・・・・・・・どうして遠くにいるのか教えて

  

あなたは何故そこにいて・・・誰なのか、教えて

 

だって、わたしが探すといつもあなたはいなくて

 

わたしが眠るとあなたは、いつもそこにいるんですもの

 

 

 

 

よく、夢にみる。

長身の、モデルみたいな体系の男が霧の中にいる。

霧がひどく濃くて、その男の顔は見えないのだけれど、

・・・・・・やさしい表情をしてるって、漠然とした核心オレにはある。

 

 

・・・・・・・そして、オレが男に一歩足をすすめるごとに

だんだん霧が晴れていくんだけど、

・・・・・・やっと男の顔が見えるくらいまできたところで、いつも目がさめてしまう。

 

 

今朝もそんな夢をみた。

神奈川選抜チームの合宿、第1日目、出発の日。晴天。

・・・・・・そしてオレはその男のことを知っていた・・・・・・・・・・・・・・???

 

 

 

 

 

everywhere1

 

 

 

 

 

「おい、あいつは間に合うんだろうな!?」

「大丈夫だと思います、携帯かけて起こしたんで。・・・2度寝とかしてない限り・・・」

「ええい!!何故一緒に連れてこなかったんだ!!こうなることは十分予想できたろう!?」

「・・・スミマセン・・・・・・・・・・」

 

 

陵南の田岡監督は朝から元気だ。

叱られているのは今年合宿初参加の陵南の越野。

・・・・彼が叱られているのは理不尽な理由だ、とオレは思う。

そして似たような光景が去年の今頃にもあったな・・・・と思い出していた。

 

 

翔陽から、今年の合宿によばれたのはオレ1人だった。

他校のやつとも普通にはしゃべれるけど、もともと何に関しても1人ってことにあまり抵抗を感じないオレは、

だれの輪のなかにも入らずまだ空いていない店のシャッターにもたれかかっていた。

なによりこの汗も枯れるような朝からの晴天に、こいつが気休め程度だが日陰をつくってくれてるから、離れられない。

夏生まれのくせに暑さに弱いオレ。

今日の天気ははっきりいって拷問だった。

・・・・・・・そしてその日陰のオアシスに、もう1人陰な顔をした男が逃げ込んできた。

さっきまでこってり田岡監督にしぼられていた越野だ。

彼はオレに軽くあいさつのようなものをすると、

小さなため息をつきながら、ずるずるその場にすわり込んだ。

こんな炎天下の中みんなが待たされているのも、越野が田岡監督に当たられていたのも、

すべて、あいつのせいなのだ。

 

 

「大変だな」

オレがそう一声かけると、越野がこちらを向いた。

朝からたまりません、って顔してんのな。

「すみません、他校の先輩たちまで待たせることになって・・・・」

「おまえのせいじゃないよ。それにもうメンバー集まってるったって、まだ集合10分前だろ??」

「でも、あと10分でここまで間に合うかどうか・・・さっき電話したら電車乗ってて今XX駅だってほざいてやがったから・・・」

「・・・ん~~、実に危険。ムリ、だな」

「ああ~~!!!もうっっ!!あの野郎っっ」

「でもアイツってラッキーだよな、遅刻とかしても叱られないキャラだろ??」

「わかりますか??」

「まぁ、オレらは去年の合宿でも同じように待たされてるからな、アイツに」

「~~~~あの野郎!!!」

越野は怒りで顔を真っ赤にさせた・・・・と思ったら、急に力が抜けたみたいにがっくりと肩を落として顔面蒼白になった。

 

「・・・おい、だいじょうぶか??おまえがそんな責任感じることじゃないだろう、

そんな一緒に連れてくるなんて責任ないはずだろ、

ガキじゃあるまいし1人でちゃんとこないアイツが悪いんだし・・・・・」

「・・・・オレ・・・・・・・」

越野が、蚊の鳴くような声で何かいった。

「なんだ、どうしたんだ??」

「・・・・じつは今朝、仙道をアパートまで迎えにいったんです。・・・・・だけど・・・」

「・・・・・・・??」

越野は何やら言いよどんでいたが、伏せていた顔をあげて、意を決したように言い放った。

「お、女が!!!」

「・・・オンナ??」

「女がいたんです、呼び鈴ならしたら女がでてきて・・・仙道が寝てるのがちらっと見えたんすけど、

・・・あいつ!!ハダカだったんです!!!!」

「・・・・・・あ~~・・・・・・・」

それって・・・・・・・・・・

「女の方も、寝巻きって格好だったんですよ!!!!」

「こ、越野。声でかいよ・・・・・・」

しかも、寝巻きって・・・・君ねぇ。

しかし。

・・・・それは・・・・ソウイウ事だよな。

 

それにしても、越野ってのは純情なやつのようで、顔をタコみたいに真っ赤にさせている。

彼の顔に湧き上がってるのは、友人を不潔だと思ったゆえの憎悪とか、羞恥とか色々で、内心穏やかでないようだ。

「・・・・・でもさ、仙道にもいろいろあるんじゃないのか??プライベートだろ」

・・・・・・ただでさえイロイロありそうなヤツだしな。

「確かに部活以外の私生活で何してようと勝手ですけど、許せないですよ!!そんなことで大事な合宿に遅刻なんて!!」

「まぁ、理由がそれでなくとも本来許されるべきじゃないよな」

「・・・オレ、情けないです・・・・・・・・・・」

「・・・・まあまあ」

「・・・・・・・・藤真さんにいきなりこんなこと言ってしまってすみませんでした・・・

よけい陵南の恥さらすようなことしちまった・・・・軽蔑されるようなこと・・・

オレ、興奮して・・・つい・・・・自分の中だけに閉じ込めといたら、爆発しそうで・・・・」

「・・・・ああ、気にしてないよ。いって楽になることなら聞いてやるから、もっとどんどん吐いてみろ。陵南の内部事情とか」

オレがいたずらっぽくニヤリと笑ってそうと、

「・・・・さすがに今ンとこそれしかないです」

と、初めて越野が力なくだが笑った。

「でも、こんなこといっといて何なんですけど、アイツほんとに時間にルーズだし、

気まぐれでどうしようもないけど・・・いいやつなんです!!!」

「ああ、わかってる。おまえは本当に苦労症だな。まぁオレも、人のことは言えないけどな」

 

仙道の不祥事(?)おかげで、越野としゃべることができた。

試合や会場で会って、あいさつこそ交わしたことはあるが、こんなにしゃべるなんてこと、

今日このときがなければ一生なかったろう。

越野自身だって、オレとこんなに(しかもこんな内容の話を)話したことを不思議に思っているはずだ。

・・・・どうしてかオレは、昔からよく相談事や打ち明け話をされるタチなんだ。

みんながそういう類の話を言い易いタイプみたいだ、オレって。カウンセラーにでもなろうかな。キャラじゃねぇか。

 

2人で意味もなく見つめあって笑いあったところに、日向の合宿集団から騒がしい声があがった。

どうやら、つんつん頭(寝坊しても遅刻してもセットしてくるんだな)の遅刻魔が到着したようだ。

腕時計を見ると8時05分。集合時間を5分オーバーしていた。

確か去年は分単位じゃすまなかったから・・・・・・まぁ、上出来か。

 

「全員集合!!!!!」

田岡監督が大声を張り上げた。

 

越野は今朝の自分の正しい行い&心の平穏を見事に崩してくれた真犯人の登場にまた顔がひきつっていが、

オレがぽんっっと背中を押してやったらまた力が抜けたように、ちょっと笑った。

「・・・よし越野、いくぞ!!」

「・・・・・・・はいっっ!!!!」

オレたちは再び直射日光のもとへと飛び出した。

 

・・・・・・全員、監督らを取り囲むように円になった。

出発にあたって、今回の合宿の概要と本日のスケジュールを田岡監督がしゃべり始めた。

熱くて熱くて、話が早く終わらないかなってばかり思ってて。

けだるく視線を上げた先に、涼しい顔したつんつん頭のスケコマシ野郎がいて。

オレはそいつを、小さな怒りと疑問に囚われて見ていた。

そう、小さな疑問。

この前のIH予選中とかじゃない。

もっと、違う場所。

もっと、最近。

もっと、何回も。

・・・・・むしろ、いつも。

・・・・・・オレはおまえに会ってた気がするんだ。

 

 

 

 

 

高校最後の合宿。

・・・・・・・・まだ、始まってもいない。

 

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タイトルは、大好きなMICHELLE BRANCHの曲より。

 この曲聴いてて思いついたお話です。まだ続きます。

 私は音楽聴いててもすぐに藤真に結び付けてしまうんですが、

 ミシェルの曲はその効果がさらに高まります(?)。

 何聴いても、何見ても根底は藤真です。

 湧いておりますな、わたしの頭は・・・・・・・・・:。