『ああ、毎朝5時には起きてるな。朝、めちゃくちゃ苦手で死にそうだけど』

「5時、めちゃくちゃ早いっすね!俺は6時45分っす」

『それって朝練に間に合うのか?』

「起きて5分で支度して出発っすよ☆」

『おまえー、ちゃんと飯食って歯ぁ磨いてるか?顔洗ってるか??』

 
・・・
藤真さん!もっともっとあなた美声、俺の鼓膜に届けてプリーズ!!

あああ、良かったぁぁ・・勇気出して電話して・・・・・!

 

 

 

21:00過ぎ。

俺は藤真さんに、電話した。

藤真さんが9時からのドラマ観てる人だったら邪魔しちゃう、どうしよう! とか、

メールは大丈夫でも、電話が苦手、嫌いな人だったらどうしよう!

・・・とか、30分前くらいから散々考えてたんだけど。


実は小心者の俺。

色々考えちまうくせに、すぐにいっぱい×2になる俺。

考えてると、もっと答えがわかんなくなってくるんだよな。

・・・って、藤真さんのこととなると、ことさら弱気になっちまうんだが・・

しかし、今こそ、このタイミングで電話するべきだ!・・と閃いたんだ!

俺の野性的カン、判断に間違いはねえ!!・・・ってな。

 

「もっもももももももしもしっ!!」

「もしもし?おお、どうした??」

「ふっ・・・ふふふふふふ 藤真 っっしゃん!
今、おおおおおおおおお時間拝借してよろしいでしょうけっ!!」

「?大丈夫だけど」

コール〜話し始めて数分は・・・情けねえ。

この前藤真さんと一緒に観に行った映画の主人公、

『電車男』 がヒロインに電話するときみたく声が震えてワケわかんねーことばっか口走っちまった・・・俺としたことが。

 

でも、たわいのないことだけど、俺の一方的な質問攻めだけど、話てるうちに心臓、大丈夫になってきた。

・・・見よ!この柔軟性!適応能力!!

俺は間違ってはいなかった!

あの藤真さん相手でも、俺はちゃんと会話できてるぞ!!

藤真さんを、こうやって笑わすことができてるぞ!!

 

・・・でもっすねえ・・・・なんでかなあ・・もう!!

もう、ほんっとどきどきどきどきするんすけど!あなたとしゃべってると!

なんか、その声で全身が麻痺して頭にお花畑が広がってくる・・・・・・みたいな。

・・・なんでかなぁ。

って・・ん??

今んとこよく聞いてなかったけど??
 

 

「藤真さん!今!・・・・・なんて??」

「?だから、毎朝一緒に走ってる」

「どなた様と!!??」

「名前はマサキって言うんだ、そいつ」

「マ・・・マサキ!男!?女!!??」

「ひとり息子だ。老夫婦のな」

「息子っ!?」

「もう14歳で結構な年なんだけど・・こいつが可愛いやつで。
人見知り激しいんだけど、俺のことは好きになってくれたみたいで。
俺が行くとすぐ飛び掛ってきてさ。舐めまわされるんだ、唾液だらけになっちまう」

「・・・・・・・・・・・・・・・・!」

しょっ・・・・・・・・しょしょしょしょしょ・・・・


 

・・・・衝撃――――のひと言、だった。

 

藤真さんから恋?の相談されてしまった・・・

つーかこんなんすでに相談でもなんでもねえ!

事後ならぬ事中報告だ!!ただの・・・ただのノロケじゃねえかっ!!!

 

『マサキ』 と毎朝一緒に・・・・

男・・・しかも14歳・・中坊――!?

藤真さんにとっちゃそれで年!!??この人、ホモでショタコン!?

・・なんとオープンな!!

なんでそんなマニアックなこと、恥ずかしげもなく俺にバラしてんすか!!


さらには 『俺のことは好きになってくれたみたい』 ・・・ノロケかよ―――!!!!!!

しかも 『飛び掛ってくる』 !? 『舐めまわされる』 !!?? 『唾液だらけ』 に----!!

藤真さん、どこの誰かもわかんねえ馬の骨と、朝からそんな濃厚なプレイを----――!!!! 

もう俺は、その事しか考えられなくなっていた。

・・・藤真さんに  急にしょぼくれて、大丈夫か?  みたいなことを言われた気がする。

で、もう今日は寝ろって言われて・・・・・電話切ったんだけど・・・

・・・誰のせいだと思ってるんですか?

大丈夫なわけ、ないじゃないすか・・・・・





次の日の部活、俺は心ここにあらずだった。

トイレで一緒になった武藤さんにも、静かすぎると不気味がられる有様。

「どうした?何か悩みか?俺で良ければ相談にのるぞ」

「武藤さん・・・!」

無意味に優しくしないでください。

泣いちゃいますから、俺。


・・・俺がそれでも返事をせずに黙りこくっていると

「ああ、すまん。言葉じゃなくてそっとしといて欲しい時も、あるよな」って・・・!

「うわああああああああああああん!武藤さん!!」

「うわっ!?急に何だお前は!?とりあえずモノを締まって、手を洗え!!」
 



もちろん、練習の出来は散々だった。

ロッカーで肩を落とした俺に、牧さんが声をかけてきた。

「清田!何だったんだ今日の散漫な動きは!」

「すんません・・・返す言葉もありません・・・」

「ん?なんだお前目の下クマ出来てないか?もしかして、寝てないのか?」

「だって・・・マサキが・・・」

「まさき?・・・ああ、マサキのことか」

「!!牧さん知ってるんですか!?」

「ああ、1度見かけたことがある。藤真も、好きだよな」

「どどどど、どんなやつでした!?カッコいいんですか!?」

「カッコいい?・・・いや、あれは可愛い顔だ。
カッコいいはキツネ顔だろ、マサキは正真正銘のタヌキ顔でな」

「はっ!?タヌキ!?それって可愛いんすか!?
可愛いって、男としてどうなんすか!?」

「清田お前、何怒ってんだ?」


「そりゃ怒るでしょ!?牧さんは・・・牧さんは誰の見方なんすか!?

 だいたい・・・どういう関係なんすかそのマサキってやつと藤真さん!!」

「は?」

「つきあってるんすかやっぱり!!」

「お前ー、大丈夫か?練習中に頭ぶつけたか?」

「大丈夫って何がすか!?・・・牧さんまで俺をバカにして!!
俺はバリバリ大丈夫すよ!!
大丈夫じゃないとすればマサキのせいっすよ!!」

「お前もマサキにご対面に行くのか?」

「会いたくねえっすよそんなやつ!!」

「おお初耳だ、おまえが犬嫌いだったとは」

「・・犬!?誰がそんな話を。家は犬、ラブラドール3匹も飼ってますよ無駄にでけーけどすっげ可愛いっすよ」

「じゃあなんでマサキは駄目なんだ」

「ハイ!?」

「柴犬は、苦手か」

 

・・・あれ?ちょっと待ってくださいね。

思い出してみると。おとといの藤真さんとの電話。

『もう14歳で結構な年なんだけど・・こいつが可愛いやつで。
人見知り激しいんだけど、俺のことは好きになってくれたみたいで。
俺が行くとすぐ飛び掛ってきてさ。舐めまわされるんだ、唾液だらけになっちまう』

それに牧さんのさっきのセリフ。

 

キツネ顔・・・・タヌキ顔・・・・・

柴犬!!!

 

い、いいいいいいいいいいいいいいいいいいい

・・・・・犬―――――――――――――――――!!マサキが犬------!!??

 

俺はいつもよりさらにぐちゃぐちゃのカバンの中から、必死の思いで携帯電話を引きずり出した。

それはもう折りたたみじゃないはずの俺の携帯が、折りたたまれそうになるくらいの力で。

・・・画面には、新着メールが届いてるサイン。

震える指で必死にボタンを押して、見やる・・・・

ふふふふふっふふふっふ藤真さんからだ!

まさに今俺が連絡しようとしてた!!

『練習お疲れ。昨夜電話で、元気なかったみたいだったけど大丈夫か?』 

『大丈夫か?』 『大丈夫か?』 『大丈夫か?』・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・大丈夫っすよ!藤真さん・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!

 
 

「清田?どうした?」 

「俺・・・・・・・俺・・・・・っ」

「ん?どうしたのノブ?」

「俺、ちょっと・・・・牧さん神さん!お疲れっした〜っ!!!」

「・・おい清田!?」

「さっきまで涙目で固まってたと思ったら・・・
今度はすっごいスピードでいなくなったものですね」

「一体何なんだあいつは・・」

「まあ、大方何があったか、予想はつくけど」

「は?」

「いえいえ、それよりノブのやつロッカー開けっ放しで帰っちゃって。
・・・・・あっ!!牧さんこれ・・・」

「どうした?・・・なっ!!」

「何てことだノブ・・!どうしたらこんな事態に」

神さんと牧さんの覗き込んだ清田君のロッカーには、
無惨に落下したままのチェックのトランクスが1枚。

「あいつ・・・清田、もしかするとノーパンで出て行ったのか・・! 

 

この日、伝統ある海南大附属高校バスケ部の静粛なはずの部室に、
厳格な口調でトンでもない事を発した、牧さんの野太い声が響き渡った、とかなんとか。

また、神さんが何を根拠に 『何があったか予想がつく』 とのたまったのか、謎は深まるばかりでした・・・・・・とさ☆

   

・・・・・はやる胸のどきどきを必死に押さえて押す、携帯のボタン。

7回目のコールで電話に出たあなた。

 

「・・はい、もしもし」

「あっ藤真さん!練習は」

「さっき終わったよ。おまえもか?」

「はい!今、ちょっと話しても大丈夫っすか?」

「ああ、いいよ」

「さっき、メール見たんすけど!
俺、めちゃくちゃ元気っすから!バリバリ大丈夫っすから!!」

「・・今、声聞いて納得。安心したぜ」

「ああ〜!!」

 

・・・・『安心したぜ』 『安心したぜ』 『安心したぜ』 ・・・・・・・・・だって!!!!

ってことは! 心配してた 、ってことっすよね!俺のために藤真さんが!!!!

 

「清田?」

「あわわわすんません!練習、お疲れさまです!
ところで藤真さん、犬好きなんっすよね?うちも実は3匹もラブラドール飼ってて」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

穴があったら入りたくなるくらいの最大級の勘違いに、

顔から火が出るような恥ずかしい行動。

そんないっぱいの忘れたいこと、いつかは思い出になるんすよね?

・・そう思って、今は、恥はかき捨てと思って、

誰よりも、早くしなくちゃ!

パンツ履き忘れてズボンを履いても、トイレの水を流さないままでも。

俺は走り出す。

もしつまづいて転んでも、この傷が勲章。
 

すべては、あの人のせい。

あの人は、俺の青春。

・・・・・・・すべては青春の日々。


2014.10.27 赤口 改訂
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