モテ期ってのは、ホント突然やってくると言う。
しかも、ほんとうにどうでもいいときや、むしろそれどころじゃなくて、迷惑なときにかぎって。
一理あると思う・・・・・・まぁ、これはオレの経験上、の話だが。
自慢じゃないが、オレはよくモテる・・・・・と言われる。
しかし言われるわりに実感はない。
お人形さんみたいとかいわれるこの顔も、自分じゃコンプレックスの塊。
褒めてくれてても、イヤミに聞こえるくらいオレの神経は曲がってしまっている。
だからいつもそんなの、軽くかわすから、本気で取り合ってなかった。
・・・・・でも、それでもアマノジャクなオレはいつもどっかで『本気』を探してて。だけど。
『おまえが好きだ、藤真』
『おかしいと思われるかもしれないが、ずっとおまえのことが気になっていたんだ。友達やチームメイトとしてじゃなく・・・・』
1度に2人の男から告白を受けたあの高2の初秋。
オレはそれに対して本気で激怒し、本気で嫌悪した。
そして今は、本気で感謝している・・・・・。
人の気持ちに対して、よくも悪くも本気になることができた。
・・・・・・・いま思うと、あれがオレの本気のモテ期だったのだ。
everywhere3
オレに告白してきた1人目は、
海南の、そのときすでにキャプテンを引き継いだ牧紳一で。
2人目は、そいつから3日遅れで告ってきた、
同じ翔陽の副キャプ・・・チームメイトの花形透で。
いろんな意味で濃い2人だったな、といまでも思う。
・・そして告白から数カ月、濃い人物らによる濃いアタック(?)が繰り広げられたにもかかわらず、
オレの答えはただノーだった。始めからノーで、最後まで変わることもなかった。
オレは派手に見えるのかなんなのか、その手の噂が中学時代から耐えることはなかったが、
実は至って恋愛方面に免疫がなかった。
・・・・・恋愛に興味がなかったわけじゃないが、
受験とか進学とか、バスケとか監督業とか・・・それより先を行くものがいつもオレにはあったわけで。
もっと素直になれば、違った結果もあったかもしれない、と今なら思う。
・・・とくに、高2のあの頃。
どんな形であれ自分に好意を持ってくれたってのに、オレがあの2人に対して抱いたのは嫌悪・敵意・嫉妬だった。
男が男を・・・・っていう嫌悪はフシギとなかったが、
オレの言う嫌悪は、ある意味それよりずっとひどいと思う。
ざけんな。
オレはおまえをライバルだと、ずっと打倒おまえでやってきてるってのに。
おまえはオレをライバルなんて思っちゃいないんだろう??
所詮オレなんておまえの性欲の道具で、おまえの中でライバルなんてものには程遠いんだろう??
・・・・・・・・・牧に、そんなようなことをいった覚えがある・・・・。
嫉妬してた。
牧の完成された男としての肉体とパワーに。自分にはないものだったから。
自分の華奢で小さく、力のない体はずっとコンプレックスで。
・・・そんな自分の体に、ライバルであるはずの、追い越すべき頂であるはずの牧が欲情していると思ったら、吐き気がした。
バカにされているような気がしたのだ。
自分自身が情けなくて、悔しくて、涙がでた。
うるさいな。
これからオレはおまえらをまとめるためにやりたくもない監督業をやってくってのに。
全然関係ねぇ、くだんねぇ問題持ち込むんじゃねぇ。
オレはキャプテンだ。監督だ。
そのオレを、そんないやらしい目で見るんじゃねぇ。
・・・・・・・・・・・・・花形のまっすぐな思いに対して、そんな風に思ってた・・・・・・・。
冷たくあしらってた。
ひどい時期はオレが一方的に無視して部活以外で口をきかなかった。
みんなにケンカやめろよ、早く仲直りしろよっていわれた。
その言葉で気づいた。忙しくて色々ありすぎて、
当たり前のことすぎて忘れていた。
・・・・・・・オレたちは親友だってこと。
あのときのオレの思いや行動が、全部間違いということはないだろう。
でも、それにしてもひどかったんだ。
あのときのオレは、ほんとうに幼稚で、短絡的で。
牧がオレにそういう感情を抱きながらも、複雑ながらもバスケではオレをライバルと認めてくれていると知った時。
花形が部活に一切そういう感情を持ち込まず、割り切ってやろうとしているのを感じた時。
いっそのこと、牧にも花形にも恨まれたかった。憎まれたかった。
なのに、あいつらは結局最後まで何もなかったようにやさしくて。
・・・・・・今思い返しても顔から火が出そうで、隠れたくなる。恥ずかしくて、眠れなくなる。
結局はオレの自意識過剰劇だったのか・・・・って。
自分に好意を抱いてくれてる者を粗末に扱った、報復だったのかもしれない。
たしかに9月の始めで、ちょうど合宿から帰ったときで、
キャプテンに就任したときで、監督業始めたときで・・・・・・・
忙しくて、確かにオレには余裕がなかった。
でも、2人はそれを承知で告白してきた。
2人も忙しくて、余裕がなかったはずだ。
でもその中で、オレのことを思ってくれていた・・・・・・。
大体、忙しいってのも、
大学受験・・・部活・・・・勉強・・就職・・色々な選択・・・・・・
・・・・毎日の食事・・・・風呂、身支度の時間だって。
これからずっと・・・それこそ死にでもしない限り、
オレはずっと忙しいんだと思う。
忙しいって言葉に頼って、言い訳にして、あの2人の純粋でまっすぐな思いから逃げた。怖かった。
自分にはまだ理解できなくて、大人な感情だったから。
でも。
最近やっと気づいたんだよ。
恋って、煩わしくて、当たり前なんだって。
きっと胸がせつなく、きゅっとなるような煩わしさなんだってな。
その恋の甘い煩わしさを、オレは現実の煩わしさとごっちゃにしてた。
あのときみたく未熟で短気、面倒くさがりでなんにも受け入れられなかったオレには至難の業だったってことだ。
まぁ、今のオレがあの時とは違うオトナなオレで、成長して短気も面倒くさがりも治ってて、
今度はうまくいく!!・・・なんて保障ない。
・・・・・でも、オレは決めたんだ。
今度もし恋ってものが自分の前に現れたら、その時は、もう逃げないって。
・・・・・・・・・・でも、ほんとヘンなの。
可笑しすぎて顔がほころんでしまう。
いま思っても、
牧と花形がオレに・・・・・・・なんて、ほんとに信じられない。
夢だったのかって疑うくらい。
さらに考えると、・・・・・ぶっちゃけ、
オレは多分牧も花形も2人とも、好きだったんだと思う。
・・・・・・例えそれが恋ってのとは違ったのだとしても。
オレは面食いだけど、ふつうに2人とも色男だと思うし(本人たちには死んでも言ってやらないが)。
なにより、おまえらが教えてくれたから。
高校2年生の、あの時期に。
恋ってこと。人から本気で好かれるってことの、激情と幸福感を・・・・・・・。
まぁ、今となってはオマエ以外は考えられない!!とか、
お前がいなきゃ死ぬ!!とか死ぬほど恥ずかしいいことをたくさん言ってくれた2人にも、
どうやらちゃ~~んとコイビトがいるようで、ちょっとくやしいから、
ずっとこの気持ちはナイショにしといてやる。
・・だいたい、諦めんの早え~~んだよ。
まだまだ修行が足りねぇな。あんだけ拒否られたくらいでさ・・・・。
・・・・・・って、オレ、力いっぱい拒否ってたか。
でも、いいよなあいつら。
どんな感じなんだろ。
・・・・・『本気のコイビト』がいるってのは。
もし、もしだぞ??
もし、オレに『本気のコイビト』ができるとしたら・・・・・。
相手はもちろん運動神経バツグンだろ。ってか、バスケやっててほしい。
・・・・ん~~、年は同じか、下がいいなぁ(中学生は無理だけどな)。
コドモコドモしてない大らかで落ち着いたやつでさ。
だけどたまに甘えてくる感じがいいなぁ。
それから?
それから??
当然だけど顔もよくて??おしゃれで??
え・・・??背が高くて・・・・???
・・・それから・・・・・・・・・・・?????
・・・・・・「な~~に、にやけてるんですか、藤真さん」
「せ、仙道?!起きてたのかよ」
「幸せそうな顔しちゃって。何考えてたんです??」
「べっつに。なんでもねぇよ、遅刻魔さん」
「つれないなぁ~~」
・・・・オレはどうやら、完全にあっちの世界にいってしまっていたようだ。
ここが合宿場に向かうバスの中だってことをすっかり忘れていた。
しかもいつ居眠りから起きたのか・・・この男がとなりにすわってるってことも。
あ。
そういやコイツって。
「仙道」
「なんです??」
「おまえって、高2だよな?」
「・・はい??」
仙道が今さら何??って顔してる。
「そっか、高2か」
「・・・そうですけど、それがどうかしたんですか??」
「なら、許してやる」
「・・・何をです???」
高校2年生。
1番中途半端なとき。
オトナでもコドモでもないとき。
1番情緒不安定で、不安で。
でも、オレは1番好きな時期だった。
失敗しても次があって。
肩書きに囚われず自由にボールを追った。
初めて感情むきだしで、色んなことにぶつかった・・・・・・。
目の前のコイツ。
高校2年生どころか、高校生らしからぬ落ち着き。
でも。
上に着ている黒いポロシャツの襟が、片方内側に折れ曲がっているのをオレは発見してしまって。
こんな自分より10センチ以上もでかい男に、使う表現じゃないけど、
急にコイツが、頼りなく、幼く、可愛く思えた・・・・・。
しょうがないから許してやる。
オレにとって、高校2年生ってのはトクベツだから。
高校2年生ってのは1番むちゃするときだ。
失敗をするときだ。
そして学生のうちで、1番たくさんのことを学ぶときだ。
何より1番本気になって、楽しいときだ・・・・・・・。
ほかのヤツはどうなのか知らないが、少なくともオレはそうだった。
だから許してやるよ。
女とハダカで寝てた話を朝から聞かされた(これは越野のせいか??)ことも。
越野に精神的ショックを与えたことも(そもそも、オレが許すようなことなのかはもはやわからない)。
大事な合宿に遅刻したことも。
寝坊しやがったのに髪のセットと香水はちゃんとやってきてるとこも。
意味もなくオレのとなりにすわったことも。
・・・・・・1年前の合宿のときに、仮にも先輩のオレをからかったことも。
「許してやる」
もう一回、そう口に出して不敵に笑ってみせたら、仙道も
「・・ありがとうございます」
といって、あんまり納得のいかない顔のまま、笑った。
オレはその仙道の笑顔に、むかむかする煩わしさから自分が開放されていくのを感じた。
・・・・その代わりに、感じ始めたのは、
胸がせつなく、きゅっとなるような煩わしさ・・・・・・・・・・・・・・・・・・??
『もし、もしだぞ??
もし、オレに『本気のコイビト』ができるとしたら・・・・・。
相手はもちろん運動神経バツグンだろ。ってか、バスケやっててほしい。
年は同じか、下がいいなぁ。
年下だけど、コドモコドモしてない大らかで落ち着いたやつでさ。
だけどたまに甘えてくる感じがいいなぁ。
それから?
それから??
当然だけど顔もよくて??おしゃれで??
背が高くて・・・??
・・・それから・・・・・・・・・・・?????』
考え出してみたら妙に具体的だったオレの理想。本心。
・・・・・・・それってどこのどいつだよ。
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藤真さん、なかば無理やり恋に落としてみました~~!!(もう落ちたのか??)
『高校2年』が多様されておりますが、高校2年生までだったと思うんですよね、
藤真が自分の思い通りにバスケができたのって。
逆に2年の中頃(勝手にそう思ってます)からは監督も引き受けることになって、
先輩もいなくなって自分たちが1番上になって・・
・・・自由と拘束のギャップを1番感じたときでもあると思います。
SDって1、2、3年生の精神レベルがめちゃくちゃうまく書き分けられてますよね。
でも、2年生で約2名高校生らしからぬ落ち着きの人もいますが・・・誰のことでしょう(笑)??