くちづけ ファイナル
第3話 Endless Game 何があるの?そのドアを開けよう

 


2013年6月24日月曜日 AM01:06
@2人の部屋 

神宗一郎



「まーた、書いてる」

そう言いながら、床に座っている俺の膝に頭を乗せ、擦り寄ってくる。

「だってこれ、俺の日課ですから」

「それ、見たいなー」

「見てもらって構わないって、いつも言ってますよね?」

「うん。でもそれはダメなんだって。だって、日記だろ?それ」

「だから尚更、構わないんだけど。あなたに隠し事なんてないし」

「・・神ー!嬉しい」

「はいはい」

「でも、中身は気になるけど・・それとこれとは違うだろ。
やっぱり、人のそういうのは、見ちゃいけない」

「まぁ、一般的には?」

「だろ?」

「それに見ても見なくても結局全部、藤真さんとの話だしね」

「俺?」

「だって、毎日一緒にいるでしょ?」

「うん」

「だから、自然とそうなるよね」

「・・俺の、何が書いてあるの?」

「だから、見る?」

「いやだから、それはやめとく」

「強情だなぁ」

「どうしても見たい時が来たら・・・見るかもしれないけど」

「いいよ、いつでもどうぞ」

「・・・何が書いてあんの?」

「だから・・何度も言ってるでしょ。俺と藤真さんの」

「・・もしかしてっ!どこでしたとか、何回したとか、どんな体位でしたとか
何をどんな風に・・・とか!!そんなことが赤裸々に・・・
今日は、さっきした時のことが!・・・書いてあるわけじゃないだろうな・・・?」

「・・さぁ?それはどうでしょうね?」

「おまえ!!」

「もし、それが書いてあったとしたら、だめですか?」

「だめ、だろ」

「だめなんだ」

「・・・・やっぱだめ、じゃない、かも・・・」

「あはは、藤真さん無理してる」

「無理、してるかも・・・だってそんなの、恥ずかしすぎだもん。
でも、でも・・神だったら何でも良い気もしてきた・・・」

「それは、嬉しいですね」

「俺・・神にされて困ることなんて、何もないよ。
出逢ったばかりの、あの頃から。8年前から」

「・・・そっか。あれからもう、8年経ったんですよね」


2人の出逢い。

母校海南大学の、俺は2年生に上がったばかりだった。藤真さんは、3年生に。
軽音楽部の、地下の練習スタジオ、B04で。
俺が彼のドラム演奏を聴いたあの時から、初めて出逢った時から
それはもう・・・始まっていた。


「8年間、あっという間だった」

「俺もそう思います」

「それだけ経っても・・・俺は何も変わってないよ。
今も昔も、変わらずにずっとおまえだけのものだ」

「ありがとう。嬉しいです」

「神はどうなの?」

「もちろん俺も・・・出逢った時からずっと、あなたのことばかり考えてる。
どうしたらあなたが手に入るのか。俺だけのものになるのか・・・」

「ふふふ・・変なの。何でそんなこと考えんの?
俺は最初からずっと、おまえだけのものなのに・・・」

じ っとこちらを見つめながら、俺の髪の毛に指を絡めてくる。
見つめてくる大きい黒目にすべてを見透かされそうで、思わず後ずさりしかける。

「変ですか?俺」

「うん、変」

「嫌?」

「ううん、神なら何でも良いよ」

「俺、あなたを誰の手にも触れないように、箱にでも入れて閉じ込めておきたい。
それで、常に俺の手元に置いておきたい・・・これも変?」

「ちょっと変・・・とりあえず相当大きな箱になるよ、それ」

「そうだね。特注かな」

「棺桶みたい」
そう言って彼は無邪気に笑う。

「嫌?」

「ううん、神が望むなら、棺桶にでも納骨室にでも入ってやるよ」
・・・その時は、俺と一緒に。

「それはどうも。でも、ちゃんと生きててくださいね」

「・・ねえノート、全部取ってあるの?」

「昔の?もちろん」

「・・やっぱり、見せてもらっても良い?」

「良いよ」

「ちょっと、怖い気がするけど・・」

「怖い?」

「何が書いてあるのか」

「事実しか、書いてませんから。
遊びゴコロ交えて、物語調で書いてあります。あとは」

「あとは?」

「俺が、どれだけあなたのことを、愛しているか」

「神・・・」

彼が俺の首根っこに、抱きついてくる。
その白い指が、手のひらが、肌が、吸いつくように、絡みついてくる。
そしてついばむようなくちづけを、何度もしてきて・・

・・・次第に、それが深くなってくる。


「・・あ、ほらほら。こういうのは、今はだめ」

「えーっ・・・」

「だって、こんなことしてたらいつまでも読めないでしょ」

「あ・・うん」

「後で、ね」

「後でちゃんと、たくさんしてくれる?」

「ええ、もちろん」

そう言って俺は、彼の額に軽くくちづけをする。
これでひとまず打ち止め、と言う意志表示の代わりに。

と・・・そこに、
2人だけの世界に介入してくる、第三者の視線を感じて・・俺はゆっくりと顔を上げた。


「あ、ムラサキ。おいで」

彼が、甘えた口調で呼んだ ”ムラサキ” は、メスのペルシャ猫だ。
彼女は、明らかに藤真さんの方に来たがっているのに、
宝石のようなエメラルドグリーンの瞳で、じーっとこっちを見つめるだけで、一向に動かない。

・・理由は、解りきっている。
俺がいるからだ。彼女は、俺に懐いていない。
それでも、俺は。

「ムラサキ、こっちにおいで」

彼女の名前を、優しく呼んだ。
だが・・・まったく寄って来る気配が無い。
それどころか・・俺に向かって、その長い毛を逆立ててくる。威嚇しているのだ。

「・・・また何でだか、怒られてますね俺」

「もうっっ!・・・うーん・・怒ってるっていうよりは、怖がってんのかな?
・・・なーんでムラサキはいつまで経っても神のこと怖いのかな?」

「それは、俺が聞いてみたいですね」

「おかしいよなー、ムラサキ本当は人懐っこいのに」

「よっぽど俺に何かあるのかな」

「ムラサキぃ、神のこと好きになってよぉ、
だって、俺の好きな神だぞ?おまえも好きだろ?ん?」

そう言って、藤真さんはムラサキを抱きあげて、俺の目の前に・・・
俺はそれを撫でようとするけれど・・・

「!・・・痛・・・」

「あっ!!ムラサキ!!めっ!!」

「・・・引っかかれた」

「やだぁ・・神、大丈夫??」

彼が、俺の引っかかれた手の甲を猫のように舐める。
その唾液が少し沁みるような、痺れるような感覚になって手先から伝わってくる。

「そうとう嫌われてますね、俺」

「もう、ヤんなっちゃう・・・何でだよぉおまえ!!」

「ショック療法で・・・ちょっと、お仕置きしようかな」

「お仕置き!?」

「ムラサキ、悪い事したし。悪い事した子には、お仕置きでしょ」

「えっ・・ヤだよ神・・お願い、許してあげて!お仕置きなら、俺が受けるから!!」

「藤真さん・・・」

「ねっ!?俺がちゃんと、言って聞かせるから」

「・・・わかりました。藤真さんがそんなに言うんなら」

「・・良かったー!」

「でもその代わり。あとで藤真さん、お仕置きだからね」

「良いよ。どれだけでも受けるよ。俺、おまえのお仕置き好きだもん」

「ふふふ、もう、仕方ない人だね・・・でも、その前に日記見るんでしょ?」

「あ、うん!じゃあ・・・見せてもらっちゃおうかな」

「ええ。では、ご開帳といきましょう・・・
・・・記憶の箱の鍵を開けますよ?覚悟は良いですか?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


藤真さん。言った通りでしょう?

ここに書いてあることは、全部真実でしょう?

・・・だって、俺がそうさせたんだものね。

だけど、これは実は

俺がこの、ノートという箱に閉じ込めて、吐き尽くして、

1度は必死で忘れようとした、すべてでもあるんです。




薄れてく世界 巻き戻すmemory

何があるの?そのドアを開けよう

リアルと繋がるリセット




************************


<引用部分(斜め字体部分)>
*Endless Game/嵐

2013.06.12 友引


(お手数ですが、ブラウザでお戻り願います)