら彼が落ち着くのを
気遣って、待っているようだった。


「・・・大丈夫ですか?」

大きな男が、発したらしい声。
低くて深みのある、腹に響くような声だった。

・・・敬語。
ということはこの男は、自分たちより年下か。
そんなことこの場合、まったく重要ではないのに
頭のまた反対の隅の方が、勝手にそう分析する。


「うん・・・平気だから・・来て」

呼びかけに応答したのは、今度は紛れもなく、日下の知っている声で。
それでも、知っている音色の、初めて聴く声。
こんなに熱にうなされているような、浮足立っている様な彼の声を、今まで聴いたことはなかった。

彼のその声に応えて、大きな男が体制を少し変えた。
彼の身体へ、自分の身体を押し進めるように。押し入るように。

「・・・・・・・・・あっ!・・・やあああっ・・・・!!」

彼が、また聴いたことのない音色で、嬌声をあげた。
白い脚が、また突っ張ってマットを蹴る。

「うっ」
圧し掛かっている大きな男は少し呻き、詰めていた息を吐き出すと
その腰を・・・ゆっくりと揺すり始めた。

「あ・・・・・んっ・・・・っっ・・・・」
「藤真さん・・・」

その男が発した熱っぽい呼びかけに
日下の目の前が、一瞬いびつに、ぐにゃりと歪んだ。

やっぱり、藤真。

そしてその男の声に対する答えのように
今まで所在無げに転がっていた白くて細い2本の腕が・・・
絡みつくように・・・その広い背中に回された。



藤真が。
あの藤真が。信じられない。

男の下に好きなように抱き込まれて、どこの誰かも解らない男を体内に受け入れて、
縋りついて――身をよじって・・・快感によがっているのだ。



すると・・・おもむろに、ずっとこちらに背中を見せていた男が、彼を抱き起した。
2人、座って向かい合っているような格好になる。

その抱き起こされた藤真の・・・こちらを向いた紅潮した顔は。
きっと一生、忘れることができない。

日下は高校生活を、藤真のずっと近くでずっと過ごしてきた。
その中で・・・観たことのない、きっと他に誰にも見せたことのない、
欲望に濡れた、とても美しく・・・歪んだ顔だった。

藤真はその男に下から突き上げられているらしく
上に身体が跳ね上がるように、激しく揺さぶられている。
・・・必死に男に縋りつく細い腕が、健気だった。

どうしてだ。
どうしてだ藤真。信じられない。
どうしておまえが、俺以外に特別、誰にも見せていない顔を見せる?



一瞬・・・脳内で渦巻いた疑問が、自分の口から出てしまったのかと思った。
何故なら日下がそう思い、
小窓の向こうのあられもない姿の藤真に心で問いかけた次の瞬間、
彼がゆっくりと・・・快感に伏せていたその大きな瞳を開いたからだった。



「・・・・・・・・・・・・・!!」

日下は、後ろへ倒れ込むように小窓から離れた。
今、藤真と目が合った・・・気がした。

いつも大きな目の瞳孔が、さらに黒く、大きく見えた。

そうだ、2年前の時も、彼はあんなに大きな瞳を・・・。

だが理由は、きっと真逆だ。
あの時は、恐怖と緊張で。

でも、今は・・・・!?




・・・日下はエナメルバックを抱えて、その場から駆け出した。

まったく気付かなかったが、雨はいつの間にか怒涛のごとく強くなっていたらしい。
これぞゲリラ豪雨という激しい雨量に、鼓膜をすべて覆い尽くす雨音に、雷鳴。

日下の聴覚は、飽和状態だった。
様々な歪んだ音色が、鼓膜に大音量で流れ込む。

それでも良かった。
むしろ、それらに掻き消して欲しかった。

それなのに・・・藤真のあの嬌声が、
大きな男の、藤真を呼ぶあの熱っぽい低い声が
両耳の鼓膜の内側へへばりついて共鳴しあっているようで・・・
頭から、少しも離れない。

日下はおかしくなりそうな頭を抱えたまま、
雨で重たくなった砂や泥をまき散らして、猛スピードで校庭を走り抜けた。




・・・夏の天気は本当に気まぐれで
もっと降っていて欲しい時に限って
すぐに光が差し込んで来て・・・。

降り注いでくる雨の線が、みるみるうちに繊細になっていく。
嫌味な程に青い空まで、晴々と広がってきた。

まるで、日下の心の内を見透かすような。



相変わらず頭の中でハウリングする、
さっきの喘ぎ声という卑猥な音色。

それに被さるように・・・外から。
夏の到来を告げる第一声が。

そう・・・
蝉が・・・鳴き出したのだ。



この蝉は、きっと日下と共に、一部始終を観ていた。


この年、蝉の鳴き声を聴いたのは、この日が初めてであった。


(藤真・・・体育倉庫に入れなくなったって・・ゆってたじゃないか・・・)


相変わらず1匹で鳴き続ける夏蝉の、
ディストーションをかけたような歪んだ声が、受容しすぎて弱った聴覚に・・鈍く響く。

まだ、足りない。
臨界点まで、まだ。

もっとくれ。ひずみを、ゆがみを、もっと。
もっと、歪(いびつ)さをくれ。
彼のあの嬌声を、忘れられるくらいに。


どこか力ない夏蝉の鳴き声・・・それはまるで
日下自身の・・・声にならない叫びのようだった。

この叫びの、歪さの・・・終着点はどこだろう??
そんなもの、あるのだろうか??



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最初考えてたのと、タイトルを変えました。
聴覚デスティネーション。

キャタリスト五感シリーズは
神の視覚、牧の嗅覚、と来て今回、日下の聴覚ってことで。
ホントは最初、花形にやらせようとしてたはずなんだけどね・・・何故だ。

吉井和哉/煩悩コントロール にだいぶ妄想誘発頼りました。
彼の色っぽいのにどこかダーティーな声で聴覚触発していただいて。

やっとのことでお話も次回、最終話です。
こんなに仙道の描写が少ないシリーズでも、仙藤と言い切るぞ!!
つーかサイトこれだけの年数やってきて初めての仙藤18禁なのに
他の人間視点って・・・いいんだ!!負けない!!(>何に)
そんなことを誓う、今日、先負の日(もう夜だけどな)

2013.07.29  月曜日 先負