あー、動けてヨカッタ。

くらった直後、意識はぷっつりいくし、

気―ついてもアタマ、フラフラして明日から部活行けんのかってフツーにあせっタ。

・・まー、右わき腹に赤いアザがしっかり残ったケド。

コレも、あのヒトにつけられたモンだと思えば、べつに。

 

デモ、2度目はもうヤダ。

何怒ってたのか知らんが藤真サン、あれはひでー。

それか知らんかったけど、サドだったんか。アノ人。

・・痛てーのはヤダけど、サドなんてカンベンだけど、

アノ人がそーならそれもアリかもしんねー。


・・・デモ、死にたくねーかも。

 

Feeling This

I love all the things you do  アンタのすることなら、なんだって。

 

 

・・ルカワ、許すまじ。

おまえのいいとこは、一途なとこ。

・・・唯一、そこしかないってのに!あの振る舞い!

 

蹴りをお見舞いして、アイツが倒れる際に言い放った、ミルコ・・・ナントカ。     

一志に聞いたらそのミルコ何トカってヒトはK−1出身者で

PRIDE っていう大人気の総合格闘技に出てて、

その世界じゃプロレスラー・キラー、強烈左ハイキックの称号を欲しいままにしているらしい。

( 『すごいお方なんだぞ BY長谷川一志』 )

 

・・上等じゃねぇか。

お望みならもう一発絶賛いただいたミルコ蹴りをお見舞いしてやるぜ。

しかも今度はハイキックを、だ。頭か?顔面か!?

なんだよ、ちゃんと顔はやめてやったってのに。

オレだって好きで蹴りいれたんじゃねーよ、

人蹴ったのなんて初めてだよまったく!

 

 

 

なんで蹴り自分が蹴り入れられたのか、

おまえはきっと2日経った今もわかってねぇんだろうな。

それどころか、病的に欠陥なあの記憶力では、極小なメモリーでは

その出来事すらメモリから消去されている可能性も全く否めなかった。

 

・・あの日、おまえはオレより女子高生のぱんつなんかのがいいって思ったんだよ?

覚えてんの??

  

・・でも、思ったのだけど。

今回のパンツ事件で不覚にも気づかされたのだけど。

 

ルカワのいいとこは一途なとこだけじゃないのかもしれない。

だって、もしそうなら、  女子高生のぱんつ>>>オレ  になった今、オレがやつとつき合っている意味はない。

 

考えてみたんだ。

 

オレは流川の、どこがスキなのだろうって。

 

まず、顔。ルックス。かっこいいとこ。今更だ。だから蹴るのだって顔を避けた。

 

それに、男らしいとこ。負けずキライなとこ。

 

ムカつくくらいまっすぐで、無神経なくらいウソもつけなければお世辞もいえないとこ。

 

んーとんーと・・・

 

あいつの見た目、性格、すること全部。

 

・・・意外なことに、それは全部だった。

 

あいつの好きなとこ、理由。

 

それは、あいつが 『流川楓』 であるからだった。

 

 

意外な結果にぼーぜんとしているヒマもあまりなく。

 

・・・これは、やばい。

 

こんなに惚れてしまった以上、ルカワから離れることができない以上、

この前のことを許すしかない・・・のでは。という回答に簡単に辿りつく。

 

オレはなんだかんだ言って、

流川することならなんでも許してしまうだろう、愛しいと思ってしまうだろう。

でも、これからもオレよりぱんつってのは、絶対に許せない。屈辱だ。

でもでも、ルカワは女子高生が好きで。短いスカートの、パンツがみえそうなのが好きで。

つまりだ、つまり・・・・この悪循環から抜け出すためには・・・考えろ、オレ!!

 

 

***********************

 

そして次の日。

 

「藤真?今日は居残り練していかないのか?」

「今日は、ちょっとな。外せない用があるんだ」

「なんだ?デートか?」

「ふっ、笑止。決闘だ」

「・・・決闘!?」

「男には、勝負をしなければならんときがあるんだ。わかるだろ」

「何いってんだおまえ、相手は!?なんでそんなことになってんだよ、冬の選抜はどうなるんだよ!」

「許せ花形!オレは必ず勝って戻ってくる!」

「藤真っ!?・・なんだ長谷川!そこをどけっ、藤真を止めるんだ!」

「藤真、早く行け!」

「一志・・ありがとうっ!」

「ふ、藤真〜!戻れっ、戻るんだ〜!!」

 

・・・・・・オレは花形の決死の制止も聞かずに、

戦闘服でパンパンのスポーツバックを抱えて、学校を飛び出した。

 

 ***********************

 

やつはいつもこの坂を通って学校に行く。

帰宅も然り。そんなことは知っている。

だからオレはこの下り坂の下で罠をはる。待ち伏せだ。

でもあいついつも相当スピードだして・・・ってきやがった!

 

 

・・・て、やっぱりすごいスピードじゃねーか!

危ねーな少しはブレーキかけろ!

しかもやっぱりウォークマン聴きながら。俺の声なんて聞こえてないようだ。

周りの音聞こえなくなるくらいヴォリューム上げるのは危ねーからやめろって、あんだけ言ったのに!

・・・と、アイツが言って聞くようなやつじゃないことも、痛いくらいに知っている。

そんなアイツとつき合ってる。これからも、ずっとつき合っていこうと思ってる。

だから、いちいち怯えて、感傷的になって・・なんていられない!

そして今日のオレはやつに行動で分からせる。決闘だ!

オレは自転車の軌道に両手を広げ、101回目のプロポーズよろしくとび出し、命っきり叫ぶ。

 

 

「止まれそこの自転車、湘北高校1年流川楓!止まれ止まれ止まれ止まれ止・・!!」

「んだよ・・・げ!」

 

 

 

オレと認識?(したのか?)するや否やの急ブレーキ。

あと数十センチで衝突の距離。思わず冷や汗。

風圧で髪の毛が、短くしたスカートのすそが捲くれ上がる。

ああ、ヘンな感じ!!女子高生って、大変な職業なのかもしれない。

 

・・・そう、オレは本日限定で女子高生になったのだ。

オレにとっての決闘が、このことであるとは・・・花形も、知る由もあるまい(むしろ知られたら立ち直れない)。

このために、わざわざ一志の幼馴染の子のバレー部の友達の制服を・・って、苦労したんだ。

案の定流川も相当びびっているようだった。

オレの大好きな切れ長の目を、まん丸にして、声もなくヘッドホンをはずした。

よし!あの女子高生のぱんつのときより黒目のまん丸度、瞳孔の開き具合、圧倒的に高し!

そりゃそうだろう!?なんせ、オレ自身こんな格好してる自分がまだ信じられないんだからな!

勝った、オレは勝ったんだっっ〜!!

してやったり。だが・・・

 

 

「・・お嬢ブランドランキング1位の私立S女子高の制服だ!どうだ、流川!」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・だ、・・・ダメだった?」

「・・アンタ、そーいう趣味あったの?」

「アホか!んなワケないだろ変態か!」

「じゃ何、その格好」

「だって・・・女子高生が!パンツが!おまえが!」

「・・ハ?」

「おまえ、パンツ見てただろうが、この前、ホームの階段で!」

「・・!知らねー!」

「ホラ、心当たりあるんだ?見てたんだろ!」

「見えちまっただけだ!あんなキモいの思い出させんじゃねー!」

「え!?」

「・・もーぜってー見たくなんかねーんだよ」 心底怯えたようすでそう言う流川。

「うそ」

「ウソじゃねー!」

「マジで・・・」

「マジ」

「・・バカみてーじゃんオレ」

 

 

 

なぁ、今回のパンツ事件でさ、気づいちゃったの、オレ。

おまえには、オレしかいないってずっと今まで思ってきたけど、

でもそれは、まったくの裏返しだったって、気づいちゃったんだ。

オレに、おまえしかいなかったんだ。おまえ以外は、今も、たぶんこの先はもっと、到底考えられない。

だから、おまえをなくすわけにはいかないんだ。

おまえを失ったら、オレは・・・・。

 

 

・・だからこんなバカまでした。一生の恥になるようなことまで、できてしまう。

もう、怖くてしかたないんだ、おまえが、いなくなるなんて、考えられなくて。

 

・・急にだまってうつむいたオレに、 「おい」 ってひと言、掛けたおまえ。

顔を上げるとそこには、大好きな切れ長の目。いつもの流川。呆れても、冷めてもいなくて、真剣な目だった。

 

「どーした」

「・・オレには流川、おまえしかいないんだ。だから・・」

「何を、今更」

「え」

「アンタには俺。俺にはアンタしかいねー、 だろ」

 

 

小さなため息をついたあとの、はっきりした力強い口調でやつは、

・・・そう言った。

どあほーって、おまえの呆れた、冷めた口癖が聞こえてきそうな物言いで。

まるで、当たり前のことをいうように。

太陽は東から昇って西に沈む・・・みたいに、万国共通の・・人類普遍の原理でも告げるように。

何寝ぼけたこといってるんだ って、そんな様子に、オレは目が覚めた。

それでなんでかわかんないんだけど、涙が、出そうになった。

それに、あえて気づかないフリで、潤む目も、すすった鼻も、寒さのせいにして。

この強がりだけは、直らない。この決闘にオレは完全に負けているのに、それを見せなくして。

流川は、何も言わない。

完全にオレの負けなのに。

そもそもそこって、勝つとか負けるの問題だったんだろうか。

そう思って流川を見上げても、やっぱり何も言わない。

理解していない?人の気持ちなんて、わからないし、知る必要もない?

おまえは、それでいいよ。そこもひっくるめて、全部好きだ。

オレ、やっぱり、こいつのこと、すっごい好きだ・・・

 

 

 

「でその格好、寒みーのか」

「ああ?・・み・・・見るな!」

「それも今更」

「何してんだオレ!変態じゃねーか・・・」

「じゃねーの?」

「何!?」

「いーじゃんヘンタイ。あんたのスルことなら俺は、なんだって愛シテル」

 

 そして、

だいぶ前の、前言撤回。

オレが損してるってのは、ちがうのかもしれない。

『付き合ったら最後、 『つくされる』  なんて言葉とは無縁の人生の始まり・・』それは真逆の思い違いだった。

オレは世界一、つくされているのかもしれないから。この流川という男に。

だってそいつの恋心はオレだけまっすぐ向けられたもの。

オレだけに、まっすぐに。

 

『あんたのスルことなら俺は、なんだって愛シテル』 ・・なんて、

 

そのセリフ、マジでやばい。

 

反則じゃん。卒倒しそうだ。

 

 「それに、似合っテル。超、カワイイ」

「う・・・・」 

あ、まだ制服ネタは続いてるんだ・・嬉しいような、悲しいような・・・。

なんか、気持ちがぐちゃぐちゃ。

なんか恥ずかしいし、照れくさいし、嬉しくて、・・・

心がいっぱいいっぱい嬉しい雨で満たされて、抱えきれなくった分が涙で溢れ出るんだ・・って言ったら、

おまえまた、 そんなワケわかんないコト言っても愛シテル って言ってくれる?

そしたらオレ、ほんとうにこのまま溺れ死ねそうだよ・・・

 

 

 

泣き出してしまったオレを、流川がためらいがちに抱きしめてきた。

道端。抱き合うセーラー服の男と学ラン。なんだこれ。イカれてる。わかってる。

でも、離れる気なんてまったく起きないから、不思議だ。

 

「・・もう蹴らねーだろーな」

「・・んだよ、オレのすることなら・・なんだって愛してくれてるんだろ?」

「ぱんつ見るのとキックだけはもう2人ともシナイ。これでいーだろ」

「・・・いいんじゃない?」

「・・・・・・・・・・藤真サン」

「・・・・・・・・・・・・・流川ぁ」

「・・・ちょっとタンマ。やっぱ、左ハイして」

「は?」

「ハイキック」

「・・おまえ、マゾに目覚めたとか?」

「避けるから、ダイジョーブ。つーか、めちゃくちゃ痛てーからぜっってー当てんな」

「は?」

「パンツが見てーの、アンタの」

 

 

 

・・・そんな、あいかわらずなおまえだけど、オレも。

おまえがまたバカ言うから、言いそびれてしまったんだけど、オレも。

・・・『おまえのする事ならなんだって愛してる』 よ、流川。

 

 

・・・それから何日か後。

 

 

流川楓親衛隊がここのところ連日、お通夜のように落ち込んでいるらしい。

その理由というのが、

 

『みんなのアイドル流川くんが  S女子高のモデル!?女  と道端で堂々抱き合っていた!』 という目撃証言が、

そこらからまことしやかに飛び込んできたからである。。

 

・・彼女たちは血眼になってその 『S女子高の流川の彼女』 という人物を探し出そうとした。


 

・・・・が、それから1ヶ月。

流川楓親衛隊の必死の捜査にもかかわらず、

彼女の正体は以前不明のままである、という。

 

その代わり、

いつも流川楓の隣には翔陽高校の、モデルのように美しい藤真さんがいましたとさ、

というお話。

その女子高生の正体も、彼女・・・否、彼が異常にキック力が強いと言うのも、
流川本人以外誰も知らないのである。

ちゃんちゃん☆☆

 

 

参考文献・音源、およびBGM・・・blink182(3ピースパンクバンド。)の 『blink182』 (まんま)というアルバムの1曲目の Feeling This。
・・・この曲のPVがユニバーサルでフルで視聴できます。このPVの半裸で絡み合う学生2人を、流藤でお願いします。