『・・間もなく当機は着陸態勢に入ります。
これより携帯ゲーム機、CDプレイヤーなどのご利用はお控えください。
また、どなた様もシートベルトを緩みのないよう、しっかりとお絞めください』
・・グアム旅行からの帰路。
機内のアナウンスを聞いた藤真は、読んでいたというよりはただめくっていただけの仕事の資料から顔を上げ、ほっと息をついた。
腕時計を日本時間に合わせ直す、夜の20:00。
狭いシート。短時間のフライトだったので足腰の辛さはさほどないものの、
少しでも早くこの姿勢から解放されるのならそれに越したことはない。
・・そして何より、自分の隣で無駄に長い脚を無理矢理折り曲げて、
猫背にうなだれている大男が眠りこけているうちに
さっさと着陸してほしいものだ。
と、思っていたのに。
藤真の願いむなしく、その大男が目を覚ます気配がした。
「・・大人しく寝てればいいものを。お目覚めですか」
「・・・・」
「大丈夫か?」
「・・今は、何とか」
「酒、切れたんだな。くそっ、やっぱりビール1缶じゃダメだな。
おまえ、デカいから燃費悪いんだよ」
身長197センチもある健康な成人男性が、
缶ビール350ml・1本で3時間も爆睡していたのだ。
むしろ燃費が良いと言って欲しい・・そう思ったが、
とても口に出せる精神状態ではなかった。
空港で強制的に酒を飲まされた後、
ほとんど恐怖がなかったのは、ほとんど記憶がないために違いなく。
・・回らない頭で、何とか現状と現状に至るまでの経緯を把握しようと試みる。
恐らく藤真が、酩酊状態の自分をこの席まで引きずってきて座らせたのだろう。
・・・牧と清田に、手伝ってもらって。
『花形さん、おーもーい!!』
『我慢しろ清田!日本に着いたらお菓子買ってやる』
『牧、餌付けとはさすがだ』
『ひっでぇ!餌付けってなんすか藤真さん!?』
『うわぁぁあお前、そっちしっかり持てっ!』
ほとんどない記憶の片隅で、そんな3人の声がかすかに再生された。
と、次の瞬間。
グラッ
「――――――!!」
「何だ!?ひどく揺れるな」
飛行機に対して恐怖心のない藤真でも、少し焦るくらいの揺れだ。
周りの乗客からも、 おお とか やだっ とか声が上がり、
近くで子どもが火がついたように激しく泣きだした。
花形は、声を出して泣くことができるその子どもがいっそ羨ましかった。
恐ろしさも頂点に達すると・・・声も出ないということを思い知った。
そしてそれはしばらく続き・・恐らく時間にして1分もなかったと思われるが
花形にすればそれは途方もなく長い時間に感じていた。
・・その後、やっと平行飛行に戻り、平穏を取り戻した機内。
しかし相変わらず子どもの泣き声があがったまま。
そして「おー可哀想に。フリーホールかと思ったよな、怖かったよな!」
と笑いを誘う、余裕ある突っ込みがどこからともなくあがった。
藤真は、自分の右隣・・窓際に座ってガチガチに固まっている男を見た。
本当に恐怖した人間というのは、目を閉じる機能を失うのか?
目を カッ と見開いたまま、前方の意味のないただ1点を凝視している。
彼のトレードマークである黒ブチ眼鏡は最初に座らせた時に藤真が外したから、
ほとんどその瞳は見えていないはずだが。
「花形」
「・・・・・」
「調子、どう?」
「・・良くみえるか?これで」
「あんまし・・」
そう、藤真の隣に座る、痩せてはいるが無駄に高身長の花形透は
飛行機が大の苦手であった。
――数万人が勤務する関東本社の世界的電気メーカー・K電産に
藤真が入社したのが4年前。大卒での入社だった。
それから遅れること2年。花形もK電産へ入社した。
2年遅れたのは、彼が大学院の修士課程まで進んだからで。
ここで彼が専攻していたのはなんと航空宇宙工学!!
航空機にもロケットにも精通しており、
三度の飯と同等の愛着を持ってそれらに接してきたのに。
・・・それなのに、飛行機恐怖症。
『学問や技術としてのそれと、実際に乗るのとはまったく別物だ』と
彼は普段から周りに豪語しているのであった。
会社での所属部署は、藤真が自動車部門のエンジン生産技術部、
花形がシステム開発部。
ふたりともほぼ業務上での絡みのない部署に配属されたが、
違う分野の改善提案で功績をあげた結果、年に1度の社長賞にお互い選ばれ
今回、晴れてお祝いのグアム旅行へと強制的に連れて来られたというわけだ。
この賞には、藤真と同じエンジン部の牧と清田、伊藤も選ばれている
(エンジン部はチーム受賞だった)。
ちなみに、グッドデザイン賞で担当車種が選ばれた、デザイン部の神も一緒だ。
・・・同じ会社であっても、関連部署でなければ
まるで別会社であるかのように会わない毎日。
故に、今回の様な機会は貴重だった。
でも、どうせ藤真に会えるなら、平常心の時に出会いたい。
ところで・・今さらだが、どうして藤真が自分の隣なのだろう?と
鈍る頭の隅で、花形はぼんやり思った。
・・きっと誰かに席を変わってもらったに違いない。
座席はある程度、部署で固まるはずだから。
花形は行きの便から降りる時、極度の緊張から解き放たれた安心感か、
腰を抜かしてしばらく立ちあがることができなかったのだ。
そしてそのふがいない様子を、しっかり藤真に目撃されていたのだった。
たぶん藤真は、そんな自分を心配して・・・。
少し嬉しい気がするが、それもパフォーマンスが著しく低下した
頭の片隅でかすかに想うだけ。
今は思考回路全体で、手放しに嬉しさを感じるだけの容量が・・余裕がない。
まったく、この揺れは。勘弁して欲しい。
どうしてしまったと言うのだ。
行きの便でも・・・こんなに揺れ方はしなかったのに!
・・しばらくたって飛行機が安定してきたので、
もう大丈夫かと息を吐いたのも束の間、再び
―――バリバリバリバリッッ という不穏な音が耳に響き、
同時に機体が大きく揺れ出し、情けなく裏返った悲鳴を上げてしまう。
「うぅぅぉわぁっ!!」
「何だ!?さすがにこの揺れはおかしいぞ」
「・・おかしいのか!?藤真、やっぱりこれはおかしいのか!?
飛行機など乗らないから、何が普通かもさっぱりわからないが
やっぱりこれはおかしいんだな!?異常事態なんだな!?」
「はっ、花形!?」
急に早口にまくし立て出した花形に、藤真が脅えた様子を見せた。
機体が激しく揺れるより、花形の危機迫る様子の方が恐ろしいかのように。
・・実際、藤真はそっちの方が格段に怖かった。
いつも冷静で優しい花形の人格が、リアルタイムで壊れて行くのを
高校時代からの長い付き合いの中で、今夜初めて見るのだから。
「これは異常事態だ!ち、ちなみに異常とは常と異なると書いて
正常ではないことだがそもそも何をもって正常とするのかも何をもって異常とするのかも定義がはっきりとしていないこの場合の正常とは飛行機があるべき姿で飛んでいるとこであってこの場合のあるべき姿とは問題なく飛行機が飛んでいることであってこの場合の問題というのは」
「し・・・しっかりしろ花形っ、気を確かに持て!」
藤真は花形の肩に両手をかけて前後に強く揺さぶった。
花形が、悲鳴に近い叫び声でそれに答える。
「藤真!!だ・だ・大丈夫だ!!1回のフライトで乗客が死ぬ確率は
宝くじ3億円が当たるより低い確率なんだからっっ」
「は?」
「だからっ、具体的数値で言えば約800万分の1以下なんだ!
ある乗客が1日に1回づつ毎日飛行機に乗っても
統計上では事故で死亡するまでに2万1000年以上もかかるんだ!!
0ではないがそんな限りなく低い数値なんだ事故などないと同じなんだ!!」
「・・えーと・・だから何?」
「だーかーーらっ!!お、お、落ちる訳ないだろう!」
威勢が良い割には、花形は激しく震えていた。
無意識のうちに、大声を出して自分に喝を入れ
心を落ち着かせようとしているのだ。
にぎりしめる拳には、はちきれんばかりに血管が浮き上がっている。
・・相変わらず機内が揺れ、人々の悲鳴が聞こえる中、
藤真が突然花形の方に身を乗り出してきて・・・
窓に降ろしていた日よけを開けようとした。
「ふっ、藤真!?何をする!!??」
「だって、外で何が起こってるか全然わからないじゃないか。
わからないから、見えないから怖いんだろ!
だったら自分の目で確かめるしかないじゃないか!」
「も・・もっともらしいことを言うな!正論ばかり言うのも時に嫌われるぞ!」
「うるせえバカ形!ちょっとお前かがめ、見えないだろうが・・・うわっ!」
「何!?何があったんだ!!??ど・・どうした!!??」
―――藤真の目の前には映画でしか見たことのない様な光景が広がっていた。
嵐や、雷の時の映像のように無数の灰色の雲の隙間から、
時折、辛うじて夜の漆黒の空が覗いている。
すでにこの飛行機も、着陸のためにだいぶ高度を下げているはずなのに、
それなのにこの雲の量・・・もしかして雪雲か?
もしこれが揺れの原因ならば・・パイロットも、
一言安全だと機内放送をしてくれさえすれば
皆、ここまで不安にならずに済むものを。
外国の航空会社は基本的に呑気で気が利かないなと、舌打ちする。
しかし藤真は、元から揺れで取り乱してなどいない。
そもそも、原因もわからず機体が激しく揺れたことに少しは驚いたが、
その事でどうにかなるなど、まったく思ってもいないのだ。
「ふ、藤真!!どうした!!外では何が・・何が起こっている!!??」
花形は相変わらず長身をかがめて顔を伏せたままだ。
「大丈夫だ!ちょっと普段より雲が厚いだけだ」
「・・雲!!??く、雲がどうしたんだ!!??」
花形の発する声が調子外れに裏返った。
「あー、もうっっどうしようもないな、このデカブツは!」
乱暴にそう言い放ったが、その言葉とは裏腹、
藤真は花形が恐怖でにぎりしめているその震える拳を
自分の手のひらで上から優しく包み込んだ。
「!」
「・・・緊張しないで・・安心して・・
俺がついてる。大丈夫だから なっ?」
耳元で聞こえる、藤真の慈愛に満ちた優しい声。
その声が引き金となって、花形の脳裏にフラッシュバックしたのは―――。
・・・・・・
「とーるちゃん、ママがついてるわ。大丈夫だから ねっ?」
お母さん・・・ママ!!
・・そう、当時はまだ母親のことを ママ と呼んでいた。
あれは、花形がまだ5歳の時だった。
父親の仕事の都合でアメリカで暮らしていた花形だったが、
日本に戻ることになり・・その際に家族で乗った飛行機が
悪天候でひどく揺れたのだ。
花形にとっては、あれが記憶に残っている一番最初のフライトで、
それから今回のグアム旅行までずっと飛行機には乗っていない。
すべてを(半ば無理矢理)、国内で済ましてきたからだ。
あの幼い夜のことが、完全にトラウマになってしまっていた。
そう、あの時も・・今夜のように夜のフライト・・ナイトフライトだった。
しかし実はあの時、花形は莫大な恐怖体験と同時に
人生最初の至福の時を迎えていた。
それはそれは、鮮明に思い出せる。
まだ幼い、小さな手で作った彼の震える拳を、優しく包み込んだ母の手。
そして
「とーるちゃん、ママがついてるわ。大丈夫だから ねっ?」
耳元でささやく、慈愛に満ちた優しい声。
それは、この世のものとは思えない程の癒しと
すべてを包み込む愛情を、花形にもたらして・・・。
・・・・・
「ママ・・ママ!!」
「え」
フラッシュバックを果たした花形に、驚かされたのは藤真の方だった。
俺はママじゃない・・それとも窮地に陥って母親を呼んでいるのか?
特攻隊員が死ぬ前に母親のことを叫びながら突撃していったように?
いずれにせよどうしたこいつ、恐怖のあまり幼児退行現象発動か?
「ママ!とーる、こわい!!ママぁ」
・・やっぱり、どうも自分に向けてママ、ママと連呼してくる様だ。
しかも、とーるって・・・何。
突っ込みところは沢山あったが、そこは
藤真元来の頭の切り替えの速さが勝った。
花形の様子が先ほどより幾分大丈夫に見えたので、
我慢して、そのまま自由に自分のことを呼ばせてやることにする。
そして、相変わらずの窓の外に目を凝らし続ける。
――と、そこから時間はほとんどかからなかった。
好転は、拍子抜けする程に唐突にやってきた。
おびただしい数の雲が、掃かれたように一斉に晴れるのと同時に、
窓の外に広がったのは、目を見張るくらいに美しい、一面の夜景。
「!すごいぞ!もう大丈夫だ!!外を見て御覧」
「ママ!無理だよ!!・・できないよ!怖いもん」
「とーるちゃんっ、大丈夫だから、ほら」
花形がどういうつもりなのかさっぱりわからないが、
藤真はしばらくママのふりを決め込むことにする。
無理やりに花形の顔を両手で挟んで窓の方を向かせる。
この時もちろん、黒ブチ眼鏡をかけてやるのを忘れない。
「ママ、やめてよ!とーる、できない!!嫌だもん」
「大丈夫、とーるちゃん!目を開けて。
外、とってもキレイだよ。とーるちゃんならできる!
大丈夫。ママを信じて。そっと目を開けて御覧・・」
「ママ・・・・!・・・!!!!」
・・意を決して、恐る恐る目を開く。
すると、そこには。
一面、宝石を散りばめたような夜景。
・・生涯見た夜景・イルミネーションの中で、群を抜いて美しかった。
花形は目を見開いて、思わず窓に貼りついた。
「ママ・・・とーる、こんなの見たことないよ!
今までで一番すごい!すごいよ!!とてもきれいだ!!」
鼻の奥がつーんとしてくる。感動で、泣きそうだ。
「ねっ、だから言ったでしょ。それに、もう震えても揺れてもない。
とーるちゃんも、飛行機も、もう平気」
「・・あっ!」
飛行機は、もう揺れてはいなかった。
やはり、先ほどの雪雲が原因だったらしい。
日本では今朝まで雪が降っていたとネットで観たことを
藤真は今になって思い出した。
そしてやっと、花形の身体の震えも止まった。
「どう?」
「怖くない・・・ママ!もう怖くないよ!!」
「やったなとーるちゃん!偉い!」
「ママぁ!とーる飛行機平気になったよ!!やったぁああ!!」
「良かったなぁ、すごいよとーるちゃん!・・だけど、」
「なぁに?」
「・・てめー、なら、いつまで握ってんだ?手ぇ」
―――憮然とした面持ちででそう言い放った藤真は、
もう『花形のママ』ではなく『いつもの藤真』だった。
それに弾かれたように、花形も『5歳のとーるちゃん』から
『26歳のインテリ会社員』へと還っていった。
....................
数週間後。昼休憩時間。K電産本社内。
「しっかし、お前がマザコン野郎だったとはな~」
藤真に、まだ、そしてまた、このネタでからかわれている。
あの機内での一部始終は、1番の被害者?の藤真のみならず
知られたくないやつリストにエントリーしていた全員に知られていたようで
(どうやら皆、座席が近かったようだ)。
飛行機を降りた後、牧に
「大の男にだって、苦手なものの1つや2つあるよな」と慰められ、
清田に
「かっかっか!ママだって!!とーるだって!!!」と大笑いされ、
神に
「約束します、今日見聞きしたことは口外しません」と頼んでもないのに約束され、
伊藤に
「あんなの花形さんじゃない!!」と泣きながら逃げていかれた・・・。
恐らく、一生この出来事が藤真の頭から消えることはないだろう。
そして、花形の頭からも。
「悪いか。男は誰だってマザコンなんだ」
「はーん。開き直るんだ。良いけどね」
だってそうだろ?少なからず男はマザコンだろ?
おまえだって・・・ そう言いかけて、
そう言えば、今まで藤真の口から母親の話を聞いた覚えがないな、と思い、
言うのをやめた。
藤真の母親ってどんな人なんだろう?
彼を産んだ人なんだから、きっと相当な美人なんだろう。
でも、何となくその疑問を口にするのが、はばかられる。
高校時代から一緒だったのに、そう言えば家族のことをほとんど聞いたことなかった。学生の時にも多分・・質問した時に・・容易に聞けない雰囲気が・・。
藤真の家族がバスケの試合を見にきたことも、花形が覚えている限りなかった。
俺を始め、他の生徒の幾人かは
家族がしばしば試合を観に来ていたものだが・・・。
「・・な。お前の母親ってどんなの?」
代わりに花形がまさに今、藤真に聞きたかったセリフを浴びせられる。
・・あれ?藤真も俺の親を見たことなかったか?
「・・どんなって言われてもな~」
「やっぱりデカいの?」
「いや、そうでもないな」
「えっ!そうなの?じゃあ父親がデカいの?」
「当時の平均身長くらいかな」
「えっ!?じゃあなんでお前デカいの!?」
「なんでって・・・」
そんなこと言われてもなぁ。
なんと答えるべきか思いあぐねているところに矢継ぎ早に次の質問。
「ところでさ、お前の母親ってキレイ?」
「キレイ?・・・うーん。
自分の母親をそんな風に言うのはちょっと気が咎めるが」
「とがめるが?」
「咎めるが、キレイだろうな。欲目で見ずに、客観的に見ても」
「ふうん、そうなのか。だったらいい」
「何がいいんだ?」
「だって、飛行機であの時おまえ俺のこと、母親と間違えただろ。
だったら、キレイな人でないと」
・・呆れた。
自分の容姿など、今さらまったく興味がないように普段振る舞いながら、
ちゃっかり気にしてる時があるからな・・。
まったく。こいつは。やっぱり面白い。
もう10年来の付き合いになるのに、藤真は未だにワケのわからないところで
自分なりのこだわりや線引きを、突如覗かせたりする。
竹を割ったようなわかりやすい性格に見せてる癖に、
最後までは誰も突き詰めさせてもらえない。
・・その底を見せないところ、どこか掴みどころのないところに、
惹かれる自分や大勢の周りがいるのであろうところも、否定できないが。
「俺の母親はそれはそれはキレイな人ですよぉ、どんな女にも負けませんぜ~。
タイプは、あなたとは違いますけど~。母親は、日本的な美人ですから~」
「・・自分の母親のことそんな風に言うなよ。気持ち悪ぃな」
「おまえね・・」
他になんと言えば良いのだ。本当のことなのに。
花形はあの飛行機事件以来、もう完全に開き直っていた。
むしろ、自分がマザコンなんだという新発見に新鮮味をすら感じていた。
母へのこの溢れ出んばかりの愛情を、世間でそう呼ぶのであれば
マザコンも決して不名誉な称号ではないだろう。
「ま、良いけどね。っていうか、
母親のことそうやって言えるのって、ちょっと羨ましい気がするよ」
そう言って少し笑った藤真は、どこか寂しそうに見えた。何故?
・・花形の母親は、とてもキレイでとても優しい人だ。
だけど強さと厳しさを持ち合わせていて、普段はそれが
前面に出ているから、優しさは肝心な場面でしか、出てこないけど。
それでも時折、ここぞ!という場面で見せる優しさに、
花形は幼いころからいつもイチコロだった。
・・それだけで、もう逆らえない。
おかげで反抗期もなく従順に育った。
疑う余地もなく、きっとこのまま一生服従コースだ。
一生母へのこの敬服の想いは、続くのだろう。
この先の人生、自分の母親より素晴らしい人間に会えるとも思っていないし、
自分自身、それで良いと思ってしまっている。
あのできた母親と、同じ立ち位置の人間など・・・。
と・・・あ、れ?
ここまで考えてそのような人物が・・
自分の周りにすでに2人、いたことに気付く。
・・だってそれってまさに、
俺の、誰かさんに対する想いと同じじゃないか、と。
「藤真」
「何?」
「今気付いたけど、おまえ、俺のママだったんだな」
「・・はぁ!?」
「うん、間違いない」
「おい、とーるちゃん。ここはもう雲の上じゃないぜ。
俺はこんなデカい子どもを産んだ覚えはないんだよ」
「ああ、そうだろうな」
「わかってんなら、いつまでも寝惚けたこと言ってんな。
お前に憧れてる女子社員たちが聞いたら、卒倒するぜ」
「飛行機恐怖症も、克服したしね。ママのおかげでね」
「・・ママの、じゃねえだろ。俺のおかげ、だろ」
そう言って笑った藤真。
その癒しに満ちた微笑。
花形は思う。
やっぱり藤真は、俺の第二の母親だ。と。
「うん、ありがとう。健司ママ」
花形のそのセリフに、
藤真があの、慈愛に満ちた優しい声で
「ばーか」
と返した。
********************************************
藤真ってお母さんっぽい・・・。
そして花形って良いとこ育ちのマザコンっぽい・・・。
何だかんだで自分のこの長い藤真総受け人生で初の花藤!!・・つーか藤花??
最初を記念すべき藤花の日に、爽やかに始められて良かった。
・・・爽やか?・・か?
この藤花が皆さんの厄払い代わりになりますように、願いを込めて。
勝手にイメージソング兼BGMは、以下の通り。
Fly on Friday(櫻井翔)
NIGHT FLIGHT
spending all my time
ねぇ(共にPerfume)
藤花おめでとう!!4×5!!
2013.04.05
(お手数ですが、ブラウザでお戻り願います)
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