あの日。

俺はラクガキをしてた。

俯いて、砂浜に、左手の人差し指で。

お前といられる、最後の時っていうのに、

お前が似合わないキザなセリフ吐いてるから、笑ってやる絶好のチャンスっていうのに、

それでも俺はラクガキをやめることが出来なかった。

・・・だって
お前の顔を見ていると、何故だか視界が揺らぐから。

その焦点を、何とか合わせるために、保つために・・・続けたんだ。


+moon+supernova+sea−coolbiz
+(loop×loop)−ocean avnue+yumegiwa
-pink triangel+anohinokimochi+rose−a cross grained person-today
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・+愛+10愛+100愛+1000愛=

 

・・・ああ、せっかくここまで書けたのに・・・肝心の答えがわからない。

= 、 何だろうか? 


なぁ、清田。
おまえなら、この式どう解く?
・・・疑問を含んだ視線を、投げかける。

お前はそれには答えなかった。

ただ「藤真さん」 って一声呼びかけて、正面から捕らえて見つめ返してきた。


目が合って、意外だった。

近くで見るおまえは、意外だった。

もともと俺の好きな顔を、声質をしているお前。

でも、

最初に出会った頃は、ここまでではなかった。

ここまで、鼓膜に残る声で、心臓を揺する声ではなかったはずで。


見かけもこんなに・・・大人びていなかった。

お前は少年で、男性ではなかったはずだ。

そしてこんなに、ここまで・・・・・俺はお前を、好きではなかった・・・・・・・・

 


・・・おまえのくちびるが、だんだん近づいてきて。


触れ合うまでの一瞬、

まぶたを閉じる瞬間、


彼の意外に広かった背中越しに少し見えた、青白い月に、

ようやく想いが通じた と思った。                                              

 

潮が満ちる。それに作用する、月の引力。

今の一瞬でいいから月になりたい と、そう思っていた。

彼を引きつける引力。月の力が欲しい、と。

そんな一瞬の魔法が、叶ったのだ。

・・・でも、すぐに2人の間を、

強くて冷たい風が、吹き抜けた。

鼻先をくすぐる、冷たい潮の香り。

霧みたいに、舞い上がった細かい砂。

夢際から引き戻され、

離れるくちびる。

離れる、心?

 
 

・・・ああ、何でだろう。 

魔法が、解けたからなのか?

それとも、

鼻腔に練り付いた潮の香りの・・舞い上がった砂のせいか? 

いつになく逞しく映ってたはずのお前が、 

何故だか・・・いつも以上に、ひどく頼りなく、揺らいで見える・・・・・・・


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俺は春から、故郷を離れている。

育った街に、大事なものを置いてきている。

俺の大事な 「そいつ」 は、子どもっぽくて頼りなくて、ひどく寂しがり屋で。

俺が出発するというその日にもそいつは、あの海辺で。

泣きそうな顔を一生懸命笑う形に治して、

顔面神経質みたくつっぱった、ヘンテコな表情で俺を送り出した。

そいつは最後に、俺に向かって偉そうにこう言った。



「・・・離れていても、あなたが俺を必要とするとき、

いつでも心は飛んで行きますから。俺はあなたを救う、明日の羽になる」


・・・何なんだそれは。
何たら戦隊、愛の戦士何たらマンの決め台詞かなんかか。

そんなキザな台詞を、そいつらしくない台詞を、そいつ流に言い放って。


俺は最後までこいつは何言ってんだか、って思って、

今までうつむいて砂浜にラクガキしてたの、やめにして、

空を見上げて、押さえ切れなかった溜息を、ひとつ小さく吐き出した。

・・・見上げた夜空には眩しく輝く超新星と、満月からの、青白い月明かり。

あまりに見慣れない明るさと綺麗さに、オレの視界は微妙に揺らいだ。




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あれから、4ヶ月。


俺は時々、 「そいつ」 を思い出したように夢に見る。

まったくヘンテコでメルヘンチックこの上ない夢だ。

・・・そいつの背中に羽が生えて、故郷の街から、今俺の住んでる街まで飛んでくる。

そんな夢で。




そんな夢から目覚めたある日の朝に。

・・・俺は、やっと気づいた。

思い出の中で、夢の中で、頼りなかったはずのそいつは、実は全然揺らいでなくて。

気づいたよやっと。

お前が、頼りなかったからじゃないって。

あの時。別れの最後の時。

お前がひどく揺らいで見えてたのは、頼りなかったからでも、
見上げた夜空の超新星や満月が、
あまりに見慣れない明るさだったから目が眩んで・・・って事でもなく。

あの時。そう見えた原因は、ただ俺だった。

お前がひどく揺らいで見えてたのは・・・

・・・それは俺の・・・俺の涙のせいだったんだ、って。

 

 

・・・こちらに来て、俺を取り巻く世界は変わった。

そんなに悪くない。バスケに、選手として全力で打ち込める。

他のやつには当たり前でも、俺には高校では考えられなかった贅沢な事だから


学校の講義も、ちゃんと出てる。 

1限の講義は、低血圧で朝が弱いオレには辛いけど、

それでも、なんとか毎回出席できている。 


・・・1年のうちは寮に入るやつが多い。特にバスケ部、運動部の連中は。食事も面倒みてくれて、安くて便利だからな。 

でも、その中で、

俺は学校から1時間半もかかる、ここに住み着いた。

低血圧の俺が、わざわざ朝早く起きなくてはいけなくて、

私学で理系で一人暮らしという親の懐泣かせの条件、全部集めといて、 

さらに通学費がかかるここに住んだ、その理由は。

・・・ここは、海が見えるから。

海を見ていると、安心する。

海を見ていると・・・・・・思い出す。

 

別れから、4ヶ月。

取り巻く世界は変わっても、俺だけあの時のまま。

俺はあの時のあの海辺に、取り残されたままなんだ。

あの海辺は変わることがないとしても、

あの時隣にいたはずのおまえは、もういない。いなくなったんだ。そう思っていた。 

 

お前と過ごした、18の誕生日から、

なんちゃってホストにキメて、赤いバラの花、1本だけ差し出した、

海辺の花火が、今まで生きてきた中で一番綺麗に上がった、あの日から、

ちょうど、1年の今日。

2006年8月15日。俺は、19歳になった。

そして・・・19歳本日現在、俺の腕の中には、抱えきれないくらいの赤いバラの花束・・・。




   

むせ返るバラの香りで、何故か蘇る故郷の潮の匂い。

目の前に広がるあの時のあの海辺に、俺のヘタクソなラクガキに、

隣にはお前が・・・何故いない。

俺のために、飛んでくるって、そう言ったのに。

それが、今なのに。何で来ない。

こんな抱えきれないくらいの赤いバラ飛ばしといて、

何故お前自身は、飛んでこない。

お前のせいで、また視界が揺らいできただろうが。

俺が本当に欲しがったものは、これじゃないのに。 

俺の本当の願い事。

たとえ1日でもかまわないから、 

俺が眠るまで・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 


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「藤真さん・・・」 

・・・いつの間にか、眠ってしまっていた。

でも、

今のはすべてが夢じゃない。

夢から醒めて。でも、

夢に見てたことは、今まであったこと。

そう、すべてがまるで、

夢際のように綺麗すぎた、どこか現実味を欠いた出来事だったけど。

でも、

俺は、確かにそこにいて。

今思い出す、今までのすべて。

・・・そして彼が、俺を呼んでいた。飛んできて、くれって。確かに。

 

「・・・・・!」 

完璧オフの2006年、8月15日。

取る物も取らずに飛び出す自宅。

・・・あ、おっと!財布だけは持って!1年前みたくなるのはマズい。

腕に巻きつける時間が惜しくて、カバンに押し込めたデジタルウォッチが示すのはPM16:58。

あ、待って。やっぱり、きちんと正装したい。

だって・・・まだ、間に合う。

 

・・・ようやく真夏の日が、傾き始める頃。

 『?』 顔のあなたに、赤いバラが届く頃。今度こそ抱えきれないほどの、綺麗なバラが。
 

・・・あなたと最後に別れた、あの海辺を思い出す。

あの時、俺は泣き出しそうになるの堪えて、一生懸命笑う形にしてたつもりだったけど、

でも実際は顔面神経質みたくつぱった、相当ヘンテコな顔、してたと思う・・・

あなたにはどう、見えてましたか?聞きたいような、聞きたくないような・・・恥ずいぜ・・・

・・!ねえ俺あの時、あなたに向かってこう言ったの、覚えてくれてます?



「離れていても、あなたが俺を必要とするとき、
いつでも心は飛んで行きますから。俺はあなたを救う、明日の羽になる」


・・・何だったんすかねあの強がり方。自分でも、意味わかんなかったっすよ・・・


でも。


今なら俺、強がりも、真実に変えられます。

俺ね、結局翼は持てなかった。ウソついて、すんません・・・・・

でも、翼は必要ないってことに気付いたんです。

飛べなくても、飛ぶのより早く走り抜ける、足があれば。

そして、

あるがままに、素直な気持ちで、あなたに想いを馳せます。

それしかできなくても・・・あなただけを想って、想い、飛ばし続けます。


この想いのおかげで、どれだけ俺は強くなれたんだろう。

強さをくれたあなたに・・・あなたにとって俺も、そういう存在になれますように。

・・・そうなりますように、真実貫きます、ずっと。


「あなたが俺を大人に・・・強い人間に、してくれたんすよ」


 

1年前よりも少し短くした髪を、整えて。

ユナイテッドアローズの、スーツに腕を通す。

暑いし、堅苦しい・・・けど、ちょっと大人の気分。


・・・そして、飛び乗った、南方面へ向かう電車。

ガラガラの電車の窓際に座って、
MP3プレーヤーで、アジカンの 『君の街まで』 を再生しながら目を閉じる。

あの頃も。

この歌が、堤防沿いに止まってる車のオーディオから流れてて。

でも、当時はタイトルも、誰の歌かも知らなくて。

藤真さんに 何て歌? って尋ねられても、答えられなくて。なんか、悔しくて。

・・でも、今度尋ねられたら、ちゃんと答えれますよ。

この歌はね、藤真さん。

「”あなたの街まで、想い飛ばすための歌” ですよ」 ってね。

  



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2014.10.14 大安 改訂
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