2013年8月15日 藤真誕生日小話 
彼がその贈り物を受け取る日
 


0時少し前。
お互い今日も明日も休みだけれど、早めにベッドに入った。

仕事がある日は、彼が終電で帰ることも少なくはないので、この時間に眠るのは難しい。
ちなみに俺は朝型人間で、彼は典型的な夜型・・・もとい、あまり眠らない。
(彼の睡眠時間は平日はいつも多くても5時間くらいだが、
たまに電池が切れるのか死んだように眠り続ける)


そして・・・
いつも俺の左側で眠る彼。
夏でも容赦なく冷え性の脚を、容赦なく俺に絡めて
(夏は気持ちが良いが、正直冬は辛い)。

それが・・・今は横向きで、完全に背中を向けている。
彼が、まだ眠っていないどころか・・・眠る気もないというか、
その均等で作りもののような身体の中に忍ばせて、今現在・・・
暗くて重い思考の渦が、激しく塒(とぐろ)を巻いているに違いない。

こんな夜、多分彼はようやく眠ったとしても、きっと悪夢にうなされる。
この約3年間、そうだったように。

俺は、ずっと思っていた。
自分にできることは何か。探しても、ほぼ、ないと知りながらも。
・・思考のとぐろに、自らの首を絞められないようにしてあげたい・・・と。




・・・彼が今夜そうなった理由に、気付かない俺ではなかった。
久々のそのスイッチを入れたのは、間違いなくさっきまでついていたあのテレビ。

珍しく、滅多に観ないのに、他意もなくつけっぱなしにしていた。

お互い眠る前に色々としていて、どちらも観ることはなかった。
切るのを忘れていた、と言っても過言ではない状態。

・・だが、ふと気付くと彼が子どものように
テレビの前に行儀良く体操座りして、画面を食い入るように観ていたのだ。

・・・そこでやっていた ひまわり に纏わる逸話を
彼は今、ベッドの中にまで持ち込んで、さっきからきっと・・・ずっと捏ね繰り回しているのだ。


『ギリシャ神話によると、太陽神・アポロンに恋をしたニンフ姉妹。
姉はクリュティエといい、妹はレウコティエと言いました。
・・・アポロンが愛したのは、妹の方でした。
姉のクリュティエは太陽神に憐れみを乞い、
9日間立ち続けているうちに足に根が生え出し
とうとうひまわりになりました。
そして今も、太陽の姿を追い求めていると言われています』・・・・



・・・それは、はっきり言ってどうでもいい作り話だ。
だけど、俺にとってどうでもいい事が、彼にとってもどうでもいい事とは限らない。

ただの作り話でも。
ただの飛躍しすぎの、考えすぎでも。彼には。




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・・・男が憧れるくらい男らしくて利発、
女が惚れても近寄りがたいくらい常に凛としていて、
後悔という文字など辞書にはなく、前だけ見てまっすぐ進んで・・・迷わない。

彼の事を、そんな風にひと世代前のヒーローものの主人公のような人間だと思っていた。
学生の頃は。

・・・でも、それはどうやら第三者向けの表情なんだと、
俺は社会人になってから付き合いだしてみて、遅ればせながら・・・ようやく気付いた。

(あの頃は・・・自分の若い恋愛感情を消化するだけでいっぱいだったから)

だけどこうして、微々たる年数ではあるけれど年を重ね
世間一般で言うところの、ただの異性間で抱く様な恋愛感情と言うよりは、
普遍的で人間的な愛情を持って見れば・・・。

・・・少しづつだけど・・
高校生の頃の自分には気付けなかった、彼の表情が見えて来た。

あの時だって、1年以上一緒にいたわけだし
(後半は会ってないし、今のように一緒に住んでたワケじゃないけど)
彼の性感帯だって俺はしっかり心得ていたから――
それは社会人になっても変わっていないみたいだけど・・・・
彼に対して素人・・・のつもりはまったくなかったのに。

・・・それでも。こうして一緒に暮らしてみて。
今でも新たに発見することが多すぎて、
毎日まともに驚いている暇もない事実に、驚く。


自分の会社の、結婚して5年以上になる先輩が
”今でも嫁さんに毎日驚かされてる” と言っていて
長い間一緒にいるのにそんなに新鮮な毎日だなんて、本当なのかと思っていたけど
・・・先輩の言葉が、本当だということが、今なら解る。

すでに3年程、この人と一緒にいる自分でも。毎日。


特に彼は・・嘘をつくではないけれど自分について多くを語る人間でないから
(彼も、俺をそういう人間だと言うが俺から言わせれば彼の方がそういう傾向が強い)
ぽろ、ぽろっと何かの拍子に小出しに溢れだす話を掬う度・・・
繋ぎ合せて、点と点が結ばれて腑に落ちる度・・・驚かされる。


・・・その中には、俺が到底簡単には呑み込めない、
昇華させてあげられないくらいの大きくどんよりとした、重い塊もあって。

そして何の導きなのか今夜、
その彼の大きな、深いトラウマが、そこまで浮上している。
表面化に見える。
でもそれは多分、まだ水面下に、深く深く。氷山のように。

・・彼が普段必死で飲みこんで、その作りもののように美しい身体で隠している
大きなトラウマが・・・彼ごと呑み込もうとしているのだ。

できればその状況を・・・救ってあげたい、と思う。


でも、同時に、俺は解っている。

そんな考えは傲慢だし、そんなのは無理だ。

彼を救えるのは、彼自身だけ。

自分にできるのは、その手助けを用意するくらいのものだ。


だから、せめて。
それならば。
俺は、用意をした。

これを受け取るか受け取らないかは、彼次第。

藤真さん、気に入るかな?受け取ってよ。




**********************************




・・・そのまま目の慣れた暗闇の中で横になり続けていた。
携帯の画面を覗くと・・・0時4分の表示。

今日は、8月15日だ。



・・・電気をつけると、彼が隣で不機嫌そうに
布団を目のあたりまで引き上げて、身じろぐのが見てとれた。

俺は奥の部屋に置いていた2つのものを取って
ベッドまで戻ってきた。

彼を揺すって、
不満げに起き上がった彼にひと言。

「藤真さん。お誕生日おめでとう」


彼はまだ光に慣れない目を細めながら
呆けた様子で、それを受け取った。

真っ黄色の花束・・・ヒマワリの、花束を。




「忘れてた?自分の誕生日」
「・・・今?」
「もう、0時回ったからね」
「・・・明日の朝で良くない?」
「藤真さんがすぐ寝ちゃったらそれでもいいかなって思ってたけど、起きてたから」
「・・・起きてるって、解ってたのか?」
「うん、それ、キレイでしょ」
「・・・ああ・・・だけど男に花束って・・・おまえ・・しかも」
「しかも?」
「・・・ううん、何でもない・・ありがとう」

納得しないまま ありがとう と言う。
その理由も、知っている。
この反応は、単に男が男から花束を貰ったという、少々違和感のある事実からだけではない。
・・・まったく、タイムリーなテレビ番組が放送されていたものだ。

「花瓶なんて、うちにないんじゃないか?」
「あるよ」
「買ってきたのか?」
「うん。これ。これもプレゼント」
「・・・じゃあ、これからいつでも花飾れるな・・・男2人の部屋に花」
「あってもいいでしょ」
「まぁ、そうだけど・・・つーかこれ」
「はい」
「どうして、2つあんの?」
「どうしてだと思いますか?」
「・・・どうしてだよ」

彼が、答えには辿りついていなかったとしても近いものを察知したのか
僅かに迷惑そうな顔を、こちらに向けてきた。

「俺、8月15日は ありがとう を言いたい人が2人いるんですよ」
「2人?」
「まず、”藤真さんに生まれて来てくれてありがとう” でしょ。
それに、藤真さんのお袋さんに ”藤真さんを産んでくれてありがとう”」
「は?」
「だから、それ持って言いに行けばいいと思うんです。ありがとうって」



彼は呆気にとられたような表情で、
ゆっくりとした瞬きを2回した後、嫌悪感を露わにした。

「ホラ、誕生日の始まりにそんな顔しないの」
「・・・させたのは、おまえだろ」
「でも俺の善意を悪意と受け取ってそんな表情をしたのは藤真さんでしょ」
「実際、悪意だろ」
「善意です」
「でなければ、偽善か」
「・・そう受け取るなら、この際それでもいいですけどね」
「いいのかよ?」
「だってキッカケ、作ってあげないと藤真さん頑固だから自分で動けないでしょ」
「!!」
「良い機会だと思うんです」
「・・・俺がいつ、キッカケが欲しいって言ったよ!」
「まぁ、言ってはいないですね」
「おまえには関係のないことだろ。それで迷惑もかけてないし」
「かけられてる、って言ったら?」
「何?」
「藤真さん、しょっちゅう夜、うなされてる・・・そんな自分のこと、知ってた?」
「・・・なっ・・・・・!」
「安眠妨害してるんですよ、俺の」
「・・・だったら、これから別々に寝る」
「極度の冷え性は?足、冷たすぎて寝られないよ」
「俺が眠れないからって、おまえに何の支障がある。
だいたいおまえが最初に安眠妨害だと言ったんだろ!
・・・これでゆっくり眠れて嬉しいだろ」
「あなたの場合、物理的な問題だけじゃない・・・精神的にも。
ひとりじゃ、寂しくて寝られないのに?」
「馬鹿か!・・・もともと・・・俺はひとりで寝ていたんだ」
「だから、しょっちゅう不眠になっていた」
「うるさい!おまえなしじゃ生きられないようなこと言うな!」
「藤真さん、もうやめにしましょうよ。意地張るの」
「意地!?いつ俺が!?・・・悪いのはっ」
「悪いのは?」
「悪いのは・・・俺、じゃない・・・」
「そうかもしれないですけどね」
「だったらっっ」
「俺はあなたのお袋さんのことよく知らないけど、
あなたの母親なら、一筋縄ではいかないでしょうね」
「え?」
「きっと、思いきり頑固に違いない・・・息子のあなたがそうなように。
「いやそれどころか多分・・・あなたよりそれは勝ってる。
何せ相手は意志の強い女性だし、年を取ってるならさらに・・・」
「仙道!」
「だから、あなたから行ってあげてください」
「・・俺はっっ!もういい年の大人だ!
・・・だから、自分の行動くらい自分の意志でする!!
自分の意志に反する行動は、しない!!」
「藤真さん、いい年の大人の方がきっと素直になれないですよ」
「・・・・!」
「それに、大人になったからこそ
こちらが譲ってあげる・・・折れてあげることができるはずだ」
「おまえ・・・」
「さぁ・・・ね」
「嫌だ」
「それなら、俺が行きます」
「はぁ!?・・・おまえだけ行って、何言うつもりだよ!」
「初めまして、藤真さんを産んでくれてありがとうって」
「・・・馬鹿じゃねえの!?気違いだと思われんぞ!!
・・だいたい、あの人は俺を産んだことを後悔している」
「本人が、そう言ったんですか?」
「直接聞いたワケじゃないけれど・・・解るんだ。今までのことで」
「でも、聞いてないし、言ってないんですよね?
外国では、ビジネスに置いて口に出さないことは
完全にないものと見なされる・・・って
この前藤真さん、自分で言ってましたよ。
・・・まぁここは日本だし、ビジネスの場でもないですけど」
「黙れ!!・・・おまえに何が解る!!」
「解りませんよ。でも、想像はした。何度もね」
「想像だと!?」
「辛かったね」
「・・・・・・!!」
「よく、今まで耐えてここまでやって来た」
「・・・仙道・・・っ」




******************************


俺が彼と一緒に暮らし始めた3年弱を使って知ったのは、
彼の、作り話のような真実の生い立ちだった。

その(彼にとっては)打ち明け話は、
真実のような無難な作り話をされるより、俺にとっては嬉しかった。

それに、そういう話は本人たちが恥ずかしく思って隠しているよりも
現実には、きっと似たような事項が多く存在している。
何も、特別おかしいことではないのだ。


・・・ここで多くを語る必要はないだろう。

ただ、彼は母親と確執がある。根本はそれだ。
それは、母親が憎んでいる人物――義理母・・夫の母に彼が酷似しているから。

その人・・つまり彼の祖母は、日本人ではない。
(これを聞いた時、俺はこの事実に驚くよりもむしろ納得してしまった。
彼が純粋日本人とは、いつまで経っても到底思えなかったからだ)

その事で、詳しくは解らないが・・・
彼の母親は相当な苦労をしたらしい。
そして義理母を憎んだ。

それなのに、自分の息子は自分は愚か、
どちらかと言うと日本人的である旦那にも似ておらず
何の運命のいたずらか・・・憎き祖母に似てしまったと言うワケだ。

・・・母親は彼を奇妙なものでも見るような目で見たり
口答えをしようものなら 「誰に似てそんな子になってしまったの?」 と罵ったりした。

そんな環境が嫌で、彼はこの約8年間、大学で県外に飛んでからというもの
就職でまた神奈川に戻ってきても、ずっと実家に帰っていないそうだ。



母親や父親、兄弟。そして親戚。
何らかの確執がある話は、それが浅い深いの違いはあるにせよ・・・よく耳にする。
愛するはずだったもの。愛すれば、許せれば楽に過ごせたもの。

絡み合ってしまったら・・・
それは、血が濃い程、きっとその呪縛から逃れられない。

それも仕方ない。
関わらず、赤の他人のように遠く離れてずっと暮らしていけるのならそれも1つの選択なのだろう。
しかし、彼の場合は、昨日までずっと、今日からもずっと。
もっともっと深く、大きく、重く。


そして、俺は気付いてしまっている。
彼が・・・普段ほぼ口に出さない母親に、散々こだわっていることを。

気付いてしまって、無視はできない。
いや、今までしようとしてきたが・・・もう限界なのだ。
彼が苦しむところを見るのは。

今夜は、大義名分にするのに良い機会なのだ。




「お袋さんに、逢いに行ってください」
「おまえ、いつから他人の家族の事情に首突っ込むような
世話焼きババアになったんだ?」
「他人じゃない。藤真さんの事だ」
「俺とおまえは、他人だろ」
「それならそれでもいい・・・
でも、お袋さんは身内でしょ?逢いに行ってください」
「おまえには、関係ないだろ!!」
「それでも!!俺のためでも、お袋さんのためでもなく・・
ただ、あなたのために」
「!!」
「苦しむあなたは、もう見たくない。さっきだって」
「俺がいつ・・・!?さっき・・・!?」
「ヒマワリ。さっき、テレビでやってた。
アポロンに、姉のクリュティエは選ばれなくて、妹のレウコティエが選ばれた」
「!・・・・」
「藤真さん、自分と弟を重ねてたんでしょ?」
母親似だった弟を。弟は、愛されていた、と以前に、
何気なさを装って言った時の、彼の辛そうな顔が忘れられないのだ。


「藤真さん」
「仙道・・・俺は行って、母親に何を言えばいいんだ?」
「言いたいことは、たくさんあるはずですよ」
「支離滅裂になる」
「そのまま、ぐちゃぐちゃのまま言えばいい。
家族ってたぶん、そういうの、時にはそのままぶつけて良いんです。
・・・って、ぶつけたこともない俺が言うのもおかしいですけどね。
ぶつける相手も俺には、気付いた時にはいなかったから・・・」
「!・・・ごめん・・・」
「俺のことはいいから。ないものはどうにもできないからね。
・・・それに今は、あなたがこうしていてくれるし・・って、クサすぎです?」
「仙道・・・」
「どういう風だったかも解ってあげられないし、これでどうなるのかも解らないけど。
とりあえず、あなただけでも。たぶん、やりきらないと、一度ぶつかり合わないと、
あなたはここから・・・ずっと動けない」


あなたの中に流れているその血。

それを愛さなければ、きっと、これから先、あなたは誰のことも本当には愛せない。
そう思ったけれど、自分の完璧なエゴな気がして、それは伝えなかった。

そう。俺は完全に彼に愛されたい。
そのためにもきっと。

「それにね・・・俺はあなたがどういう風だって、あなたのこと好きなんですよ。
何かが少しでも違っていたら今、ここにいるあなたはいないワケだから・・・
あなたのすべての過去を受け入れる気でいるんですよ」
「俺の過去?すべて?」
「そりゃ・・・強がってるところもありますよ。
あなたの昔の恋愛の相手とかね。はっきりいって消せるものなら消したい」
「・・・・・・・・・」
「でもね、それでも、そいつらにも感謝するべきだって、頭では解ってる。
そいつらがいなかったら、今俺の目の前にいるこの藤真さんは、いないんだから」
「仙道・・・」
「そして何より、この藤真さんを産んでくれた藤真さんのお袋さんがいなければ、ね」
「・・・・・・・・」
「俺に出来るのはね、悔しいけどここが限界だよ。藤真さん。
・・・プレゼントを用意するところまではできるけど、
受け取ってくれるかどうかは、あなた次第だ」
「受け取っただろ・・・?」
「受け取って、それをどうするかは、あなた次第です」
「もし・・・おまえが俺だったら、どうする・・・?」
「本当に彼女には俺が直接あって、
”ありがとうございます”って伝えたいくらいなんですって。
”藤真さんを産んでくれてありがとう”って」
「・・・もし、もし、望まれていなかったとしても?」
「でも、少なくとも俺は望んでいたから。
たぶん、何年も何十年も、何百年も何万年も前から」

本気でね、そう思っているんだ。
最近とくにはっきりとね。
俺、ずっと前からあなたを探していたんだなって。
そしてやっと見つけて、これから先一緒に生きていきたいんだなって。

「・・・何だよそれ、ちょっと怖えーよ」
「怖いのも、いいでしょ」
「良くないだろ」
「でも好きでしょ?」
「・・・ウザい」
「でも図星」
「ふん・・・自信家め」
「ははは」
「仙道」
「はい」
「ぐちゃぐちゃのままでも、いいんだよな?」
「ええ」
「自分で答えが、解らないんだ。
解らないし揺れているのに、本人を前にしたら何を言うのか・・・自分でも想像できない」
「藤真さんってさ、本当に優等生で、理屈屋だよね」
「え?」
「俺なんて、人生のほとんどそれでやってきたからさ。
・・答えが解らないままで、考えようともしたことなくて・・・その時その時の感覚で進んできた」
「・・・それで波風立たずに今までやってこれたおまえが憎たらしいよ」
「憎たらしい?」
「ああ。羨ましくて、憎たらしい。無駄な労力使ってないってこったろ」
「省エネ男と呼んでください」
「ふん」
「でも、あなたのことは必死に考えたよ。この、ない頭でね」
「・・・仙道・・・・」
「藤真さん、無理に白か黒で答えなくても良いんだからね」
「え?」
「正解なんて、ないから。グレーで良いんだからね」
「グレー・・・?」
「ええ、いつもあなたは極論で二択の人生だったでしょ。
それはあなたらしいけど・・・それで苦しむあなたは見たくないよ」
「仙道・・・」
「あなたが苦しくない色を使って。
白と黒の間に、色は無限にあるから」
「・・・うん・・・それなら」
「はい?」
「俺は、グレーの代わりに青を使うよ・・・おまえの色だ」
「・・・・藤真さん、ありがとう」
「いや、俺の方こそありがとう」
「行ってどうなるか解らないけど・・・最終的には
俺が藤真さんを愛してるってことは、藤真さんの血を愛してるってことだから
それで良しとしてくださいね」
「おまえ・・・どうしたらそういう歌の一節みたいな台詞吐けんの?」
「は?」
「渾身の一撃、みたいな。恋愛の必殺技みたいだな」
「必殺技?そうですか?」
「ああ。必殺、歯の浮く様な殺し文句」
「そんな・・・」


彼はそんな風に言うけど。
・・昔の方が俺は、すんなりとそういう類の台詞を言えていた。
彼に逢う前の自分だったら、必要にかられれば、いとも簡単に。

・・・でも、彼と出逢ってからは。特に、今となっては。

何故だろう。
昔より、だいぶ言えなくなっている。
本気で頑張らなくては、絞り出さなければ、言えなくなってきている。
これは、省エネとは程遠いベタ踏みのフル回転。

多分・・・それは、言葉と心の距離が近くなったから。
イコールになってきたから。
前は、その両者はずいぶんと離れたところにあったから、
逆に現実味がないから、さらっと言えていた。

でも、今は散々なパワーを使う。

そんなにこの必殺技は、何回も使えない。
・・・だからこうして、まだ、何とか言えているうちに。


それでもまだ、ゼロには程遠い
言葉と心の、乖離を埋めて。

彼とあの人の、乖離を埋めて。

俺と藤真さんの、乖離を埋めて。

藤真さんの過去と現在の、乖離を埋めて。

藤真さんの理性と本質の、乖離を埋めて。

まずは目につく乖離を、手っ取り早く埋める方法。

俺は彼に、身体を密着させる・・・抱きしめる。



「藤真さん」
「・・・ん?」
「誕生日、おめでとう」
「ありがとう仙道・・・こんな」
「こんな?」
「最高の贈り物まで、一緒に」
「・・・気に入ってくれて良かったです」
「おまえにはつくづく世話になるな」
「いえ」
「おまえには、トラウマを除いてもらってばかりいる」
「・・・あれ?俺が前にも言ったこと、忘れちゃいました?」
「何?」
「俺、藤真さんのトラウマを取り除くの、趣味なんです」
「馬鹿・・・」
「ええ、俺、馬鹿なんです」
「・・・明日」
「明日?」
「行こうかな」
「はい」
「一緒に来てくれるか?」
「・・・もちろんです」



彼を救えるのは、彼自身だけ。

俺にできるのは、その手助けを用意するくらいのものだ。

そして彼は、俺が用意したその小さな手助けを、贈り物を
その彼自身の手で、受け取った。

ありがとう。藤真さん。ありがとう。

あなたが救われれば、俺も救われる。


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<妄想誘発BGM>

*Mr Children  GIFT
*石崎ひゅーい  花瓶の花


2013.08.15

(お手数ですが、ブラウザでお戻り願います)