2013年5月4日 緑の日もとい花藤の日祝い  
それが猫でも、赤子でも。
 

「今日って、5月4日って、みどりの日だって今朝テレビでゆってたんだけどそれって何の日?」

「みどりの日は、みどりの日だろ」

「ちげーよ!何する日?ってことに決まってんだろ」

「自然を愛でる日だよ」

「・・・何それ」

「詳しい説明、いるか」

「面白くなさそうだから、いらない」


花形と一緒に、風呂に入っている。
広いバスタブとはいえ、大の男2人が入るのでかなり狭い。
(しかも、1人は無駄に規格外)

何度か、入浴中にその狭さに耐え切れず
暴れ出した覚えがある。

でも、それなのに、未だにこうして、できるときは一緒に入っている。
花形はどうか知らないが、悔しいけれど俺はこれが好きなのだ。
(暴れ出したのだって、狭さにムカついたというよりは
別の事でイライラしていて、自分の心の狭さをバスタブの狭さに
都合良く責任転嫁して・・・爆発させたことに他ならない)

「みどりの日って、俺たちの日だと思わない?」

「何で?」

「かーっ、鈍いやつだな!!翔陽カラーだろうが」

「ああ、そっか。もう随分昔のことみたいに思うな」

・・耳たぶの辺りから、花形が笑う声がくぐもって響いて来る。
何度も言うがとにかく狭いので、だいたい花形が後ろから俺を抱いて入る格好になる。
だから、俺の目の前にはいつも壁しかない。それが、ちょっと、だいぶ、つまらない。

でも突然今は後ろから嬉しそうな笑い声が飛んできて
・・・それは俺が相当好きな部類の声で・・ちょっと、身震いした。


「お祝いしないと!!翔陽の日を」

「みどりの日を、だろ」

「この際どっちでもいいんだけど。で、何くれる?」

「何?」

「お祝いと言えば、プレゼントだろ」

「そうなのか?」

「そうだろ。必須だ」

「そんな、急に思いつきで言われても何も無いよ」

「・・・なーんだ、つまんねーの」


俺は、本当につまらなくなった。
そう言う時に、応用を利かせてほしいと思うのは、贅沢なのだろうか?
何も、本気で物が欲しいなどとは思っていない。あったらさらに嬉しいかもしれないが。
そもそも、大人は何故イベントに
お金をかけなければいけないと思っている?そして物を欲しがるのか?

布地は少ないのに高かったであろう、結局小学校の入学式にしか着なかったのに
親が奮発したと思われるデパートで買った仰々しい服や、
随分長い時間飛行機に閉じ込められ、旅先でも大人の都合であちこち振りまわされた
海外旅行など・・・子どもにとってはありがた迷惑の場合もある。

それより、母親が腕をふるって作ってくれたお弁当を持っての
小学校の仲間たちで行く、せいぜい隣町への遠足とか、
休みの日にいつもは昼まで寝ている父親がめずらしく起きてくれて
堤防でキャッチボールに付き合ってくれたとか。

少なくとも俺には、そういう思い出の方が、輝かしく残っている。

なのに、大人は。何故イベントというと、物ありきなのだ。
お金など、かけなくたって良いのだ。
花形は、勉強ができるんだからそのくらいのこと、わかると思ってた。
でも、結構凡人の発想なんだな。
そう思うと、つまらない。
好きな分だけ、余計につまらなくなる。

・・・こういう時に、物なんてなくても良いからただキスをくれたり
ただ甘い言葉をくれたりするだけで満足する・・俺は、そういうお気楽なやつなのに。

こいつは、俺と長きにわたって濃密な関係にある癖に
まだ、俺のことを色々と勘違いしているのかもしれなかった。

まぁ、勘違いさせた俺が悪いんだけど・・・。
俺は口も悪いし、冗談も好きだから。それはちゃんと自覚してる。
だからお金や物の話もたくさんするもんなぁ。そりゃ、フツー好きって思うよな。

俺の複雑な想いには気付いていないだろう花形が、
肩を冷やさないようにと、後ろから手で、俺に湯をかけ続けてくれる。
・・その優しさに、ちょっとイラっとした。
そんな呑気なことしてる暇があったら、気付けよ。


ザバッと立ち上がって、シャンプーするために洗い場へ出たら
何やら、窓の外から変な声がしているのに気付いた。


「・・・何の声?」

「ん?何か聴こえるか?」

「・・・この辺って、赤ん坊いたっけ?」
でも、子どもの泣き声にしては、ちょっとおかしな気もする。
何て言うか・・子どもの純粋で無邪気な声、というよりは
もっと、場数を踏んでいる・・って表現は適切でないかもしれないけど、
とにかく、もっと肝が据わっているような・・・
修羅場を抜けてきたような・・唸りみたいなものが滲んでる。

「・・あー、猫、じゃないか?」

「猫?」

「発情期だろ」

「えっ!?こんな人間みたいに鳴くの?」

「うん、多分」

「ふーん・・・」

結局それが猫なのか赤ん坊なのか、
どちらの生き物からも縁遠い俺には、解らず終いだった。


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風呂から上がって髪の毛をガシガシやっていたら、
後ろに花形が立った気配があって、それでもさほど気にせず
相変わらず頭をガシガシやってたら、目の前に見慣れない小さな深緑色の箱が出現したので
反射的に・・・それをやってのけた犯人を見上げた。


「・・何?」

「こういう箱、ドラマや映画でよく観ない?」

「それって」

「だいたい、中身はコレだろ。コメディや、ブラックユーモアでない限り」

・・・そう言って開けてみせた・・・
真ん中に居座っていたのは、大層な、指輪だった。


「これ、何?」

「プラチナ。藤真、金属アレルギーの気あるだろ?でも、たぶんこれなら大丈夫だから」

「原料の事、聴いてないんだけど」

「じゃあ、理由?」

「もちろん」

「だって、今日5月4日は、みどりの日で、翔陽の日なんだろ?」

「それはさっき、思いつきで・・・」

「実はこれ、藤真の誕生日に渡そうと思って用意してたんだ」

「・・それでも随分、フライング」

「ははは、でも、調度良い物が見つかったから」

「何で、指輪?」

「ああ、それは・・・前に、色々な人間に勘ぐられるのが面倒だってゆってただろ?」

「・・恋人いるのか?とか聞かれたり口説かれたりすること?」

「そう・・これしてれば、男も女も・・結婚してるのかなー、とか、恋人いるのかなー、とか、
相当鈍くない限り、思ってくれるだろ?そういう輩は、わかりやすく牽制しないとな」

「何それ・・・マジで」

「右手にしても、左手にしても良いと思うんだよな。重要なのは、たぶん薬指、ってとこだから」

「それって、マジで結婚指輪じゃん・・・」

「でも、牽制でやるならその指だよ、絶対」

「俺、今まで指輪とかしたことないけど」

「したことない人間がその指にしてきたら、それこそ大騒ぎだな。
まぁ、したとしても相当自分に自信がある人間か、
型破りな人間は結局、寄って来ちゃうんだろうけど」

「マジかよ・・・」

「あ、もしかしてアレルギー出てきたり、指輪はめてるのが違和感で我慢できなかったら
無理してはめなくてもいいからな」

花形は、俺の固まってる様子を、指輪着用に際しての不安だと受け取ったようだった。
けろっと、何でもないことのようにのたまう。

「え?・・だってこれ、高い物なんだろ!?しなきゃ勿体無いじゃん!!」

「別に値段は・・・それより、俺の気持ちの問題だから」

「え」

「そりゃ、ちょっと高かったけどさ。俺があげたいから勝手にあげるんだし。
それに、実際の婚約指輪や結婚指輪だって、はめてない人だって結構いるだろ?
いつもしてる人もいるけど、ずっとしてない人や、イベントや出掛ける時だけする人もいるって」

「だから、藤真の好きにしてくれて良いんだよ」

「マジで・・」

「もちろん・・・あ、でもしないと結局、周りへの牽制の意味はなくなっちゃうのか」

そう言って、大らかに笑う。


格好悪すぎて、良すぎる。
物分かり良すぎて、ムカついて、愛しい。

何だか、とにかく・・俺は花形透が好きなんだ、と思い知らされる結果になった。


「はめて」

「へ?」

「はめて、それ。おまえが、俺に」

・・俺は花形へ自分の左手を差し出した。

花形が、おずおずと俺の左手の薬指に指輪を差しこむ。

入り込んでくるその感覚に、俺は気持ち良さで気が遠くなった。


「・・おお、ぴったりだ!良かったぁ」

「どう?」
俺は、芸能人が記者会見でやるみたいに、
指を揃えて手の甲を顔の横にひっつけて、微笑んだ。

「よくお似合いです、藤真様。
・・いや本当、そのまま指輪や結婚式のCMに使えそうなカットだな。キレイだ」
写真撮るみたいなポーズをしながら、ひどく感心しているやつが、随分可笑しい。

「・・・そう言えば、これ、おまえのはないの?」

「ないよ」

「えっ!?じゃあ、おまえは牽制できないじゃん!!」

「あ?・・自分のことまで考えてなかった・・ま、良いだろ俺は、微々たるものだし」

「そんなこと」

そんなことないの、知ってる。
こいつは、結構モテる。
なんたってルックス良いし、頭も良いし、優しいし、
ちょっとピントのずれたところが、また、可愛くてたまらないのだ。
たぶん、俺よりモテてる。自覚がないだけ。
花形が”意味もなく藤真がイライラしてる”と思う時の原因の8割は
それから来てるんじゃないかと、思うくらい・・・。

「藤真は?」

「え?」

「プレゼント。もらったら、お返ししなくちゃいけないだろ?」

「え・・え?だって、何も用意してない・・」

「べつに、物が欲しい訳じゃないよ」

「え?」

「今、藤真が持ってるものをくれ」


・・・そう言って、抱きしめてきた。

「あ」


そっか。
物を、目に見えるものを、証拠を欲しがっていたのは、俺の方だったか。
気が利かないのは、俺の方だ。ごめん花形。
なぁ?なんでおまえはそんなに俺の欲しいもの、的確にわかるの?くれるの?
俺自身でもわからなくなってた大事なことに、気付かせてくれんの?

なんで?


・・・色々思うし、色々聴きたいんだけど
されたキスが優しくって、深くって、すごく気持ちよくって
俺は、そこから、ただ幸せの波に溺れる方を選んだ。


***********************


ベッドで二人、寝転がって。

闇の中に慣れた目に、時計の針がぼんやり見える。

23:55、過ぎているようだ。

2013年5月4日土曜日も、もう終わってしまう。

・・・花形は、隣で寝息を立てている。


ふと、外でまた、さっきの声が聴こえた。風呂場で聴いた・・・。

そうそう、これこれ。
でも、結局何度聴いてもわかんないな。
発情期の猫なのか、夜泣きの赤ん坊なのか・・・。


でも、1つ確かなのは。

それが、猫の鳴き声でも、赤ん坊の泣き声でも。
両者とも、大切な誰かを呼ぶ声だということだ。

恋する、特別な・・神聖な行為をするべき誰かを。
自分を抱きしめてくれる、救ってくれるべき誰かを。

俺は、言葉を持たない彼らにすら・・勝っているかわからない。

俺は口も悪いし、冗談も好きだから。それはちゃんと自覚してる。
そう・・確かに口は達者なんだけど。

だけど。

好きなものを好きって、言えてるか?

本当に欲しいものを、欲しいって言えてるか?

わからない。

いつも、何だかんだ言って察してくれる花形に、任せっきりで。甘えっぱなしで。

・・・素直に声を上げることができる、猫や赤ん坊が羨ましい。

とりあえず、
今度花形にプレゼントを贈るときは、指輪にしようと決めた。

牽制、しないと。
俺に絶対必要なもの1つ、誰にも持って行かれないように。


突然俺たちにとって特別な日になったみどりの日・・・
5月4日も、もう終わってしまう。

今日なら、今夜なら、今なら、言えそうな気がするのに。

それなのに。こんな肝心な時に、
伝えたい相手は起こすのが可哀想になるくらい、気持ち良さそうに眠っていて。

・・俺は、溜め息をついた。

でも、嬉しい溜め息だ。つい、顔が綻んでしまう。

暗闇の中で、自分の左手の指輪を見る。
鈍い銀色が、確かに、そこにある。


「花形・・・好きだよ」

ひとり言になってしまうけど、言ってみた。
花形の手に、指輪をした左手で触れながら、言ってみた。
自分でも、ちょっと驚くくらい、素直に声が出た。

・・・眠っていたとはずの花形が、優しくその手を握り返してきた。




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<BGM>
*YELLOW CARD のアルバム Paper Walls。
中でもYou and Me and One Spotlight と Cut Me,Mick でお願いします。
壮大でロマンチックな歌詞と色気とロックが、花藤!!



・・超滑り込みー!!
さっきお風呂で思いついたんです。2時間書き。人間、やればできるのですね(何)
お祝い、できなと思ってたのに思いついて嬉しいです。
しかも、思いつきで書いた割には気に入ってます。
すげーなこんな花形。自画自賛。
やっぱり王道パワーってすごいんだな(何)

2013.05.04 22:30


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