「あー、最悪だったぜ、山はずれまくり!!
まさか波動のところ、今さらあんな細かく出るなんて予想つくわけねぇべ!」
「それ言うなら英語もだぜ!クソっっあの熊田のジジイ!!
『この単元からは~、ほとんど出さないから~軽~く流す程度で結構だ~』 って、
どこがだよ!!・・・ほっっとんどそこから出てたじゃねーか!!あの先公め!!ハメやがって!」
わーわー、わーわーわーわ。
永野と高野が、さっきまでのテストについて文句言ってる。
確かに今日の物理と英語は、俺もばかやろーって思ったもんな。
だから、少々耳障りでも放っておく。
俺も元気だったら、一緒に混じってガヤしてたと思うから。
でも、今はそんなものない。っていうか、むしろ欲しい。文句言う、元気。
I Want This only3
「・・・藤真??」
「あ・・・ごめん、花形何??」
「や、おまえ大丈夫なのか?
きのうの早退といい・・本当にただの頭痛、か??」
「・・おう、何でか、まだちょっとダメでさ・・・。
こんなの、1日寝れば治ると思ってたんだけど・・・
あ、でも今日の頭痛は 『テストができなかった痛』 かもな、ははは」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・ごめん、笑えなかったか」
「藤真、無理すんなよ」
言われちまったな・・・無理、かぁ。
してんのかな、俺の体も、心も。
昨日はテストの前の日で、
範囲の最終確認や、先生に探り入れれる最後のチャンスだったけど、俺は早退。
頭にはずっと霧がかかったみたいにぼんやりだし、
下半身は、誰かしがみついてるのを引きずって歩いてるみたく重くてダルかった。
最終的には俺の様子を見た花形や一志、先生からも
強制退去を言い渡されたのだった。
3年間高校通って、初めての早退。
今まで遅刻も欠席もなく来て・・皆勤賞、確実なハズだったのに。くそっ、あの黒猫疫病神め。
・・本日からそう遠くもないあの日、覚えているのは
朝からひどく晴れてて、白くて霞んだ長い雲が、空に貼り付いてたこと。それが1つ。
覚えていることは、もう1つあって、
それは、黒猫疫病神のこと。あんな近くで初めて見た。
・・・あの流川って名前の黒猫は、近くで見れば見るほど、
息が止まる・・・つーか、相手に息、すんの忘れさせるくらいのめちゃくちゃの毛並みの良さで。美少年で。
切れ長の、ノラ猫が獲物を狩るときの目に捕らえられて俺は石のように固まり、
・・・やつの、なすがままになってしまった、ってワケ。
まったく情けない。この、ドSな俺がだよ??
あのガン黒帝王・牧と並んで女王と呼ばれる、
プライドと口から先に生まれたみたいなこの俺がだよ??
(呼んだらタダじゃおかないけど)
・・・あんな他校の生意気ルーキーの、成すがまま。
そんな身も蓋もない露骨な姿で、俺はアイツと・・・・・
・・・ああ、バカ。
あのことは、忘れなきゃ。
あの時のことは、あの時に置いてこなくちゃ。
もう、終わったこととして。
はい、おしまい。
だって、
向こうは、これからどうする気もないのかもしれない。
どんなことしてどんな関係になろうと、
突然続きのなくなる話だって、巷にはいくらでもあるのだ。
その証拠に、あれから連絡は着ていない。俺からも、とってないけど。
俺だってあの時は、今後どうするかなんて考えないで一時の快感や痛みに溺れた。
・・・これから、もう2人でバスケなんてできなくなる、とか、
こんなことして、 『また』 はあるのかとか、『未来』 はあるのかとか。
そんなこと、考えるだけ無駄で。あの瞬間には、やはりあの行為するしかなかったように思う。
恥ずかしいことこの上ないが、ああなるのが最高最善だったのだ。そう、自分に言い聞かせる。
今後どうしたいなんて。怖くて聞けない。
初めから、約束なんて、言葉なんて何もなかった。好き、も、ましてや愛してるも、付き合っても。
やつに限っては本当にその刹那の、目の前の獲物を狩るためだけの本能的な反応で、俺を抱いたのかもしれず・・・。
彼にとってはただのイニシエーション・・通過儀礼だったのかもしれず・・・。
ああ、やっぱり、聞けない。どうにも、できない。だから、聞かない。このまんまでいる。
なのに。
それでも、少しでも期待してしまっている。
気づくと、あの黒猫のことを、今後の話しの続きを考えてしまっている。
そんな自分は、とんでもなく女々しい。気高い女王なんて、程遠くて。
・・・俺は周りが言うほど、見ているほど、女王なんかじゃないって思う。
「おい、アレ!」
「げっっまじかよ!?」
「はっ・・・!?まさかだろ!?何でここに!!??」
「藤真」
「・・・・・・・・・・・」
「藤真っ!」
「え・・何・・・・・・?」
高野と永野が上げたすっとんきょうな声。
その声にも 何だろ くらいにしか思わず、
体力を使うことを少しでもしたくなかった俺は 顔を上げる という動作をすることすら拒んだというのに。
一志の凛とした俺を呼ぶ声に続き、珍しく花形が声など荒げるので
俺は意を決して首根っこに力を入れ、重たい首を持ち上げる。
その、俺の開けた視界に、一気に夜の闇が広がった。
・・それはそれは、みるみる鮮やかな漆黒に染まっていく。そしてその光の中に。
先日、俺を捕らえて瀕死に陥らせた・・獣が、美しい毛並みをした黒猫が、目の前にいた。
・・・まさに今、こいつのことを考えていたのだ。
目の前にいるなんて、信じられない。
何で?
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・ああ、わかったぞ。
俺の息の根、完全に止めにきたんだな??
バカだな。
わざわざトドメ刺さなくても、放っとけば、
俺、何もしないでも死んでいったのに。
おまえに付けられた甘い傷たちは、残酷すぎて。
首筋の鬱血も、腰を揺するときに腹に食い込んだおまえの指の痕も、
まだまだ俺の体に鮮やかな痕跡で。
もし例えそれらが薄れたとしても
きっと記憶は、放置されるほどますます鮮やかに俺の脳みそを煮詰めていくだけなのに。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「流川・・・・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・こんなとこまで来といて・・シカトかよ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「俺の息の根止めにきたわけじゃ・・・ないのか?」
「ハ?」
「違うのか?」
「・・・え?」
「好き。愛してる。俺は藤真サンを、愛してる。他の誰にも渡したくねー。俺だけのモンにしてー」
・・・そこからは。
もはや一寸も身動きの取れない石のように固まった俺を、
流川は強く、体中の骨が砕けるほど、
血液の流れが滞るほど遠慮ないバカ力で抱きしめて。ヤバいよ。細胞、壊死しちゃう。
何だこれは?どういうことだ?俺の願望が暴走したのか?
「願望の暴走か・・・はたまた夢か。そうか、これは夢だよな・・・・・?」
だって、イカれてんだもん。
ここは伝統的な名門・進学校・男子高・・・
そんなお堅い翔陽高校の正門で。公衆の、面前で。お堅い俺が。
他校の年下学ラン男に抱きしめられて、
目から涙を決壊させているなんて。こんなシチュエーションは、きっと夢しかありえない。
「何、ブツブツゆってる・・夢じゃ、ねーよ」
「マジ?・・・夢じゃないなら、どうすれば?明日から俺、どうやって学校来よう・・・部活とか・・・」
「フツーに来れば、いいじゃん・・・電車とか」
「バカ。そんなこと言ってるんじゃねえよ・・・・やっぱ、夢だこれは。そうでなければ困る」
「だから、夢、じゃねーって」
「夢だ!目覚めたら、おまえもいなくて・・・」
「しつけーなアンタも。そんな言うんなら、もう、夢でもいーぜ」
「え?」
「デモ、夢から醒めても俺は、アンタの側にいる」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あの日の後始末は、それなりに色々と大変だった。
でも、今こうしていつもと変わらない学校生活を送ることができて、感謝している。
あの場面の目撃者たち・・・そう、当の本人の俺より、たぶん一緒にいたやつらの心労の方がひどかったろう。
あいつらは、最初はそれこそ気絶寸前なほど驚いたと言っていたが、
そんな中でも「後は任せろ」 と言ってくれた。具体的にどうしたのかは知らないが。
「お前が俺たちに迷惑かけるなんて、滅多にないだろ。
いつも逆ばかりで。だから、こんな時くらい任せろ」って。
非難するでもなく、見て見ぬフリするでもなく・・・それが、ありがたかった。
・・・そしてその時の流川の度肝を抜いた行動が
三井による受け売りだってのを俺が知るのは、あの事件からしばらく経ってからとなる。
でも。何でも良かった。
例え受け売りでも、流川はいつも自分流にしてしまうから。
そして俺を、振り回してくる。
俺は、目ぇ回るくらい、頭ガンガンしちゃうくらいに振り回される。
でも、
そんなとこが、好きなんだ。
・・・そういえば小さい頃から、遊園地に行っても
メリーゴーランドより、ジェットコースターの方がずっとずっと好きだった。
優しさなんて、まったり感なんて、ムードなんて、少しもいらなくて。
欲しいのは、その疾走感と激情感だけだった。
もっとも、幼いころの自分が求めるその気持ち良さが、
シッソウカンやゲキジョウカンだったっていうのは現時点での見解で、当時はそんな言葉まったく知らなかったけど。
時は過ぎて、そんな俺は高校生3年生になった。
精神的にも肉体的にも、それなりに成長して、
それなりに変化したが、たぶん本質は幼いころから変わっていない。
ただ、あの頃より確実に自由になる時間はなくなった。
何かと忙しく、遊園地なんてもの、もう何年も行っていない。
だけど、遊園地ではないところで発見したんだ。
俺だけの、アトラクション。ヘビー級ジェットコースター。
もうこれなしじゃ生きらんない・・・気がしてる。
この感じ、それだけで生きていこう。生きていける気がする。
流川楓が好きだ。それだけだ。
だって、複雑に考え出したら、きっと思考回路が持たない事、わかってる。
だから、「ただそれだけ」って考えてみる。
ただそれだけだ。
ただそれだけだ。
なんて単純で素敵な魔法の呪文。
流川楓が好きだ。それだけだ。
ただそれだけだ。
ただ、それだけだ・・・。
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<<妄想誘発音源、BGM>>
☆Shokcking Lemon Inner Light (アニメ・はじめの一歩のOPだけど、あの疾走感は流藤もアリかと)
☆shela Rose、I know 〝It’s truth〟
☆椎名林檎 シドと白昼夢
☆東京事変 教育
激情バカップル。
藤真は流川に、こうしてずっとどきどきずっきゅん逝かせ続けられる運命ね。
2005.12.02書きあがり
2013.01.20改訂