合宿所は去年と同じ施設で、このバスで2時間も揺られれば到着する。
誰かさんのせいで出発が遅れたといっても、ほんの数分の話。
交通渋滞などなければ、ほとんど予定通りの時間にこのバスはあの合宿所に着くことだろう。
・・・・・・・ただ去年と違うし予定外だったことは、
オレの隣の席に、今朝も早くからお騒がせ者だった遅刻エロ魔が座っていることだった・・・・・。
everywhere2
(まったく、こんなに座席空いてるってのに・・・・・・)
・・・・朝から色々やらかしてくれた話題に事欠かないこの男が、
隣にすわっているのだからたまらない。
バスは自由席で、多くの者が1人で広々とすわっている。
・・・オレは後ろから3番目のシートの窓側に腰掛けた。
むしろ1人を満喫したかった。
・・・部活で監督とかキャプテンとかやってると、1人の時間なんて寝るときくらいしかとれやしないから。
なのに。何故だよ。
「ここ、いいですか??」
「え」
よくねえよ。
それが、言えなかった。
「おじゃましま~~す」
ときたもんだ。仙道のやつ。
オレのこの不機嫌な顔見て、気付け!!お前、遅刻魔だが空気は読める奴だろ?
たまにする読んでないような発言は、読んだ上でワザとやってんの、知ってるぞ。
そして、どういうワケか彼の中で今がその 『空気を読んだ上で読めなかったフリをする』時らしい・・・。
あーあ。隣に誰も座れないように荷物でも置いておくんだった・・・・
つーかなんで、仲良いどころかそこまでしゃべったこともない他校の先輩の横にわざわざ座るかね・・・・。
・・・・って、何考えてもくたびれ儲けに違いない。
また、深い意味はないのかもしれない。
なんたってこいつは『なんとなく』が得意な男だからな。それはすでに1年前の合宿で学習済みだ。
オレとしゃべろうと近づいてきたのではない証拠に、やつは
隣にすわるとすぐにヘッドホンをつけてウォークマンを聴きだして、早々と夢の中なのだ。
(ったく、寝るだけなら他でやれっての・・・)
別に仙道が横に来たからってしゃべることなんてないし、気まずいだけだから眠ってくれたのは不幸中の幸いだが。
でもほんとうにそれだけなら、何故オレの横にわざわざ来る必要があったのだろうか。
ちくしょー。ワケわかんない奴!!
田岡先生や越野からの避難、っていうのにもわざわざこんなとこ・・・・・・・。
(狭い・・・・・・・・・・)
オレはふつふつと沸くやり場のない怒りを感じていた。
それでなくとも今朝から越野にあんな話(理由がどうであるかは知ったこっちゃない)を聞かされて、
あまり偏見や差別をするほうでないオレでも、ちょっとは奴を『そういう目』で見てしまう。
ちょっと開いて寝息を立てている肉厚の唇によからぬものを想像してしまって・・・
もうコイツのほうを見ない、と決意したというのに、
今度はかすかにユニセックスっぽい大人の香水の匂いがオレの鼻をかすめてきた。
(合宿に・・・・遅刻までしといて色気だしてんじゃねぇよ!!!)
・・・・・それは1年前と変わらない、オレの好きな匂いだった。
正直いって。
仙道はオレのタイプだ。ほとんどオレのツボを正確に突いている。
ルックスもいいし、実は頭もいい。バスケのプレイスタイルなんて大好きの部類に入ると思う。
それに、なにより仙道の目が好きだ。
奴がいつも微笑んでいて物腰柔らか・・・・フワフワしてる、ってのは、本当に外見に限ったものだ。
・・・・奴の目の奥には、緑色の炎のようなものが見える、とオレは思う。
奴の内面には、激しい炎のようなものがいつも燃えたぎっているのが、オレにはわかる。
本当に仙道はもろ好みだ。しかし。
奴は、オレの恋愛対象となることはなかった。
それは、オレが1番求めるものに、奴が欠けていたからだ。
それは性別や背丈など、努力ではどうにもならないようなものではなく・・・。
1年前の選抜合宿のとき。
あのときは仙道と相部屋だった。
シャワーからあがって、髪の毛をタオルでがしがしやってて。
部屋でぼーーっとしてた。仙道は何かしらガサガサやっていたと思う。
その時・・・・・仙道が唐突に聞いてきたのだ。
「藤真さんって、恋人とかいるんですか」
「・・・・なんだ、唐突だな」
オレは、動揺してしまってそう答えるのが精一杯だった。
だって好みのタイプだったから。
仙道の瞳の奥の、緑の炎が好きだったから。
だってオレは仙道をずっと意識していたから。意識しないようにしてたのに、一生懸命。
そんなオレに、そんな質問、すんなよ。
・・・・・・・でも。オレの仙道に対する 好き は。
それはファンってくらいの『好き』であって、愛してるっていう、いわゆる『本気』ではなかった。
いや、『本気』に『なれなかった』のだ。
正直、オレの仙道への想いは恋擦れ擦れのところをゆらゆらしてたと思う。
それでも不思議と本気には、なれなかった。
それは仙道が男であるからとか、そんな理由ではないとわかっていた。
オレの本能が拒んでいるようでさえあった。自己防衛してた。
・・・・きっと本能で、仙道がオレにとっての危険人物であると悟っていたからなんだ。
1年経った今でさえ、わざわざ隣に座った仙道の質問の意図がわからずにオレはこんなにも動揺させられてる。
そう。あの時だって。
「どうしてそんなこと聞くんだ?」
「なんとなくですよ。で、どうなんですか??」
なんとなくかよ。こんなにオレはいろいろ考えたり期待したりしたってのに。
「・・・いないよ。そんなヒマない」
いないなら、おまえがなってくれるとでもいうのか?
仙道はちょっとすねたオレを見て、口の端をわずかに吊り上げてる。
こいつは・・・・・・・ほんとうに何考えてるのか・・・・・。
「・・・・へぇ、じゃあ好きなタイプってどんなんですか」
「・・・・・なんでそんなこと。そんなん知って、どうすんの?」
さすがにオレもこそばゆくなってきた。さらに次の質問では飛び上がりそうなくらい驚かされた。
「どうもこうも・・・相手が男でもいけるクチなんですか??」
「!・・・・・・・はぁ??!!・・・・・・・」
・・・・・・なんだってんだっっ・・・・・・
コイツは、ぼーっとして見えるけど鈍いほうじゃない。むしろ、むかつくくらい鋭いほうだ。
オレの気持ち知ってて、からかってやがるのか??
・・・・やばい、いまオレ、顔、ぜったい赤っっ・・・・・・・・・・・。
自分が意識してる奴にこんな質問されて、平然としていられるほうが不思議だ。
「・・・・・なんだよそれ・・・・・・本当にそんなん聞いてどうすんだよ」
やっとのことで答えたが、その声は不自然なほど掠れていたと思う。
でも、小さな期待と魅惑的に甘いかと思われたムードはすぐに消え去った。
次の仙道の言葉で目が覚めたからだ。
「え、別になんとなくですよ。いけません??理由なんてないです。ちょっとの好奇心かな」
・・・・・言い放ちやがった。
1回目の『なんとなく』なんて比にならないくらい、なんとなくいわれた。
どーでもいいけど、ヒマでどーしよーもない。だから聞いてみた、って感じだ。好奇心・ちょっとの。
それに、その残酷なセリフに驚いて見据えたやつの瞳の奥には、
オレの大好きな緑の炎は跡形もなかった。
・・・・・・・・本気の瞳じゃない。相手にされてない。
きっと奴にとっては、オレの返答だってどーでもいいんだ。
そう思ったら、急にあたふたしてた自分がバカらしくなってきた。
多分こういうやつだって、わかってた。
オレにとっての『危険人物』・・・『アソビ人』。
だから本気になれなかった、でも、
ほんと、本気にならなくてよかったよ。
ほんとにこういうやつだってことが、わかったから。
よかった、遊ばれて悲しいのもほんのちょっとだ。
おまえにメロメロのオレを散々いじめて楽しんで、
あわよくばオレとヤれるとか思ったのか??
残念ながら、自分でも悲しいくらいオレのプライドは高く、貞操観念は固い。
生憎アソビなんかにつきあってるヒマ、オレにはないんだ。
いくら仙道彰とでも、本気じゃないおまえとそんなことになるわけにはいかない。
・・・・・・ああ、おまえは天性のプレイボーイだよ。
こいつのこーいういい加減さに泣かされた女の子って、一体どのくらいいるんだろうか・・・・
そう思ったら、急にその娘たちの怨念が乗り移ったかのごとく、オレは仙道に対して腹が立ってきた。
なにより、吸い終わったあとの煙草みたいに、ぎゅって靴の裏で踏み潰されたオレのプライドが、煮え立ってる。
・・・・もう頭には、仙道を本気にさせられない(それどころか自分も本気じゃないが)オレ自身の責任でもあるという考えは、
完全に消えうせていた・・・・・・・・・。
オレは大きなため息とともにさっきまでの生ぬるい感情を吹き飛ばした。
そして大きな声で一気にまくしたてた。
これが仙道への仕返しになるかといったら、オレのことなんてどーでもいい奴にはなんのダメージもないだろうが、
なにか一言いってやらねば気がすまなかった。
「そうだな、オレの好みは・・・・・・・・まず顔がいいのは当たり前だろ。
もちろんオツムも、運動神経もだ。でも、男だとか女だとかくだらないこと以前に、何より・・・・・・・」
男だとか女だとかくだらない??なんて恐ろしい言葉を、オレは言っているんだろうか。
「・・・・・・・何よりなんです??」
突然ぺらぺら自分の好みについて語りだしたオレに驚いたのか、仙道が目を丸くしている。
仙道にこんな顔させただけで「仕返し」をした気分になれてしまうオレは、やっぱり仙道には甘いのだろうか。
でも、最後まで言ってやる。
「・・・・・本気でオレと向き合ってくれるやつ、かな」
どうだ、参ったか!!
・・・・・・・・・って、おまえが参るわけがない・・んだよな。
どーでもいいオレに、なに言われようとなにされようと。
案の定、仙道は『だから何』ってな感じにボーゼンとしている。
・・・・・・・でも、イヤだったし、腹が立ったから。
オレだってまだ本気の恋ってのに出会ったことなんかないけど、
どっかにきっとあるって、バカみたいだけど思う。
おまえ見てたら、
なんかヤケのやんぱちっていうか、屈折しすぎてるっていうか、
意地張ってるっていうか。
恋ってものなんてないって、本気なんてないって、
最初から決めつけて冷めてるタイプなんだろ、おまえ。
確かに相手からどんなに本気になられたって、自分がそうじゃなきゃ意味ないけど、
例えば、オレではおまえの本気を引き出せなかったけど、
おまえにだって、きっとあるんじゃないのか??どっかに、本気の恋ってやつが。
大人ぶってんじゃねーよ、まだオレたちガキだし、お前なんてオレより年下だろ。
・・・・・まぁ、とりあえず、オマエだってずっとそんな卑屈で、遊んでたらフラれることがあるってこと、覚えとけ、って思った。
オレで遊ぼうとした、安く値踏みしやがった罰だ・・・・・・・・って!!
・・・・・・・あのときの気持ち、今思ってもかなりめちゃくちゃだ。
もはやその時のオレには、仙道をフるなんて大層な権利、いつ持ってたのかなんてことは関係なかったんだろう。
・・・その後すぐになんとも言えない雰囲気だったその場は、花形からの合宿恒例『変わりないか』電話と、
月バスを持ってきてくれた牧の登場によって解放されたのだった。
オレにとってはどちらも天の助け、こんなことのあった夜にその張本人と2人きりなんて、オレには耐えられなかったから。
・・・自分が良く思っていた後輩に自分はなんとも思われていないなんて、面白くなくてしょうがない。
それでも仙道を恨む気になれなかったのは、初めからのあきらめか、彼特有のキャラなのか・・・・・。
あんなことがあった1年前から、試合を観たりすることはあっても深くかかわったことなどない。機会もない。
・・・・・オレは隣で悠々と眠っている、1年前よりちょっと背も伸びて雰囲気も一段と大人っぽくなった後輩をみた。
やっぱり、こいつのこと嫌いじゃない。悔しいがオレは基本的に仙道を気に入っているんだと思う。
真ん中は湘北エリア+海南の清田でにぎやかで、
桜木・流川のケンカの炎に海南の清田がさらに油を注いでいる。
仲が悪いなら離れてすわればいいのに。本当は仲が良いのか知らんが、どちらにせよにぎやかすぎる。
「ふぬ~~~!!!この野猿めが!!天才にむかって!!」
「うるせ~!!黙れ赤毛ザル!!!」
「・・・・・ハァ、どあほうが2人も・・・・・」
「ルカワ~~てめぇ!!!!」
何が原因かは知らないが(原因なんてなくても相性が悪い((良過ぎるのかも??))んだから仕方ない)
そんなガマン強いほうじゃないオレはだいぶイライラきていた。
そろそろ止めとくべきじゃないのか??と思ったそのとき、
「・・・・おまえら、いい加減にしろ!!」
オレの隣の、通路挟んだ対照の位置からだれをも黙らせるような威厳のある一言が飛んだ。
・・・・・・牧だ。
「ぐっっ・・・・すんません、牧サン・・・・・・・・・」
「でもよ~~、じい。もとはといえば野猿がだなぁ!!!」
「やめんか!!桜木ィ!!!!」
・・・・・・・さらに、赤木が桜木を一喝してくれたおかげで、事態は沈下した。
・・・・自分の怒りのバロメーターがだんだん下がっていくのを感じて、
オレは安心したときにも似た長いため息をついた。
すると牧がそれに気づいたようで、表情とジェスチャーで『悪かった』とやってきた。
気すんな――、代わりにちょっと微笑んでみせたら、牧も済まなさそうに笑った。
・・・・・翔陽が1人もいないこのメンバーのなかで、だれが一番気が知れてるかって、そりゃ牧だろう。
このとなりのつんつん頭のデカブツ(我ながらすごい言い様だ)がいなけりゃ、普通に会話しながら目的地まで行くってこともあったろう。
確かに牧は、オレの最大のトラウマだ。
最大のライバルで、バスケを続ける限りオレの中でその位置は今後も動くことはないだろう。それでも、
牧とは気が知れてる・・・と少なくともオレは思ってる。
(牧とは、それだけ、ホント色々あったからな・・・・・・・・・・)
約1年前くらいを思い浮かべ、オレはほくそ微笑んだ。
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花道出てきてます。背中悪くしたはずなのに;
それに、仙藤なはずなのに牧藤みたいな展開に・・・・;
鉄のパンツ装着な藤真・・本来は仙道になら遊ばれてもイイ!!と思えるくらいの仙道好き子のはずなのに。
今回の藤真はそんな自分の感情にも気付いてない、ニブい子。
1はちゃんとテーマ曲(勝手に)のミシェル聴きながらやってたのに、
今回はDragon Ash聴きながらでした・・・だからか?いや、関係ない。