仙藤祭2013 
湘南グライダー:青春プロローグ

②強制終了:敢えて見ないその先
 


「・・・・!」
「よぉ」
「・・何しに来た」
「何だよ、まだ ”あれ” のこと怒ってんのかよ」
「・・・そこ、邪魔」
「何っっなんだよ、一体!」

時は11月。すっかり日も短くなり、寒くなり・・・
あの騒動から、早くも2ヶ月が経とうとしていた。
野球部とバスケ部の親睦会で起こった、 ”あれ” から。

あの後ずっとどこで会おうが無視され続け、ついに耐え切れなくなった藤真は
今日、というか今夜(グランドに夜間照明が灯り、すでに時刻は21時に差し掛かっている)
こうしてグランドまで出て来たのだ。

強豪の野球部と言えど、さすがにこの時間には皆帰宅するらしく
グランドに残っているのは、壁に向かってボールを投げ込む日下ただ1人だった。


「なー、いつまで怒ってんのおまえ」
「・・・・・・・・・・・」
「もー、何なんだよ!!あんなの、ほんの冗談じゃねーか」
「冗談、だと?」
「それ以外、何が?」
「・・冗談で済むと思ってんのか」
「じゃあ・・何て言えばいいんだよ。
本気だったって言えばいいのか?俺は男が好きで、おまえを襲った・・・って!?」
「うるせー、あっち行け」
「・・・だぁぁあ!もう、いい加減許してくれよ。
おまえが、そんなに嫌がると思わなかったんだよ!」
「・・嫌がる?」
「ああ!あんなにキレるほど嫌だなんて、ちょっと想像つかなかった。
冗談でもそんなに嫌がるなんて・・俺、正直ちょっとショックだったんだぜ」
「ショック?」
「・・だってあんなに全力で否定しなくたって、良かっただろ・・・」

突き飛ばす、なんてさ・・・
そう言って俯いた――藤真の視界に入ったグランドの砂に、影が落ちてきた。
顔をあげると・・・日下が思ったより自分のずっと近くに来ていた。


「日下・・・?」
「嫌がる?否定?・・さっきから勝手に何ゆってる」
「は・・?だって、実際、そうだったんだろ?
だから今も、おまえそうやってキレてんだろ?」
「馬鹿じゃねえの?」
「は?」
「・・・もういい。おまえには、一生解らねー」
「お、おい!ちょっと待て、誰が馬鹿だって?」
「おめーだ。馬鹿に馬鹿って言って、何が悪い」
「おまえー、さすがにいい加減にしろよ!」
「・・・おまえこそ、いい加減気付け!」
「何に・・・っ」


何に気付けって言うんだよ と言いたかったが、最後まで言えなかった。
否――、言えなかったという表現は適切ではない。言わせてもらえなかったのだ。
・・・言いかけた藤真の唇が、突如塞がれたからだ。

そして藤真の唇を塞いだのは・・・状況を理解するまでに時間がかかったが
紛れもなく、日下の唇だった。

抱きしめられる腕の強さと、
与えられる唇の感触が、自分にとってだんだんとクリアに、一層リアルになっていく。
雑味がなく、冴えきっていて、澄み切っている。
これは確かに現実なんだ――と、そう覚醒した時には遅かった。


・・日下は藤真の唇をこじ開けて、舌を差しいれて来る。
それは藤真の舌をすべて絡め取ってしまいそうな程の、深いくちづけになり。
思わず窒息・・・腰が、砕けそうになる。

「んっ・・・・・!んん・・・・・!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ちょっ・・・・・ん!・・・・・あ・・・や、やめろってっっ!!」

藤真は力の入らない両手で必死に突っぱねて、
何とか執拗なくちづけと抱擁から、脱出した。


「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」
「藤真」
「・・・おまえ、一体何なの!?これはあの時の仕返しか!?何の冗談・・」
「冗談じゃねえ」
「え?」
「本気なんだ」
「ホンキって、何に」
「だから俺はおまえが」
「!」
「おまえのことが」
「ちょっと待て!!」
「!」
「それ以上言うな・・・」
「・・藤真、俺は」
「それ以上言ったら!絶交だからな!!日下!!」
「!!」


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・・・そこから、一体どうやって帰路についたのか、あまり覚えていない。
一目散に日下から逃げるようにして、転がるようにしてグランドから走り去ってきて。

同性からそういう意志表示をされるのは、初めてではない。
そういう対象として見られるのも、悲しいかな、慣れていた。

だが。彼が。
まさか、日下が――。


帰路の電車に揺られながら、藤真は自分で自分のことを抱きしめた。

不思議と、あのくちづけと抱擁に嫌悪感はなかった。
実感は、リアルすぎるほど湧いているのに。
あの行為が、自分は決して嫌ではなかった。

それは他でもない、相手が日下だったから――。


だが、一歩進むと、
行為は、嫌ではない。でも、好意はどうする?
 嫌ではない と、 好きだ と言ってしまったら
自分は、自分たちは――どうなってしまうのだろうか。

これでは。
これ以上言う訳には、認める訳には、いかない。
そして日下にも――
これ以上、言わせる訳には、認めさせる訳にはいかない。

だからこそ、咄嗟に強制終了して――どうにでも動ける余地を残した。
だが――。

ここから、どうする?
自分は一体、どうしたい?


敢えてその先を、見ないことにする?
敢えて何も無かったことにして?

――果たして、そんなことが自分にできるのだろうか。
そんなことが、相手にも、周りにも、他の見えない力にも、許されるのだろうか。



・・車内の鏡に映った自分の顔が・・・信じられない程紅潮していて
見ていられなくて、思わず目を伏せた――。



もう、ぐちゃぐちゃ。

まるでグロテスクな絵のように。

そこに、何も見い出せない。

何が何だか、藤真にはまったく解らなかった――。




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2013.07.10 友引
自分のページのインデックスにある 仙藤ソング は
思い出す度に増やしていってます。
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全部素敵な歌ばかりです。


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