「・・なんてこった・・・・・・!」

・・バカか俺は!!

金を持ってくるのを、忘れた・・・・

財布は手にあるのだが・・中身が・・残りわずか。

せっかくまだかろうじてやってる店を、見つけたってのに!

しかも・・・こんなにするんかよ!!

ちくしょ〜!買った事ね〜から、わかるワケね〜!!

今から家戻って・・・さすがに、時間的に無理だ!! 

しかし電車賃と合わせたら・・・げげげげげ〜〜!!!

「うあああああああ〜!!なんてこった〜!!!」 

駅前、道ゆく人たちもびっくりの、俺の叫び声がむなしく響き渡った・・・



 

 freak me out2
おまえがくれた魔法、ずっと積み上げてみせるよ。

 

携帯の着メロは、もうずっと

スーパーカーの 『ストロボライト』 だ。 

だから、あの日あの時、あいつから電話があったときも、

不思議な世界観のあの歌が、部屋に流れ出していた。

俺は数時間前を思い出して・・・余韻に浸っていたんだ。



・・・纏わりつく潮風。照りつける日差し。

その日差しの鋭さや熱さに少しも劣ることの無い、あいつの眩しい眼差し。

それは潮の満ち干きにも負けない、強く猛烈な引力で、

俺の心臓の鼓動を、ひどく早めていた・・・。

 

そんな時だったんだ。

ベットに放り投げておいた携帯が、メロディーを奏でながらブルブル震え出したのは。

・・まったく、人が浸ってるってときに。一体誰だ。

無視してやろうか、と思ったが。

ディスプレイを覗き込んで、驚いた。

そこには数時間前に電話番号を登録したばかりの、 

それこそ帰宅してから今まで、ずっと考えていたやつの名前が、

「清田信長」 の名前が記されていたから。

・・・若干戸惑いながらも、冷静を装って電話に出る。

・・・・・・・・・早速、何の用だろうか・・・・・・・・?

 

「もしもし」

『藤、真さんっっ・・・!』

「・・どうした?息、切れてるぞ」

『今、俺!・・・あなたの家の前に来ています!』

「は?」

 

俺は事態が理解できないまま、2階の東側の、

自分の部屋の緑のカーテンを開け、外を見た。

と、

家の門の外にはまさに今、俺の声が漏れているであろう携帯を耳に当て、

上目使いでこっちを睨んでいる、そいつ「清田信長」の姿があった。


・・・何だよ、何でだよ?

 

「・・・そこで待ってろ」 

胸がバクバクする。

一体全体、何の用だってんだ。

 

俺は鏡で自分の顔を確認した。

ちくしょ、髪の毛、ハネてるけど・・しょうがねえ!

そして、全速力で階段を駆け下りた。

 

  

「藤真さん!」

 

STUSSYの白いTシャツにショート丈のカーゴパンツ、

頭にはキャップという、アメカジスタイルだった数時間前までの彼は、一体どこに行ってしまったのか。

何故か再び俺の前に現われた清田の格好は・・・

パリッとしたカッターシャツに、スーツの上下。紫色の、ネクタイ。

・・あ、でも足元はスニーカーなんだな・・・・それに頭。なんか爆発してるっぽいし。

走ってきたから、か?息も、上がってる。

何か売れない、新米ホストみたい・・・?

一体、この服装の変わりようと鬼気迫る様子は、何事なのか。

「お前・・どうしたって言うんだ。第一どうやって俺の家が解」

「牧さんに聞きました!・・・藤真さんっ!」

「はい?」

「お誕生日、おめでとうございます!」

「!・・・・あ〜・・・・・・・」

「何で、言ってくれなかったんすか!?」

「・・・それも、牧から?」

「偶然みたいな形で、聞きました。あそこで牧さんから電話がなかったら、
俺は藤真さんが今日、誕生日だって知らないまま過ごしてました!
何で、何で言ってくれなかったんすか・・・?」

「え?・・えっと・・・・特に言わなかった理由はなくて。
特別言う必要ないかな、と思ったんだ。

誕生日なんて別に、特別なことじゃないし・・言っても気使わせるかなって」

「あります!」

「え?」

「言う必要、あります!それは言わなきゃダメだ!特別な日なんです今日は!
だって・・・藤真さんが生まれた日でしょう、今日は!?
おめでとうって一言でも、言わしてくれないなんて、ひどいっすよ!」

「・・・・・あ、えーっと・・・ありがとう・・・・
何ていうか・・今まで特別、誰かに祝ってもらったことないんだ。
だから・・・こういうの、照れくさいっていうか・・慣れてないんだけど・・・」


8月15日は、いつだって夏休みの真っ只中で。

小さな頃から友達はみんな、お盆で田舎に帰っていたし。

中学・高校生になってからは、親戚の家や旅行に出かけるという名目で、部活のある俺は両親にさえ置いていかれるようになった。

だからそれに慣れっこで、何とも思わなくなっていた。

むしろ男の誕生日なんて、そんなもんだと。当たり前のように思ってた。


だから、と言うわけではないが。

そんな、特別な日だと思ったことはなかった。意識していなかった。

・・・でも。 

今日は初めて、意識して言わなかったかもしれない。

こいつに気を使わせるのが嫌だった。

まして、言っても気にかけてもらえなかったりしたら、

どうしようもなく自分が哀れだと、惨めだと。耐えられないと。

そう・・・思ったから。

 

でも、気にかけるどころか、

こいつは今、それだけのために家まで追いかけてきて。

誕生日であることを告げなかった俺を、

批難や悲しみを含んだ眼差しで、見つめ返して。


・・・にしたってさ。

電話じゃ、メールじゃダメだったのかよ?

約束もしていないけど、今度会う時じゃ遅かったのかよ?

どうしても直接、今日中に俺に言いたかったのかよ?

お前にとって俺の誕生日はそんなに・・・・

そんなに重要だったのかよ?

 

半分怒ったような顔をしながら、俺におめでとうと言う彼。

そんな 『おめでとう』 だけど、俺には
今までの様々な節目で、誰に言われた祝いの言葉よりも嬉しかった。

「ごめんな・・・黙ってて」 

「・・・・もういいっすよ・・・・もう・・それよか・・・その・・・」

何かこれ、すごく照れる・・・・んだけど。

ちらり、と見やると、何故か清田までもが照れていた。

いや照れるというか・・・?・・照れるという表現は、合っているのだろうか?

顔を赤くさせて・・・ずっと後ろに隠してる左手を、体をもじもじさせている。

 

「清田、どうした?」

「あの・・・藤真さん・・その・・ですね?」

「何?」

「・・・えーいままよ!!お誕生日おめでとうございます!
藤真さん・・これっ・・・・これ、受け取ってくださいっっ!」
 

体が折れ曲がるくらいの、90度以上のお辞儀をしながら、

清田が俺に左手を差し出す・・・

・・・その手に握られていたのは、一輪の赤いバラ。

                                                                 
   

 

「これ・・・!」

「・・あのっ、ここここ、こんなんで申し訳ないっすけど・・・
ほんとは今日の海岸歩いてた謎の男の人みたく、抱えきれないくらいの花束にするつもりだったんすけど・・

諸事情が多々ありまして・・・今日は!今回は一輪ですけど・・!よろしければ・・これを!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・あのっ?ふ、藤真さんっ!?」

 

こいつには。 

清田には、驚いた。

やっと解せた、お前のその格好の理由。

今日の海岸、堤防前の一本道を歩いて行った、あの人意識だろ?

20代半ばくらいの、好青年って感じの人の。韓流映画に出てくる俳優みたいな。

あの人の格好は最近よく見かけるの クールビズ で。

何故か抱えていた、大きな大きな赤いバラの花束。

俺が『貰って、困ってみたい気がする』 、なんて言ったのは、

その場のノリでなんとなく言ってみた、冗談以外の何者でもなかったんだぜ??

なのに、なのに素直なおまえは、 

俺が、本当に欲しがってると思って・・・・ 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

バカ。

困るよ。

男が男から、花貰うなんて。

こんなん貰っちまって俺、

お前から、貰っちまって俺、

すっげ嬉しすぎて、すっげ照れて、全然顔上げらんなくて、困るよ・・・。
 

・・だいたい、俺はプレゼント、すでにおまえから貰ってるんだぜ?

あ・・・お前から、って言うより、お前の先輩から、って言う方が、正確かもしれないけど?




そう、あれは3日前。

「もしもし」

『俺だ藤真、今いいか』

「めずらしいじゃん電話してくるなんて。何?」

 『8月15日、暇か』 

「は?」

『うちはオフだ。暇なのか?お前、誕生日だろう?』

「唐突なやつめ・・・しかし俺の誕生日なんてよく覚えてたな。実はお前、俺の隠れファンとか?」

『あんまり余分なこと言うと、プレゼントはなしだぞ。暇なのか、暇じゃないのか?』

「うそっ・・悲しいかな、めちゃくちゃ暇してんぜその日は。で?なんかくれんの??牧さ〜〜ん」

『・・・聞いて驚くな』

「何だよ、気味悪っ・・・やっぱいらないかも」

『まあそう言うな。今のお前が喜びそうな事、考えたんだぜ』

 

・・・しかし、考えても見ろ。

たった1度の練習試合と、数回近くで試合を観戦しただけの、まともに会話もしたことのない仲。

自分でも激しく不確かだったこのデタラメな感情に、

あの鈍感帝王が、気づけるはずなどない。 

だからきっと、いや十中八九・・・あいつの差し金に違いない。

あの参謀め。

いつものほほん笑顔で、何考えてるかわかったもんじゃない。

くそ・・海南の次期キャプテンはマジで曲者なおせっかい野郎だぜ。
伊藤によく言って聞かせなきゃ。



でも、

何にせよさ。

俺はやっぱり、お前からすでにプレゼントを貰ってんだよ。

今までで最高の誕生日』 っていう、プレゼントをさ。

 
 

「藤真さん?・・・やっぱこんな・・こんな一輪じゃ・・・?」

赤いバラを、差し出したままの清田。

慣れてたまるかってくらいスペシャルなシチュエーションに、放心したままのオレ。

・・・・・・・俺たちはお互い下を向いたまま、しばらくの間、固まっていた。

 

 

ド・・ン・・・・・・・・・・・・・

 

 

その音と、南の空の眩さに、2人して顔を上げる。 

ああ、そうか。

今日は海辺の、花火大会の日だったか。

・・ああ、どうしようもない。何、この絵に描いたような最高のシチュエーション。

今年の俺の誕生日は、本当に、これ以上どうしようもなく幸せだ。

 

「キレイだー・・・・・・」

 

小さな子どものように、呟く清田。

彼の顔に影と光を落とす、真夏の夜に咲く、紫と緑の大輪の花。

俺は、今までこんなに綺麗な花火を見たことがない。

こんなに胸が締め付けられたことがない。

こんなに初めてだらけ。幸せな初めてばかり。

でも神様。

今日は誕生日だから、特別な日って事でいいんでしょうか?

もっと欲張っても、いいんでしょうか??

 

・・・俺は、彼に近寄る。

彼の左手に大事に握られた、赤い一輪のバラの花に。

そして、笑顔で。

精一杯、できるだけの笑顔で。

「ありがとう」

そう言って。

何故か少し焦った様子の清田からバラを受け取ったとき。

受け取るときに、互いの左手と左手が、ほんの一瞬だけど触れたとき。

互いの視線が、交差したとき。

・・・真夏の熱帯夜より熱い、この想い。

胸の奥の深い部分を掴まれた、この感じ。

見つめ合ったときのその心、おまえに解るかな?

  

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

”神さんと牧さんにお礼言っといてくれ” って?
だ〜か〜ら、一体何のお礼なんすか藤真さん・・教えてくれたっていいのにっっ」

ここにいない彼を思い浮かべて、呟く。

いつも、思い浮かべてる。

そう、彼の誕生日の、次の日から。


俺はあれから、藤真さんのことばかり考えていた。

瞼を閉じれば、あの日の藤真さんの、笑顔ばかりが浮かんできて。

受け取るときに、お互いの左手と左手が、一瞬だけど触れたとき。

お互いの視線が、交差したとき。

・・・真夏の熱帯夜より熱い、この想い。

胸の奥の深い部分を掴まれた、この感じ。

見つめ合ったときのその心

・・・あれは一体何なんすかね?

ねぇ、この感じ、あなたにも、わかるかな??

 

・・・そして、だいぶ後で知った事がある。

何故か、神さんが教えてくれたことなのだが。

赤いバラの花言葉。それは、

・・・『愛。熱烈な、恋』

 




*************************************************



2014.10.22 先勝 改訂
(お手数ですが、ブラウザでお戻り願います)