―――すれ違いざま、知らねー男。

を、目で追ってる、

ことあるゴトに俺を子ども扱いしてくるところがすげームカつく、

でもくやしーがキレイで賢くてすげー好きなコイビト。

 

BLACK HAT

@)kid's a creeping            そいつは変わりモノ。

「おい、何見テル」

「あ?」

「今の男、好みか」

「はぁ!?」

「そうなのか」

「・・何言ってるんだよ」

―――ヤキモチ妬いたときだけはよくしゃべる。

今も、突然まくし立てたと思ったら

「もう、いい」 って言ったっきり、

歩幅を半歩大きくしてオレの斜め前をずんずん歩き始めた、

年下で無口で無愛想で、でも相当イイ男なオレの恋人。

そして、この男の特技のひとつに 『思い込み』 があるということを最近知ったオレ。

 

やれやれ、

通常時だって、おまえのコンパスに合わせるためにオレがどれだけがんばって歩いてるか・・

・・なんて、

今のおまえには言うだけムダだろう。

 

――この距離が広がってしまう前に、早急に誤解を解くのがいい。

そう、呆れるほど単純なこの男の誤解を解くには・・・

・・はっきりと否定して、事実を述べる。

これに限る。

  

「待てよ流川――オレはさっきの男なんて見てない。

もちろん好みでもない。

というか顔も見てない、故に覚えてない。

オレはやつがかぶってた、クラシックハットを見てたんだ」

「・・・く らっしっくハット?」 

足を止めたルカワ。                  

オレにあいかわらず背を向けたまま、顔だけちょっと後ろにひねって。

その隙を見逃さず、すかさずオレはヤツのデカいずうたいの前に回り込んだ。

「ぼうしのことだよ、ボ ウ シ。アンダースタン?」

「・・そのくらいわかる、バカにすんな」

アホか。

『くらしっく』 がよくわかんねーだけだ。

ガキ扱い、すんな。

なんだそのよーちえんの先生みたいな口調。

2つくらい上だからって、えらそーに。

 

やば!また地雷踏みかけ。

今日は危険日か?

・・って、意味ちがうか。

でも、なんだかいつもに増して危ないこと続き・・なこの男との会話。

やつはそう、、、まるで時限爆弾のよう。

そしてルカワ爆弾処理班、新米隊員のオレは今日も闘う。

 

「待て!まてまてまてまて!

さっきの男の人がかぶってただろ、黒のハット・・中折れ帽子!

それがイイなと思って見てただけだ!」

「あ、そ。なんでもいいからそこどいて」

「イヤだ!――だって、、だって考えても見ろ、

オレの横にはこんなイイ男のおまえがいるってのに、

なんでオレが・・他のヤツに構うヒマなんてあるわけないだろ!」

再び猛スピードで歩き出そうとするこの大男を両手で押し留め、

ほとんど叫ぶようにして言い聞かせる。

・・なんて馬鹿力だこの野郎!

夜で人がまばらとは言え、

公衆の面前でなんて恥ずかしいことさせるんだ。

 

!とととっ・・・いきなりの急ブレーキ。

オレは勢いあまってヤツの胸ぐらに衝突した。

鼻、痛い。

 

だが今のセリフはさすがに利いたか。

オレがこんな恥ずかしいこと口にすることなんてめずらしいんだから、

そのくらいの威力を発揮してもらわなきゃ困るけど。

 

「・・でもアンタ見てただろ実際」

「見てました、 『男のかぶってるボウシ』 を、な」

「でも、ボウシは見てたんだろ」

「ああ!?」

「見るな、俺以外」

 

ボウシにヤキモチ。

 

おまえね・・・

おまえ以外の誰かがそんなこと言ったらオレ、

もう一生そいつと口きかないかもレベルのセリフだぞ、それ。

人どころか物も見るなって、オレにどうやって生活しろっていうんだ?

 

でも

でもでも、

 

「わかった」

そんなの物理的に無理、ってわかってても、感情的にはOKしてるオレ。



おまえのそんなところが、好きだから。もっと独占欲見せて。オレに。オレだけに発揮して。

 

・・・ルカワの腕に自分の腕を絡ませて、すり寄ってみる。

夜道は人を大胆にさせる。

オレみたいな普段淡白すぎるような人間も、例外では否。

「あつい」

藤真サンに、腕を組まれた部分だけ。なんで。

「そうか?でもオレはさむいもん。ダメ?」

「・・勝手にすれば」

照れんなよ。

もとはといえば、おまえのせい。

おまえのヤキモチのせいだぞ。

 

オレだって、照れくさいんだからさ。

嬉しくて、どうかなっちゃいそうなんだからさ。

いいかげん、機嫌直してくれよ。

機嫌直して・・・

・・・イチャイチャしたいから、なんかオレ、今日。

 

今日のオレ、


なんだかおかしいな、おかしいな・・・



腕時計に目をやる。AM0:00。



11月4日。今日って、なんかの日?オレをおかしくする日?



思い出せないけど、思いつかないけど・・とりあえず、




おかしいまま、ルカワ爆弾とイチャこく。

・・・ダメダメ爆弾処理班 藤真隊員、ちょっと危険なオトコがお好み。

 

あー、相当ムカついた。

黒のボウシ。ただのボウシ。

あんなもんに、アノ人の視線持ってカレタ。許せん。

いっそアンタの目、オレしか見えねーならいいのに。

ケド、

なんか知らねーけど今、めずらしくアンタは俺に甘えてる。

こんなんなるんだったらアレも悪くナカッタのかもしれねー。

 

黒の・・・黒のくらしっくはっと。

 

*****************************************

『ポークパイハット』をご想像いただいて読んでいただけるとありがたいです。

真ん中がへこんでて、淵が少しめくれあがってる中折れ帽子です。

(中折れ帽子とは、『山高帽の頂を前後にくぼませてかぶるフェルト製の紳士帽』 by『国語辞書(大辞泉)』)

英国の紳士がかぶってるようなやつです(この話では)。

『クラシックハット』 が何なのか、実は私にもよくわかりません;語調が好きで使いました。