「・・わたくし広報部宣伝課の藤真、と申します

・・・はい、こちらこそよろしくお願いします!失礼します」

 

PPPPPPPPPP・・・・・・・・・・・・・

・・・・・PPPPPPPPPPP

 

 

 

受話器を置いたそばからまた鳴りだす電話。
なんなんだ今日と言う日は!




 

 

 

受話器を置いた途端にまた電話。

4時からの幹部集めての経営企画部と合同のプレゼンで・・・それどころじゃないって!

あ!プロジェクターの貸し出しってオレ、予約したっけ!?

 

 

「藤真、商品台帳の件だが今」

「ホンキで無理だから後にしてくれ!7時以降希望!」

「・・そのようだな、徹夜になってもこれは今日話し合わないかんことだから頼むぞ」

 

同期入社の花形。

早くもトンでもないプログラムを2つも開発して、従来の鬱蒼とした商品管理を根底から覆した、超簡略化してしまった男。
見かけ同様?エリート街道まっしぐらだ。

わざわざ2階の情報システム部から6階のこの部まで足を運んでくれたところ悪いが、ほんとうにそれどころではない。

 

 

 

 

「あの〜」

 

 

そんな殺伐とした中に間延びした一声。

皆、仕事の手を止めてそちらを見る。(というかなんとも戦闘力を削ぐ声だったので自然と止まった)

と、

その先には、見慣れないニコニコした男がひとり。

 

 

ああ!?お客、入ってきちゃってるし!

なんのために受付があるんだ!

 

 

「受付から何度か内線かけさせていただいてたんですけど、

反応してくださらないので・・勝手に来ちゃいました」

 

 

さっきの内線、結局だれもでなかったのかよ。

 

 

えっと・・・今日女子社員は、全員出席の接客マナー研修。

そうだ、だから忙しさが倍なんだ、、、じゃなくって。

ということは、このお客を応接室にお連れしてお茶だしをするのは・・・

 

 

入社3年目。一番下っ端の

 

 

・・・部内を見渡したら、みんなオレを見てうなずいていた。やっぱりオレか。

 

 

 

 

 

 

 

「大変失礼いたしました。いらっしゃいませ」

 

お辞儀、最敬礼45度。これはいいが。

新入社員研修なんて2年半も前のことだ。

そのときはお茶だしもやらされたものだが・・実際だしたことはない。自信なし。

 

 

 

「XXXプランナー、企画営業部の仙道と申します。いつもお世話になっております。

2時に、こちらの田岡次長と面会のお約束をさせていただいています」

 

 

2時。時計を見る。1時半になったところ。

 

30分も早いじゃねーか!

 

・・めまいがしそうになったのをぐっと堪えて、両手で相手の名刺を受け取る。

 

 

「XXXプランナー、企画営業部の仙道様でございますね。いつもお世話になっております。

次長の田岡と2時のお約束でよろしかったでしょうか?少々、お待ちくださいま・・・」

 

 

って!

 

 

田岡次長、まだ外出中じゃねーか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出先を知らせるホワイトボードの田岡次長の帰宅予定時間は1時だったが。

どうも出先でもめたらしく、出発が遅れたらしい。

携帯に電話するとあと10分で社に戻れるので待たせておけとのこと。

 

「もう来ただと!?いつもは滑り込み、5分遅刻が当たり前のくせに今日に限って・・!!」

 

と悔しそうだった。

 

 

・・次長、なんでそんな論外社員がいるところと仕事進めてるんですか?

他の会社や社員に失礼だ!帰ってきたら、抗議してやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせいたしました、こちらへどうぞ」

 

オレはとりあえず、部長が帰ってくるまでこの仙道という男を第二応接室に押し込めておくことにした。

 

 

「どうぞ、お入りください」

 

ドアが外開きの部屋では、お客様が先に・・。

ドアを開けてこの男を先に・・・とと、コイツ、相当でかいな。

 

 

 

 

気だけ急いでいたので、初めて落ち着いて見やるが。

『仙道 彰』 はそんじょそこらじゃお目にかかれないくらいのイイ男だった。

 

但し、

 

こいつの職業が、モデルか芸能人ならな。

 

 

 

ベージュのぱりっとしたシャツ。の、第一ボタンが止まってない。

ダナキャランの黒のネクタイ。が、宴会のときみたく緩んでる。

ジャケットの前・・・全開だし。

おまけにその髪型・・おまえの会社はソレでいいのかソレで。終わったな。

 

 

 

でも、こいつが来たのって、広告代理店・・XXXプランナーって、今度の新商品A企画・発表の仕事だよな。何百億単位の金が動く。

・・・こんな若造ひとりにまかせるなんて・・・こいつ、こう見えて仕事できるのか。

 

 

オレは頭でぐだぐだと持ち前の小姑っぷりを発揮していた。

まぁいい。オレはオレの仕事をする。早くこいつを放って・・・。

よし、上座確認!そこ座れ。

 

 

「どうぞ、お掛けください」

「ありがとうございます」

 

ありがとうございます、の笑顔にどうしてかどきっとしてしまったオレの心臓は、とりあえず無視。

 

 

「田岡は後10分ほどで参りますので、申し訳ありませんがお待ちください」

 

敬礼、角度30度。ドアを閉めて・・・静かに・・・

 

がちゃり。

 

 

 

 

 

 

よし。

プロジェクターの予約だ!総務に電話・・

 

 

「なんかえらくチャラチャラした男が来たな。じゃあ藤真、お茶出しがんばれよ」 

 

ほっとため息をついてまた机にかじりつこうと思った矢先、何故かまだいた花形からヤジ?が飛んだ。

せっかく忘れてたのに。花形のやつ、ひとごとだと思って。

・・意外と商品台帳の話を後回しにしたのを、根にもっているのかもしれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

コンコン。

 

「失礼します」

 

 

がちゃり。

敬礼、角度30度。

 

 

 

 

 

よかった。

 

お茶といってもうちのお茶出しは紙コップでコーヒーを出すだけだった。それすら忘れてた。

商談中オレ、出されても飲まないからなーコーヒー飲むと余計ノド乾くから。

 

 

 

 

応接の机は低い。

 

こういうときは確か・・・

 

 

・・・『机が低くて出しにくいときは、ひざまずいて出しましょう!』

研修で、人事部のお局さんの言っていた言葉。

 

そーだそーだ、め、めんどくせ〜

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございます・・・この会社には実に美しい人がいますね」

 

は?

 

一瞬耳を疑ったが。

 

・・・なんだぁこの男。

 

 

 

「・・・お褒めの言葉と受け取ってよろしいんでしょうか」

 

何オレも普通に返してるんだ。

 

「ええ、そのつもりで言ったんです」

「・・残念ながら本日は女子社員が関連会社にて研修で、おりませんで」

「いーえ、とびきりの美しい人に会えました今日は」

「・・・は?」

「こんなキレイな人にお茶だしてもらってる。藤真さん、あなたに」

 

 

オレ、名前教えてないけど?ああ、入門証みたのか。

じゃなくて。

何、このシチュエーション。

コーヒーのコップをやつの前まで進めた手を、上から重ねて握られた。

 

 

「あの、失礼ですが」

「敬語、使わなくていいですよ。オレのが年下なんですから」

 

なんか知らないけどオレ、今、カンペキ口説かれてるよな?

 

「・・・ホモ、ヘンタイ!」

 

 

 

 

手を振り払って、叫んでしまっていた。

なんでオレの年齢なんて知ってんだ会ったこともねーぞオレはおまえになんて!

 

仙道、はそんなオレにあっけにとられていたが、

 

 

「・・はっはっは、うんうん。

美人の上に面白い人だな〜ますます惚れちゃいますよ」

 

 

とひとり満足そうにうなづいて笑い出した。

 

 

オレの 『新入社員研修』 のときに教わった接客マニュアルは、

この非常識色魔の前に音もなくふっとんでいった。

 

 

 

 

 

「笑い事じゃねーだろ、ストーカーか訴えるぞ!」

「ちがいますよヤダなぁ、オレはもうここに5回は来てるんですよ?あなたが俺に気づかなかっただけ」

「じゃあなんでオレの個人情報まで知ってる!?」

「あーそれは田岡さんが。 『うちの期待の若手だ!』 っていろいろと教えてくれたんです。

出身地、出身大学、住んでるとこ、兄弟構成、それから」

「もうわかったからやめろ」

 

田岡次長・・・・・・・・・・・・・・・・・許すまじ。

 

 

 

「藤真さん、ずっとあなたとおしゃべりしてみたいと思ってたんですよ。

今日、こうなれて本当によかった」

「お、おまえー・・・・俺は男だぞ、ヘンタイか、ホモか!?」

「見ればわかりますよ、さすがに女の人とは間違えませんよその格好だし。

ちなみに俺ホントはノーマルなんですけどね、なんでかな〜藤真さんだからかな」

 

オレが入れた・・というかメーカーから注いだだけのコーヒーに、

フレッシュと砂糖を丸ごと一個入れてかき混ぜながら、慣れ慣れしいを通り越した、

まるでもう長いことつき合っている恋人同士のように自然な口調で話しかけてくる。

その、雰囲気まで操る甘党男の話術に頭がぐらぐらするのと、オレは必死で戦う。

 

 

 

 

「・・もうこの際おまえがホモでもなんでもいい個人の自由だ。

だがいい加減にしろ。おまえはここに仕事しにきてんだろ、あ?」

「そうですよ。でも田岡さんまだ、きてないし」

「そ れ は、てめーが30分も早く来るからだろうが!おまえ、商品Aの発表の仕事任されてるんじゃないのか・・・

いくら下っ端でも宣伝課のオレが、知らないとでも思ってんのか!?」

「それなんですよ、もう必死ですって。俺らの会社の他に、4社も案出させてるんでしょ。

その中で一番いいのに決めるって、代理店戦わせてお城のてっぺんから優雅に見てるなんて・・参りますよホントあなたのとこの会社には」

「そんなことどこの会社でもやってるだろ。それにオレを口説いてるヒマがあるとは、必死のようには見えないが?

それとも俺を懐柔して話をうまいこともっていこうとしてるのか?

残念だがそれは無理だ。オレのことを田岡さんがなんと言ったか知らないがただのペーペーだ、なんの権力もない」

「ヤだなー、仕事とオレの気持ち、ごっちゃにしないでくださいよ」

「・・・ふざけたやつは一番嫌いだ。おまえのようなやつの案を、田岡次長が採用するはずがない!

軽く億超す仕事だぞ、舐めるな!おまえのとこの会社なんか敵わないような超大手が何社も血眼になって取りにくるんだよ!」

「だから、一緒にしないでくださいってば仕事と。それとも、仕事で成功したら認めてくれるんですか」

「何?」

「今回のセールスプロモーション、俺の会社XXXプランナーが受注することに決まったら、俺と仕事を別に考える。

それであなたは俺とデートする。どう??」

「・・・おまえ・・アホか?頭、だいじょうぶか?」

「もうアホでもなんでも今はいいですから。

俺がこの仕事に成功したら、あなたは俺とデート。いいですね!・・ハイ決定〜!約束ね、

ゆ〜びき〜り げ〜んま〜ん ウ〜ソつ〜いたらは〜りせ〜んぼ〜ん の〜ま」

「ちょ!まっ・・」

 

 

 

どどどどどどおどどおどどどど・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

オレが抗議の言葉を、ゴジラの突進のような足音が遮った。

 

コンコンコンコンコン!!

 

「仙道くん!待たせたな!!」

 

 

ノック多すぎ、激しすぎ、です次長。

・・我が広報部宣伝課、田岡茂一次長のお帰りだ。

 

 

  

 

「田岡次長、今日はちょっと早く来ちゃいました

新たに名案が浮かんだもので・・はりきりすぎちゃいましたかね」

「早すぎだ、驚いたぞ。今日は槍でも降るかな」

 

 

え、なんだこのやりとり。

 

この和やかなムード。

 

この男・・・・もしかしなくても、

 

 

  

『最近の若いのはちゃらちゃらしているだけかと思ったら、なかなかいいのもいるな。

この前もひとり面白いやつを見つけたんだ。まだ入社2年目にしてトンだ曲者だぞ。

まだ新しくて小さな会社だが、そいつがブレーンを担ってからメキメキ業績を上げていてな・・・

近々藤真、おまえにも会わせてやる』

 

 

 

コイツが前に言ってた、田岡次長の、お気に入り???

 

 

 

  

「おお藤真、何している」

「ぼくにコーヒーを出してくれてたんです」

「そうか!商品Aのセールスプロモーションだが今朝安西部長ともお話したのだが、

XXXプランナーの、この仙道くんに任せることにした。

藤真、おまえには今回の販売促進活動をすべて任せることにしたからな。

大仕事だが、この仙道くんと二人三脚でやってみろ!

おまえら若手最強タッグだ、期待しているぞ!はっはっは!!」

 

 

 

 

まじ?

 

ちょっと田岡さん、その男はダメだって!

 

って、止めようとしたら、

 

仙道の顔。

 

 

 

あれ?仕事の顔。

 

 

 

真剣な、やり手営業マンの顔。

 

 

なんだその顔インチキだ!

 

だってさっきまでそいつはオレを・・・!

 

 

 

 

あ!

 

 

 

 

ベージュのぱりっとしたシャツ。の、第一ボタンがしっかりしまってる。

ダナキャランの黒のネクタイ。が、ちゃんと上まで上がってる。

ジャケットの前・・・いつの間にか全部しめてるし!!!!

 

 

 

 

髪型だけはあいかわらず いいの? な髪型だったが、ヤツはバリバリ仕事モードにスイッチしていた。

キツネに抓まれた気分のオレ。

 

納得いくかこんなの!!!!

 

 

 

 

その場でこぶし握って怒りに震えて立ち尽くしたオレを、田岡さんが訝しがって

 

「藤真?」

 

振り返って声をかけた。

 

その向こうで、あいつは。

 

ニコニコしながら左手の小指を立てて、振って見せた

 

 

ヤ ク ソ ク  って、口パクしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてオレは忘れてたんだ・・・

 

 

 

 

4時からの幹部集めての経営企画部と合同のプレゼン、

総務部への、プロジェクターの貸し出し予約・・・

 

 

 

 

 

 

ふっざけんなあのやろー!!

 

こんなの詐欺だ、反則だ!!

 

仕事と恋愛をごっちゃにしてるのは、どっちだっていうんだ!

 

この仕事が終わったら、待ってるのはデートなんかじゃない。

 

ぜったいぶっ殺してやる、ぶっ殺してやる!!

 

 

 

 

仙道 彰!!

 

 

 

 

 

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早かったですね、もう仙道さんに落ちてます藤真さん(本人気付いてないだけ)。

ちなみにわたし、広報部でも企画営業部でもないのでこんな風なのかはわかりかねますが・・。

BGM:いろいろ。今は椎名林檎 『真夜中は純潔』

 

2004/10/20(今日はアジアンカンフージェネレーション、アルバム 『ソルファ』 の発売日)