火曜日のAM08:15。
神奈川の主要駅であり複数の鉄道がある、最寄りK駅からK電産本社までの通勤路。
今日も人の波でごった返していた。
K電産はグループ連結で従業員10万人以上、
本社内だけでも何万人という人間が働く大企業だ。
本社まで歩いて10分。この毎朝の混雑は、
周辺住民の苦情もありながらも今日も相変わらず催される。
フレックスタイムを導入して社員の通勤・帰宅時間が散らばる様に工夫はされているが、
もともと大人数なのである程度の混雑緩和にしかなっていない。
この毎朝の人の群れを ガス室送り と揶揄して呼ぶ同僚もいるくらい。
しかも今日は雨が今にも降って来そうなくもりの天気。一段と混沌としている。
しかし当たり前のことだが、同じ景色を見てもどんな人間のフィルターを通るかで
感じ方は変わる。
人物が変われば、同じものを見ても感じ方が違う。
桜を見て、Aさんは綺麗だと無邪気に喜び、心を高揚させる。
だが、Bさんは間もなく散りゆく時を思い、物悲しくなり、落ち込む。
もっと言えば、同じAさんであっても失恋した直後と両想いになった直後では
同じ光景を見ても感じ方がだいぶ違うだろう。
・・そういう、周りの人間の力が及ばないことは自分で何とかしてもらうしかない。
そういう不可抗力は、置いといて。
陰鬱な風景の改善の余地のある問題点は、色彩にあるのではないかと神は考える。
この通勤路には、色がなさすぎる。
不景気に寂れた駅前の飲み屋。
夜になっても、節電で最低限しか灯らない街灯。
ビジネスマンたちの定型的なスーツやコート。靴や鞄。
身につけているものはほとんどが黒、グレー、白といった無彩色。
有彩色であったとしても、茶色や濃紺といった、ダークトーン。
そんな調子で色相とも彩度ともほぼ無縁、明度も低めの灰色の世界で埋め尽くされており、
季節が限りなく冬に近づいたこの頃、その傾向はさらに強まってきている。
女子は、ドレスコードがほとんどない、理想的な会社なのに。
それでも皆、こぞって無難にダーク色を選択する。
それが本来の色の好みである人ももちろんいるだろうが、
彼女たちの多くがそうするのは、その方が周りから浮かないで済むからだ。
このような巨大な組織の中では、皆、それが例え良い方面であったとしても
目立つこと自体を悪目立ち、と取る傾向にある。単に目立ちたくないのだ。
みんな凡庸。みんな同じ気質。性質。色。
例え初めはそうでなかったとしても、月日が経つにつれて確実に一色に染まって行く。
染まっていかなければ、生き残っていけない。排除される。
K電産のように革新や斬新さを謳っている世界的企業も、
働いている社員たちがまだまだこういった古い体制なのだから、滑稽である。
・・気温がぐっと下がったことに一斉に葉を落とし始めた銀杏だけが、
暖かみのある黄色を道端に惜しみなく振りまいていた。
――――と。
見慣れた通勤ルートに、見慣れない人を発見する。
彼は神の少し前を、行儀よく、割と大股で歩いている。小さな栗色の頭。
後ろ姿でも、稀なことでも、この人を見間違えることはない。
あの人こそ、奇抜な格好や行動をするでもないのに、
例え本人が望まずともどこにいても何をしていても目立ってしまう人物の筆頭だろう。
早歩きして、2、3人抜かして、左に並んだ。
「おはようございます」
「・・あ、神」
ヘッドホンを取りながら見上げてきた彼、
藤真の疲れた様子に神は少し目を大きく見開いた。
「朝会うなんて、珍しいな」
「ごめんなさい、音楽聞いてたんですね。邪魔しちゃって」
「ああ、いいんだ。これ、英語だよ。TOEICのリスニング対策。相変わらず苦手でさ」
俺たちには昇格の条件として、TOEIC○点以上がついて回っている。
(役職によって○点のボーダーは変わる)
「俺も英語、苦戦してます」
「神の辞書に苦戦、なんて言葉あるのか?」
「結構大きく載ってますよ」
「どの口が言うんだか」
「そう言ってもらえて嬉しいけど、藤真さんは俺を過大評価しすぎですよ。ところで」
「どうした?」
「目の下にクマが」
「ああ・・・ちぇっ、やっぱ目立つか?」
「寝てないんです?」
「最近、あんまし。全社発表と、担当製品の納期に追われてて」
「うわー、ダブルパンチだ。大丈夫?」
「佳境だから仕方ない。今週乗り越えれば随分落ち着くはずだ。
実は昨日・・というか、数時間前まで会社にいたんだ」
「え?どういうこと?」
「朝5時まで仕事してて、始発で帰って風呂入って、
で今、もう1回出社してきたってワケ」
「うわぁ・・!何ですソレ。エグいなぁ」
「エグいだろ」
「毎日そんな感じなんですか!?」
「まさか。毎日だったら死んじまうだろ。きのうはたまたま。
いつもは、終電で帰れてる」
「それでも終電なんだ・・・」
俺の配属先のデザイン部も納期前は夜中までかかったりで『不夜城』なんて呼ばれているが
彼が担当しているエンジンも、例外ではないようで。
「でも、この生活ももう終わる。今週金曜日に発表だからな」
「全社発表ですよね?イントラの掲示板で藤真さんの名前見ました」
「極力、宣伝しないでほしいのに」
「何言ってるんです。すごいですよね。他の発表者、みんな各部署の課長以上なのに。
主任で発表するの、藤真さんだけですよ」
「な。すげー暴挙だよな。勝負を投げたか?エンジン生技部」
「勝負をかけたんでしょ」
「どうだか。俺、昔からこういう面倒なの押し付けられる星周りなんだよ」
「監督、とか?」
「まーな。なんか懐かしいなその響き」
「金曜日、見に行きます。応援してます」
「来んなよ」
やっぱり藤真さんはすごい。
何をやらせても目立つ。周りから、目立たせられてしまう。前線に出されてしまう。
全社発表は優秀な人しか発表者に選ばれない。しかも、各部署ひとり。
それだけ、彼が優秀で将来期待されているってことだ。まだ入社4年目なのに。
その『期待の若者』を神はまじまじと見る。
俺より随分下にある様に感じる彼の頭。
――目の下にクマできてても、造作はほとんど高校時代と変わってないもんな。
俺に言われたくないだろうが、相変わらずの童顔で。
高校で外見の成長が止まってしまっているようだ。
幾分か伸びた髪の毛が、逆に学生時代より幼い印象を醸し出しているくらい。
切りに行く時間がないのかもしれない。
少し斜め分けにしている前髪が目に入りそうだ。
風に煽られて、賢そうな額と、いつかのバスケの名残のこめかみの傷が露わになった。
陶器のように白い、それでいて温かそうな、滑らかな肌。
今は伏せられた瞳は、女子の間で流行っているらしい黒目コンタクトがいらないくらい、
大きな瞳で埋まっている。瞳の色は日本人離れした鳶色。
薄い唇は、見つめたものが後ずさりしそうになるほど赤くて。濡れているようで。
・・あ、今、彩度が、明度が、色相が。
色彩が、戻って来た。
今朝も陰鬱だったはずのこの世界に。
彼だけに。
・・そうやって見入っていたら視線を感じたのか、
藤真が神の方を見上げるように振り向いた。
瞬間、強い風が吹いて、藤真のベージュのトレンチコートの裾が
神の思考を引き戻すように、まるで不埒なことを責めるように派手にはためいた。
そして、道端に落葉していたイチョウの山吹色の葉が、
まるで2人の足元に纏わりつくように舞い上がる。
・・神は思わず顔を赤らんだ気がして、鼻をこするふりをして口元を手で覆った。
「・・今日は随分冷えるな」
そう言いながら、ネイビーブルーのアニアリのレザーバッグから、
黒のレザーの手袋を取り出し、装着する。
彼は、レザーが好きなのか。良く似合っている。
さらに吹き付ける風に顔をしかめて、コートの襟を立てた。
――その彼のちらりと覗くカッターシャツの襟もとに、赤色の結び目がチラつく。
「あ。藤真さん、その赤いネクタイ、もしかしてあの時の」
「そう。グアムの時の。お前に選んでもらったやつだよ」
思えば、あれからもう2カ月も経った。
前年度で優秀な成績を上げた社員たちは社長賞と評され、
社長と海外旅行に行くのが恒例となっている。
それが、今回はグアムだった。それに、神も藤真も選ばれた。
牧・清田・花形・伊藤も選ばれており、
全員で50人を超えていたから結構な大所帯だったが。
3泊4日のグアムでは藤真とはほぼ別行動だったが、
グアムで観光と言ったら、行くところは皆大抵同じで。
牧と清田と行動を共にして、免税店を覗きに行ったら
藤真が、花形と伊藤と来ていた。
「ブランド物のネクタイ、1本くらい持ってても良いかなって思って」
と言いながらもさほど関心ないようにネクタイの群れを眺めてる藤真に神が助言した。
『じゃあ、赤なんてどうです?』
『赤?赤は、ないだろ』
『湘北レッドは嫌?』
『あっ、湘北・・ってそうだっけ?それは確かに嫌だ。今さら古傷えぐるなよ』
『ははっ、すみません』
『でも、赤色は別に湘北のために存在してるわけじゃないだろ』
『もちろん、その通りです』
『単に、俺が赤ってイメージじゃないから嫌なんだ。服でも小物でも、1つも持ってない』
『そんなことありませんよ。藤真さん色白だから、絶対赤色似合います』
『そうかぁ?・・・ほら、似合わないだろ』
そう言って、赤いネクタイを自分の首元に合わせる。
『似合ってますよ』
『そうかぁ?』
『基本、何でも似合う人だろうからそれでも良いです』
『そりゃどうも。神に褒められるなんて、光栄だな』
『でも、赤でも色々あるから。これより、こっちの方がさらに似合うはず』
『赤色に違いなんてあるかよ』
『ものすごくたくさんありますよ。たぶん、藤真さんに似合うのはこういう赤色』
『え?これ、さっきのと同じ色だろ』
『違いますよ。さっきのは、彩度の高い青みがかった赤色。
こっちは彩度の低い黄色かかった赤色』
『・・わっかんねー!一緒に見える』
『だって、ほら。こっち合わせてみて・・』
『・・あれ?何かさっきとちょっと違う気がする・・』
『ほら!すごく馴染んでるし、顔が血色良く見えるでしょ?』
『・・そういうことか?』
『はい、とても。幅もちょうど良いし。
多分藤真さんに似合うのは、細すぎず、太すぎないスタンダードなもの』
『・・あんま詳しいことはわかんないけど、悪くない。
せっかくデザイン部エースの神が選んでくれたんだし、コレに決めるかな』
彼は笑顔でそう言って、俺が見立てたネクタイを早々と購入した―――。
あの時、俺の提案に乗ってくれた彼。俺はとても嬉しくて。
「このネクタイさ、最初やっぱり赤、って抵抗あったんだけど
周りに評判良いの。
何か身につけてるだけで男女問わず褒められたのって、初めてかも」「だって、すごく似合ってますもの」
「色、って色々あるんだな」
「はい。あの時俺が選んだ基準にしたのはパーソナルカラーって言って、人に似合う色を春夏秋冬4つのタイプから選ぶんです。瞳の色とか、肌の色とか雰囲気とかから」
「初めて聞いたな。パーソナルカラー?」
「はい。例えば同じ赤色でも、春夏秋冬で赤が違うんです。
春の赤はパステルっぽい赤で、夏の赤は青みがかったくすんだ赤。
秋は黄色がかった暖かみのある赤・・藤真さんの場合、夏と秋と両方かなぁって」
「へぇ。俺、夏と秋なの?」
「俺の見解だと。2つの季節に該当する人って、ラッキーなんですよ。
広い範囲の色が似合うってことだから。さすが藤真さん」
「・・なんかよくわかんないけど、夏も秋も、好きな季節だから良かったよ」
「わかんないです?俺、やっぱり説明ヘタだなぁ」
「んなことない。サワリしか聞いてないし。それに、単に俺の理解力の問題かも」
「それこそそんなことないでしょ」
「いや俺、芸術系の話や美的感覚の話って、ホントわからなくて。
学生時代からまったくダメだった。絵もド下手だったし」
「そうだったんだ?・・でもそれ、想像できるな~!」
「むっ。失礼だぞ、神!」
「ははは、ごめんなさい。だって、藤真さんそのルックスで、頭も良くて運動できて、
これで美術や音楽もできたら、反則でしょ」
「そんなことないだろ。実際、神は全部できるだろ」
「・・俺がいつ全部できるって言いました?」
「でも、実際できるんだろ」
「まったく・・・ホントに過大評価だなぁ。参っちゃう」
でも、彼にそう評価されるのは、やっぱり嬉しい。
「だって、このネクタイも当てちゃうし。さすが神。デザイン部のエース!
今度買い物行く時は、先輩命令で付き合ってもらっちゃおうかな」
彼が、超絶笑顔で言い放つ。太陽の様な眩しさ。
・・あ、まただ。
彩度が、明度が、色相が。
色彩が、戻って来た。
今朝も陰鬱だったはずのこの世界に。
さっきは、彼だけだったのが。
次に、彼と俺の周りに。
そして今、瞬間的に目に映るすべてに波及する。
藤真さんを触媒にして、世界が色を取り戻す。息を吹き返す。
決して派手ではないのに。そこに、奇抜さもないのに。
そっと、だけど、もっと、刺激的に。きっと、奇跡的に。
この世界を染め上げていく。
藤真さんが、この化学変化を起こさせたのだ。
――この役割ができる人間を、俺は彼の他に知らない。
彼には華がある。その華で、周りを触発する。
神は感心する。感激する。そして見惚れる。
――お得意の穏やかな笑顔で包んで、
その神自身の心の変化を、外にはわずかにしか出さなかったけれど。
「それ、良かったら発表の時も絞めて下さいよ。
赤って情熱とかやる気とか、進出とかの意味があるから。舞台に立つ時には適した色です」
「そうなんだ。これも捨てがたいけどでも俺、
大事な場面では緑を身につけるって決めてるんだよね」
「それは残念・・・緑、って、翔陽の緑ですか?」
「そう。よくわかったな」
「そりゃね」
緑のユニフォーム姿のあなたが、
10年弱経った今でも俺の記憶に巣食ってるから。
「緑、藤真さんの勝負色なんですね」
「ああ、そんなに好きではないんだが」
「?好きじゃないんですか?」
「だって、高校生の多感な時期に、ずっと緑ばっか着せられてたんだぜ。
ユニフォームも緑。制服も緑系」
「はぁ」
「フツー、飽きるだろ。例えば、ミュージシャンがカラオケ好きだと思うか?
シェフが、家でも料理をするか?」
「それは人によると思うけど、確かにずっと1日仕事でやってたことを、
プライベートでもやりたくないって人は結構いそうですね」
「だろ?ま、俺の場合仕事でもなんでもなく、フツーの学生やってただけなんだけどな」
選手兼監督が、フツーの学生とはとても思えないという考えが浮かんだが、何となく黙っておいた。
「緑って、俺にとってはあんまり良い意味じゃなかったんだ。
見ただけで試合のモチベーションに持って行けるから、便利ではあったけど。
例えば――試合で勝ちを望んだら、同時に負けを拒否することになるだろ」
「それは、そうでしょうね」
「そうすると、結局勝敗どちらも意識しなくてはいけなくなって、消耗する。
どちらも、ベクトルが真逆なだけで同じ大きさの力だから。
むしろ、マイナスの方が引力は強い位か」
「・・緑色にそんなこと思ってたんですね。色が人に及ぼす効果はやっぱりすごいなぁ」
「ああ、すごいな。俺にとって緑は消耗の色だよ。
もう、あんな風に神経も身体もすり減らすのはごめんだ。今の仕事の方が楽なくらいだ」
「俺も、キャプテンのときのプレッシャー考えたら、今のが楽かも」
「それはまだ、俺らが下っ端だから言えることかもしれないけどな」
「主任さんが、何をおっしゃいます」
「それ言うなら、牧もだぜ・・あいつはすごいよ。
2足のわらじでも、どちらの道でもトップ集団だ。あいつの辞書には消耗って文字はない」
「トップ、以外の順位を表す言葉もないのかもしれませんね」
「・・と、敵にこんなことべらべらしゃべったの、初めてだ」
「今は敵じゃないですよ。同じ会社の、仲間じゃないですか」
「あ、今、素で忘れてた」
そう言って、藤真は照れ臭そうに笑う。
「でも本来は緑って、心に優しい行儀の良い色なんですよ。
安心感や、癒しや、調和って意味がある」
「ほー、そんな色を見て俺は興奮してたってのか」
「ですね。本当は興奮を誘発するのは赤色だけど、
藤真さんの場合はパブロフの犬みたく、緑色に条件付けされちゃったんでしょうね」
「結局人間も犬も大きく違わないのな」
「人間も動物ですしね。あと緑と言えば・・
姑が嫁に求めるイメージカラーが緑。
良いとこのお嬢さんのイメージ。優等生」
「優等生って。それ、俺にピッタリじゃん」
「・・今の、笑うとこですか」
「いや、事実だろ」
「ははは」
「笑うなよ」
「失礼しました」
「じゃあさ、紫はどういう意味?」
「紫?海南カラー?」
「そう。むかつく常勝カラー」
「ははは・・・紫は、何だったかな。直観力とか、天賦の才、だな。
高貴って意味もあって、皇帝、神官が好みます」
「・・天賦の才!皇帝!やっぱりムカつくっ」
「ははは、確かにちょっとお高くてヤな感じですね」
「ちょっとじゃない、だいぶだ」
「そんなに嫌わないで」
「ふんっ・・・ね、じゃあ、青は?」
「青?」
「青色」
「・・そうだなぁ・・男性的。冷静沈着。知性、かな」
「男性的、か。へぇ」
「あと、青って未熟って意味もありますよね。青二才とか青臭いとか青春とか」
「ふうん、未熟か・・」
「青って本当に意味や解釈が多い。
連想するのは、空とか海とか。あと、結婚とか」
「結婚?・・結婚って白じゃないのか?」
「それもあるけど。サムシングブルーって言って、
花嫁が純潔の象徴として、何か青いものを身につけるんです」
「純潔?」
「ええ。青は、信頼や誠実、貞操って意味もありますから。
幸せの青い鳥って言うくらいだし」
「貞操、ってちょっと笑っちゃうな」
「何で笑えるんです?」
「やっぱ神ってすごいな。こんなに知ってて」
「大学で勉強したんで・・ね、藤真さん、青って」
「――ああっ!?時間がヤバい!俺、朝イチでミーティングあるのに!」
「あっ?もうそんな時間?・・走りましょう!」
・・それからバタバタで人波をかき分け走って、会社の門を潜って。
藤真さんのエンジン事業部はA館だから、デザイン部でB館の俺とは
小さく手を振って、そこでバラバラに散った。
聞けなかったな。いや、聞こうと思えば、聞けた。
だけど、聞いたところではぐらかされる気がして。誤魔化される気がして。
その彼の反応で、自分が余計混乱する気がして、聞けなかった。
藤真さん、どうして青色のこと聞いたの?
単に聞いただけで、それがたまたま青色だっただけで、
思いついただけで、他意はないの?
彼が知りたがった、青色の意味。
男性的。未熟。空。海。純潔。結婚。貞操。
彼は何を、誰を連想して納得した?首をかしげた?笑った?
・・俺の脳裏に、高校時代がフラッシュバックする。
激しく横切り、かわし、飛び交う青。立ちふさがり、向かってくる青。
そんな青の、チームカラー。
3年になって海南のキャプテンとなった俺と対峙する、他校のキャプテンのあいつ。
青色のユニフォームを身につけて、俺と同じ背丈で。
男性の中でも、より男性として完璧な、甘いマスクの、あの男・・・。
あ。しまった。 彩度が、明度が、色相が。
色彩が、青一色に染まっていく。
止めてください。藤真さん、止めてください・・・。
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【補足】
三省堂の『大辞林』より
さいど 【彩度】 彩度色のあざやかさの度合。色の純度。飽和度。色の三属性の一。
めいど 【明度】 色の三属性の一。色のもつ明るさ暗さの度合い。
しきそう 【色相】 色の三属性の一。有彩色の色を他の色と区別するよりどころとなる性質。赤み・黄み・青みなど。色合い。
【BGM】
capsuleアルバム・・・FLASH BEST
神さんは、芸術系に強いイメージ。
繊細で女性的な感覚も持ち合わせているので、色や音楽や言葉の広い範囲を理解できそう。
パーソナルカラーは、ホーユーの実施している講習会に行ったことがあるけど
目からウロコです。最初は、自分の範疇にない色ばかりを挙げられて、戸惑ったけど。1度覗いてみて損はないと思いました。
2013.02.03 節分。
この話を完成させたことで、厄が落ちたと信じることにします。
神様、藤真様。
(お手数ですが、ブラウザでお戻り願います)
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