俺にはわかる。
この予想はおそらく当たっている。
『彼は俺に気がある』、というこの予想。
『ちょっと遊んでみたい』・・・・・・・・・・・
そんな風に、ゲームみたいにお気楽に考えていられたのはいつの頃までだったか。
・・・・・ミイラ取りがミイラになる。彼を落とすつもりが、自分が落ちてしまっていた。
いつの間にか、俺は彼に『ホンキ』になっていたんだから・・・・・・・・・・。
EVERYWHERE1
俺が藤真さんと初めて会ったのは、俺が1年、あの人が2年の、
IH予選前の練習試合だった。
世間知らずの俺でも一応彼のことは前から知っていた。
とはいっても、聞いたことのある程度だったが。
いざ試合となって、俺たちが1ゴール差で負けた。
・・・・・・正直いって、それ以外のことはそんなに覚えていない。
彼の印象、といっても、
・・・・・・見かけが思っていたのとは大分違ったなってことくらい。
『神奈川NO1ガードの双璧』・・・・なんていうから、
ごっつい奴がでてくるんだろうって踏んでた。
・・・・・・・・だから、彼を見たときは拍子抜けした。
とても年上には見えない、バスケしてそうには見えない、
バイオリンなんか弾いてるほうが似合う、みたいな小奇麗な坊ちゃんじゃん、ってね。
あとは、プレイって言っても、
あの時マークでついたのは俺じゃなかったし。
・・・・・たしかにあのスピードとパスワークはウザいなと思ったけど、
それでも他のスタメンよりうまいってだけで、
・・・・・・正直いって俺はそのときは、彼になんの魅力も、可能性も見出せなかった。
そのまま、他校の先輩後輩という関係のまま、何もないはず終わっていく俺たち
・・・・・・・・・・・・・・・・に転機が訪れたのは、それからほんとに間もなくだった。
IH予選。俺は見てしまったのだ。
『ホンキ』の彼を。
海南対翔陽戦。
IH予選最後の試合だった。
すでに俺たち陵南と武里とで3・4位が決定していた。
つまり海南と翔陽はともに1・2位通過は確実だった。
だからといって、試合が生ぬるいものになるとは俺も思っていなかったけど。
・・・・・・実際は、予想以上のすさまじさだった。
全試合のなかで1番白熱していただろう。
なかでも、両校のポイントガードが。
そしてそのなかでも。
彼の方が。
俺ら、陵南とやったときに翔陽が、彼が、本気じゃなかったってことではないと思う。
でも、完全に本気ではなかったに違いない。
その試合での彼は、すでに本気というのを超えていた、と俺は思う。
そんな風に彼をさせたのは海南という彼にとっていわくつきの相手という思い入れと、
彼と対峙していた神奈川の帝王への桁外れのライバル意識、というのに気づいたのはもうちょっと後だったが。
コートと離れている観客席であっても、それが伝わってきた。
彼の瞳の奥には緑色の炎が燃え上がり、
身に纏うオーラは殺気という言葉では表せないほど研ぎ澄まされていた。
・・・・・・俺は、試合中彼からひと時も目が離せなかった。
試合が終わるころには、彼は・・・・・今思うと『完璧』に俺の心に良くも悪くも根をはっていた。
そのときには、自分でも気づかなかったけれど・・・・・・・・・。
自分たちには本気じゃなかったのに、海南には、牧さんには・・・・・・・・。
むかついた??ああ。
でも、ほんのわずかだ。
彼に興味を持ったのは、そんなチンケなライバル意識や屈辱からじゃあない。
彼に興味を持ったのは、あの『ホンキ』。
人形のようにおキレイで、繊細に見えるのは外面だけ。
彼の内面に、緑の激しく燃えたぎる炎が見えたから。
その色や激しさに俺は惹きつけられた。
こんな人、初めてだった。
あの炎はどこからくるのか。
触れたらどうなるのか。
もっと燃え上がらせられるものなのか。
あの炎を消したら、あの人はどうなってしまうのか。
・・・・・・・俺は怖いもの見たさにも似た感覚に浸っていた。
・・・・・・・・彼に、藤真さんに近づきたいと思った。
その自分の感情を深く考えることもせず、
ただ、その溢れ出す興味から、軽い気持ちから、
『・・・・・・ちょっと、付き合ってもらおうかな』。
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続きます。